カールの罠

「大丈夫かいエリエ? 少々飲み過ぎてしまったようだけど」

「変なところを見せてしまってごめん。でもそれもカールの家だと実家と同じぐらいリラックスできるという証拠よ」

「嬉しいことを言ってくれるね」


 エリエは今日、カールの家であるキンベル家の夕食会に招かれていた。

 最初に会って以来、エリエは何度もカールと会っていた。ある時はエリエがカールを招き、ある時はカールがエリエを招き、また高級なお店で二人でご飯を食べることもあった。


 そんな風に二人の距離が近づいたせいか、エリエは何度目かのカールの家での夕食会で飲み過ぎてしまい、カールの部屋で介抱されていた。


「改めて今日も来てくれてありがとう、エリエ」

「ううん、私も嬉しいわ」

「ところでうちは飲み過ぎてしまった時に酔い醒ましに使っている薬があるんだ。ちょっと匂いがきついけど飲んでみて」


 そう言ってカールは粉薬とコップに入った水を差し出す。

 酔っていたエリエは粉から漂う強烈な匂いに眉をひそめたが、そういう薬なのだろうと思ってしまう。そしてエリエは一気に薬を飲み干す。


 それを見てカールはにやりと笑った。

 直後、エリエはなぜか体が熱くなってくるのを感じる。最初は酔いかとも思ったがそれとも違う。まるで目の前のカールにむさぼりつきたくなるような感覚だ。

 もしや、と思ってエリエはカールを見つめる。


「カール、もしかしてさっきの薬」


 エリエが尋ねるとカールは笑い始めた。


「あはははははは、やっと気づいたようだね。全く困ったんだ。どの薬屋に行ってもばれにくい媚薬を作ってくれないものだから、もう普通の飲み物に混ぜるのは諦めることにしたんだ。そうは言ってもいきなり薬を飲ませるのは不自然だからまずは酔わせようと思ったけどこれは拍子抜けするほどうまくいってしまったな。ちなみにその匂いは本当に酔い覚ましの薬だよ。混ぜれば媚薬の匂いと味は消えると思ってね」

「そんな、何でそんなこと……」


 エリエは呆然とするが、薬を盛られているせいか頭は全く回らない。


「何で? 決まっているだろ? 僕は貴族だ。自分の家を大きくするためには何でもやるってことだよ」

「ど、どういうこと!? 私に薬を盛ってどうするつもり?」

「ほら、体が火照ってきたんじゃないか? 結構な量の薬を盛ったから我慢出来ないはずだ」

「そ、そんな……」


 エリエは首を振って意識から追い出そうとするが、どんどん薬が回ってくるせいか体、特に下半身の火照りが強まってくる。

 そんなエリエを見てカールは勝ち誇ったように言う。


「君は今したくてしたくてたまらないはずだ。だがそれには一つ条件があってね」

「な、何よ」


 エリエはカールを睨みつけようとするがうまくいかない。


「はは、そんな目ですごんでも全く怖くないね。それはさておき、例のセシリア追放事件があっただろ? 君は真相を知っているんじゃないか?」

「し、真相って何?」

「僕も知らないけど君かクロードのどちらかがセシリアを嵌めようとして仕組んだんだろう?」


 カールはカールで、セシリアの件を聞いて疑問を抱いていた。

 そしてたまたまセシリアの薬屋に行って思った。自分に媚薬の一つも売ってくれない女が婚約者に毒など盛る訳がない。ということはエリエかクロードのどちらかが、もしくは共謀して彼女を嵌めたのだろう。


 そのためエリエに真相を言わせてそれをネタに脅迫しようと思っていた。


「そ、そんなこと……」

「ほら、早く言っちゃいなよ。そしたら俺とヤらせてやるよ。楽になりたいだろ?」


 そう言ってカールは一枚の紙を取り出す。


「ここに真相を書いてサインしてくれたら終わらせてやるよ。そうでなければ今夜はずっとこのままだ」


 それを聞いてエリエは絶望した。すでに普通に使う量の数倍の薬を飲まされたエリエは体がうずいて仕方なかった。


 数分ならまだしも一晩我慢させられれば気が狂ってしまうだろう。

 仕方なくエリエは震える手でペンをとる。

 そして紙に、クロードと共謀して自分がセシリアの紅茶に毒を仕込み、さらに部屋に毒を隠したことを書いた。


「こ、これでいい?」

「うんうん、上出来だ」


 カールは紙を見て満足そうに微笑む。これをネタに脅迫すれば二人の実家は自分の言うことを聞かざるを得なくなるだろう。


 満足したカールはエリエの服を脱がしにかかるのだった。

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