Ⅳ
戻って来た日常
紅熱病は王都全体を騒がせ、私個人としてもアディントン公爵家では色々なことがあったものの、どうにか病気の解決にほどほどに貢献しつつ無事に帰ってくることが出来ました。
お店を開いてからわずかな期間しか経っていませんが、見慣れた建物が見えてくると少しほっとしてしまいます。
「送っていただきありがとうございました」
「こちらこそ手伝わせてしまってすまなかったね。また何かあったら来るよ」
私を送ってくださった殿下はそう言って王都へと戻っていきます。
久しぶりに、とはいってもたった数日しか経っていませんが、我が家兼お店に戻ってくると、入り口には『この店の薬師、公爵家にて公務中』と書かれたお札が貼ってありました。
「あれ、セシルさん戻って来たんですね!?」
するとちょうどお店に向かって歩いてきたサリーと出会います。
「はい、そうですが……サリーはどうしてこちらに?」
「一応セシルさんがいってしまった後も一日一回はお店に来て軽く掃除だけはしていたんです。あと、時々出入りしている方が防犯にもいいかもと思ったので」
「すいません、そこまで気をまわしてもらって」
サリーは商会の娘だけあって気が回ります。後のことを全く気にせず出てきてしまった私としてはとてもありがたいです。
そこでサリーは私が家の門に貼られているお札を見ていることに気づきました。
「これでしたらセシルさんが行った二日後に公爵家の方がやってきて貼っていかれたのです。同じお店を空けているというのも、公務であることが分かれば街の人々にも悪く思われることはなくなりますし、防犯にもなるだろうと」
「なるほど」
確かに急に店を空ければ、急用で薬を買いにきた方にとっては「自分は急病なのに呑気に休みやがって」と思われてしまうかもしれません。また、高価な薬などが置いてある(かもしれない)以上泥棒に入ろうと考える者も出てくるでしょう。
そう考えると公爵の配慮はとてもありがたいです。
「とはいえ紅熱病の件もどうにかなったようで良かったですね」
「そうですね。もし感染が広がれば大変なことになるようでしたが……最初に発症したのが公爵家だったのが不幸中の幸いでした」
もし兵士などに感染していて、発症しないまま酒場や娼館などで遊び歩いて感染が広がっていれば大変なことになっていたかもしれません。
「では早速再開の準備をしましょう」
「はい!」
お店の中はサリーが掃除に来てくれていただけあってきれいなままに保たれていました。商品やお金なども確認してみましたが、盗まれている様子はありません。
ただ、店を出る直前も紅熱病薬の調合で忙しかったこともあって店内はかなり品薄になっていました。お店を再開するのであれば商品を調合しなければならないようです。
一日くらい休養兼準備にあてようかとも思いましたが、待ってくださっているお客さんのことを考えてやめました。店を空けたのは仕方ないことですが、病気が待ってくれる訳でもありませんので。
「……サリー、もしかしたら今日も長い夜になるかもしれません」
私が言うと、サリーは苦笑します。
「戻ってくるのを見たときからそんな気はしました。買い出しでも手伝いでも何でもしますよ」
「ありがとうございます。では買い出しと、ついでにエレンにも声をかけてきてもらっていいでしょうか? 明日からはまた来てください、と」
「分かりました」
その後、サリーに材料を買いにいってもらい、品薄になっていた常備薬や、頼まれていた薬でまだ準備出来ていなかったものを慌てていくつも調合します。
こうして私は帰って来たすぐの日から夜遅くまで働いたのでした。
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