営業再開
「おはようございます、お久しぶりですね」
「久しぶり」
翌朝、一週間ぶりにエレンと会いました。
思えば、元々エレンの父親が紅熱病を発症してその後私は病気がはやるような気がして薬を作り、それでエドモンド殿下の役に立てたというのが今回の件の発端でした。
「そう言えばエレンのお父さんは大丈夫でしたか?」
「はい、おかげさまで今はすっかり普通に生活しています。とはいえあの病気があんなに広がるとは思いませんでした。もしかしてあれってお父さんが原因だったのでしょうか?」
エレンが不安そうに言います。
もしかしたらここ数日ずっと気にしていたのでしょうか。
「いえ、そんなことはありませんよ。お父さんから移ったのではなく、現地で感染した方が複数人いたというだけだと思います」
「良かったです、帰ったらお父さんにそう伝えておきます」
エレンはほっとしたように言います。
確かにエレンのお父さんが一番に発症してその後公爵家での事件が起こったため、時系列だけ追っていると原因に思えてしまうのでしょう。
「さて、久しぶりだから忙しくなると思いますよ。とりあえず昨夜調合した分の配達をお願いします。一応遅くなったので一言謝罪してから届けてくださいね」
「分かりました!」
私はエレンに頼まれていた分の薬を渡します。
「それじゃあ店を開けましょうか」
「はい」
私はサリーとともに店を開けます。
すると店の外には開店前から何人かの人々が待っていました。
「紅熱病の件、無事解決して良かったね」
「ここ数日、どこの薬屋もろくに営業してなくて困ったよ」
そんなことを言いながらお客さんたちがぞろぞろと入ってきます。
そんな中に私は見知った顔を見かけました。
「やあ、久しぶり」
「トールさんも久しぶりです」
「名前を覚えてくれたのか、嬉しいな」
「最初のお客さんですからね」
彼は行商人のトールという方です。店を開けてすぐに来てくれ、その後も常連になってもらっただけでなく、一度クリフが店にやってきて色々言って来た際は撃退してくれました。まあその時彼はクリフが本物だと知らずに追い返したようですが。
「店を開いたばかりなのに偉い貴族のところに呼ばれるなんてすごいな」
「いえ、たまたまですよ」
殿下と接点があったのも最初は偶然の積み重ねのようなところがありました。
「最初からこのお店には目をつけていたんだが、まさかこんな急激に繁盛するとはな。ところで一つ相談があるんだが」
「何でしょう?」
「ここでたくさん薬を買って行商のついでに他の街で売りさばいてもいいか?」
「私の薬は他の街の物よりもいいんですか?」
どこの街にも薬屋ぐらいはあると思っていたので、行商してそんなに売れるとは思っていませんでした。
「そうだね、ラタンは都会だから薬屋もいっぱいあるけど田舎に行くと街で薬をまともに作れる人がいないなんてこともある。それに薬は小さいから持ち運ぶのも簡単なんだ」
確かに私はずっと王都で育ったのであまりそういう田舎街には行ったことがありません。
「そういうことでしたらもちろん構いません」
「それならちょっと今日は多めに買っていこうかな」
そう言ってトールは胃薬や風邪薬などを十袋ずつぐらい買っていきます。
ありがたいとは思うのですが、またすぐに作らなければならないな、と内心嬉しい悲鳴をあげるのでした。
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