クロードの憂鬱
「ごほっ、ごほっ」
一方数日前、自身の父親が紅熱病を発症している間にクロード自身も咳に苦しんでいた。
「大丈夫ですか、おぼっちゃま」
当初はエリエに気を遣って医者にはかからないようにしようとしていたクロードも、最近はそれどころではなくなっていた。
所かまわず咳が出るようになってしまい、今も執事に心配されている。
「ああ、大丈夫だ」
「申し訳ございません、医者を呼ぼうにも情勢が……」
現在カンタール伯爵家の医者は紅熱病にかかった父のために公爵の屋敷に出向いていた。そのため屋敷にはお抱えの医者がおらず、しかも町中を探しても手が空いている医師などいるはずもないため、クロードの咳は放置されていた。
せめてセシリアがいなくなってすぐ後にエリエの言うことを無視して医者に行っていればこんなことにはならなかったが、クロードはそのことを恨むのはやめようと思っていた。
だが、そこで脳裏にエリエの姿が思い浮かぶ。
「とりあえず安静にしてくだされ」
「分かった……ならばせめてエリエを呼んでくれないか? それに彼女の実家になら医者もいるだろう」
「はい」
クロードはしぶしぶ自室に戻り、ベッドの上に横になる。本でも読もうかとも思ったが元々好きではない上に咳で苦しいので内容は全然頭に入ってこない。すぐにクロードは本を投げ出した。
(せめてエリエが看病してくれれば……)
セシリアと違ってエリエはクロードにぞっこんでこっそり会っているときはいつも愛をささやいてくれたし、顔も可愛かった。せめてエリエが隣にいればこの苦しみも紛れるのではないか、と彼は思う。
それから少しして、自室のドアがノックされる。
それを聞いてクロードは期待する。
「エリエか?」
「いえ、おぼっちゃま、エリエ殿はしばらく所用のためお忙しいと」
執事が申し訳なさそうに言った。
それを聞いてクロードは目の前が真っ暗になる。
「それは……今日明日だけではないのか? 数日後でもだめなのか?」
「はい、お忙しいとのことで……それでは」
そう言って執事は申し訳なさそうに去っていくのだった。
それを聞いてクロードは絶望した。
なぜならセシリアを追い出して以来、クロードとエリエは数日おきに会っていたし、エリエが特に習い事などで忙しいという話も聞いたことがない。
大体、恋人である自分がこんなに苦しんでいるのに他に優先することがあるというのだろうか。
そこでふとクロードはセシリアのことを思い出す。
彼女は別に派手なお茶会を開いてくれたり、高価なプレゼントをくれたりはしなかったが、クロードに何かあるといつも心配して駆けつけてくれていた。
いちいちそのたびに特別な感情を抱くことはなかったが、今思うと彼女は優しい性格だったのだろう。
(もしかして……僕は相手を選び間違えたということか? いや、そんな訳がない、セシリアがエリエよりいいなんてそんな訳がある訳ない!)
「ごほっ、ごほっ!」
そしてその事実によるショックがクロードを気落ちさせたせいか、クロードは次第にベッドから起き上がれなくなっていくのだった。
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