反応

 それから数日の間、私たちは薬を作り続け、本邸の中にいる人々にも徐々に薬が行きわたっていきました。


 殿下や他の貴族が結構な薬を確保し、公爵も私や他の薬師にかなりの勢いで薬を作らせていることが分かると紅熱病に脅えて医師を抱え込んでいた他の貴族たちも徐々に自家で抱え込んでいた医師たちを公爵の元に派遣してくれるようになりました。


 そのためそこから病人の治療と検査は急速に進み、数日すると数人の病人を残してほぼ紅熱病の治療は終わったのでした。

 また、公爵の屋敷以外でも何人かの南方帰りの者が紅熱病を発症するという事件もありましたが、公爵家の件で紅熱病の対処法や治療薬が知れ渡ったせいかすぐに解決に向かうのでした。




「それでは皆の者、長時間拘束してすまなかった。また何かあればよろしく頼む。もっとも、もうこんなことはないといいのだが」


 最後の日、公爵は私たち薬師を集めてそう言いました。

 それを聞いて他の薬師たちは次々と帰る支度をしていきます。他の薬師が皆帰っていくと、公爵が私に尋ねます。


「あの時恩賞はいらぬと言ったが、おぬしはこれからどうする気だ?」

「思ったよりも長く店を長く空けてしまったのでお店に戻ろうと思います。私の事件を審議し直していただくのも恩賞に含まれていたことですよね?」

「それはそうだが……」


 そう言って公爵は驚きました。

 あの時はああ言ったものの、本当に私が何も要求しなかったから驚いているのでしょう。とはいえ私は別に謙虚な気持ちで恩賞を辞退しているというよりは、このまま帰ってしまえばまた平和な薬屋生活に戻れるのではないかという打算があったというだけです。ここで変に何かを要求して面倒なことに巻き込まれるぐらいなら潔く全てを辞退して薬屋に戻る方がいいような気がします。


「まあそこまで言うなら無理には言うまい。ただこれは恩賞ではなく、数日店を空けさせた迷惑料だ」


 そう言って公爵は私に金貨袋を渡してくれました。

 確かにそれでしたら辞退する理由はありません。お金でもらうのが一番ありがたい、と思ってしまった自分はすでに考え方が商人に近づいているのかもしれません。


「ありがとうございます」


 そして私は袋を荷物の奥にしまうと、部屋を出ます。

 するとそこには数人の貴族が待っていました。以前は公爵家に近づく者は全然いませんでしたが、今では病気の決着がついたせいか、様々な者が見舞に訪れています。

 するとそのうちの一人が私に声を掛けます。


「私はセレスティア子爵家のガボルと言う。そなたの話を聞いたが、よろしければうちの専属薬師にならないか?」

「いえ、しかし私は追放された身ですし……」


 突然の誘いに驚いてしまい、婉曲に断ろうとします。


「どうせ冤罪だろう。我が家で働き、ほとぼりが冷めたところで冤罪を訴える手助けをしよう」


 罪を理由に断ろうとしましたが、かえって熱烈に勧誘されてしまいました。


 他の薬師の中でも特に活躍した方は勧誘を受けており、今回の件で貴族の中で薬師の需要が高まったのかもしれません。


「いえ、私はもう新しいお店も開いてしまいましたので、申し訳ないですが辞退させてください」

「そうか……」

「でしたら我が家はいかがでしょうか? これだけのお給金を出しますが!」

「いえ、私は……」

「このたびの働きを聞いたので我が家で是非!」

「いえ、ですから……」


 一つ目の誘いをすぐに断ると、すぐに次の誘いが着ます。


 その後もひっきりなしに誘いがきてしまったため、私は屋敷を出るのにかなりの時間がかかってしまったのでした。

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