思わぬ来客

 お店に戻ると、すでにすっかり日は高くなっており、お客さんの入りも多くなっているのが見えます。それを見てエレンは目を丸くしました。


「わあ、こんなに繁盛していているなんてすごいですね!」

「入ったら分かるけど当事者だとすごいというだけではいられないんだよね……サリー、ごめん!」


 私は謝りながらお店に帰っていきます。

 サリーはそこで凄まじい手さばきでお客さんと代金の受け渡しをしていました。が、私の姿を見るとほっと一息つきます。


「すみません、遅くなってしまいまして」

「良かったです、あれ、その娘は?」


 サリーは私の隣にいるエレンに目をやります。


「エレンです、しばらく働かせてもらうことになりました。よろしくお願いします!」


 そう言って彼女は元気よくお辞儀をしました。


「ここで手伝いをしているサリーよ、よろしくね」

「とりあえず彼女には商品の包装とかお使いとかそういう仕事から始めてもらおうと思います。最初の仕事を教えてくるのですみませんがもう少しだけ店番お任せしてもいいですか?」

「はい、大丈夫ですよ」


 そう言ってサリーは頷いてくれます。もしかしたら彼女のお給料はもう少し上げてもいいかもしれない、私はそう思うのでした。




 奥の部屋に入ると、そこにはとりあえず多めに買っておいて薬の材料、作ったはいいけど包装が終わり切らなかった薬と包装紙がたくさん置いてあります。

 エレンはそれを見て目を丸くしました。


「本当に薬屋さんみたいですね!」

「あはは、本当に薬屋さんだからね。このお店は私とサリーしか勤めている人がいないし、ここまでお客さんが入り始めたのも一昨日からだからまだ運営も手探りのままだから色々変わっていくこともあると思うけど」

「そうなんですね」

「早速だけど、ここに並んでいる薬は昨日私が作ったけど包装が間に合わなかった薬だからこれをこれと同じように包んで欲しい。中身の個数だけは数え間違えないように気を付けて」


 そう言って私は見本をいくつか渡します。私は会計を簡単にするために、値段を銀貨一枚に統一し、中身の個数を変えていました。そのため、薬によって中身の数が違います。

 簡単な仕事だけあって、彼女は見本を見てすぐに理解し、頷きます。


「分かりました」

「じゃあお願い」


 そう言って私はサリーの元に戻ります。相変わらず店内にはたくさんのお客さんがいて、嬉しい悲鳴です。


「お待たせサリー! とりあえずエレンには包装から始めてもらうことにしました」

「なるほど、それがいいかもしれませんね。ところでお薬の注文をしたい方がいらしていますので対応お願いします」

「分かりました……すみません、お待たせいたしました」


 私は店の端っこで待たされているお客さんの元に駆け寄ります。


「すみません、今注文が溜まっていて遅くなってしまうかもしれないのですがよろしいでしょうか」

「そうか。それは困ったな。慢性的な腹痛なんだが、もはや普通の胃薬では効かないんだ」

「分かりました。出来るだけ急いでお作りしますが、数日かかってしまいます。すみません。住所だけ教えてもらえればお届けいたします」

「本当か!? それはありがたい、ならここまで頼む」


 そう言って彼は驚きとともに喜びます。待たされるマイナスに配達することへのプラスが勝ったようです。

 そして気前がいいことに住所を教えて代金を前払いしてくれたのでした。これは薬が出来たらエレンにお任せしましょう。

 その後も注文の応対やお会計のヘルプに入っているうちに時間は昼頃になり、ようやく人が落ち着きます。


「サリー、今のうちに休憩に行ってきてください」

「え、私からでいいのですか? エレンさん、疲れてそうですが」

「はい、私は大丈夫ですので」


 まさか忙しいのに二時間も昼寝していたとは言えないので曖昧に言葉を濁します。


「セシルさん、これで大丈夫ですか!?」


 そこへ今度は薬を包み終えたエレンがやってきます。


「どれどれ……」


 試しにいくつか中を確認していますが、個数も中身も大丈夫そうです。簡単な作業とはいえ、きちんとやってくれて助かります。


「ありがとうございます。それでは次はこれを買ってきてください。ここにこれをお店の人に見せれば分かると思います」


 そして私は手が空いたエレンに今度は午前にたくさん売れた薬の材料を買いにいってもらいます。一応丁寧なメモを書いたので大丈夫でしょう。


 こうして私が忙しい日々を送っていると。

 不意にお店の入り口から見知った人物が入ってくるのが目に入りました。


(あれは……クロード!?)


 その瞬間、私は体が強張るのを感じました。

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