エレン
「……さん、セシルさん、大丈夫ですか!?」
不意に私は耳元で呼びかけられる声で目を覚まします。
あれ、一体私は何で寝ていたのでしょう。
「はっ」
私は反射的に飛び起きます。視界には先ほど薬を届けにきた少し貧しい民家と、倒れている男性、そして私を心配そうに見守る若い男と二人の姉妹がいます。
「あれ、私は一体……」
「急に倒れたので心配してしまいました!」
私を起こしてくれたのはこの家の上の妹のようでした。
彼らを見て急に私は恥ずかしさが込み上げてきます。薬屋が薬を運びにきて倒れるなんてことがあるでしょうか。
「すみません、ちょっと疲れていたみたいで。お見苦しいところを見せてしまいました」
「そんなことはありません! むしろ父上のためにここまで一生懸命薬を作っていただきありがとうございます」
「そうです、見苦しいなどとんでもない!」
家族の皆さんは必死にフォローしてくれます。
「いえ、それが私の仕事ですから」
とはいえ、これではまさに“薬屋の不養生”です。
「おかげで父上も少し楽になったようで、今は楽に眠っています」
言われて先ほどの男性を見てみると、先ほどまでの苦しさが嘘のようにすうすうと安らかな寝息を立てています。それを見て私もほっとしました。
が、それを見て目の前の若い男が急に微妙な表情に変わります。
「それでその……お代の件なのですが、実は我が家にはあまりお金がなくて」
それを聞いて私は少し嫌な気持ちになります。
もちろん、治ったばかりの患者がいる家に無理に代金を要求したくはありません。しかし、材料はお金がかかりますし、家賃やサリーのお給料も出さなければなりません。
「またお金に余裕が出来た時でいいですよ」とでも言いたいですが、今の私の立場では言いづらい言葉です。
私は今後もお店を続けていかなければなりませんので。
「そこで、お仕事も大変なようなのでうちの娘を奉公に出すということでいかがでしょう?」
そう言って彼は傍らで緊張の面持ちで座っている少女の方を向きます。
先ほど私を起こしてくれた少女で、年齢は十三ほど、私よりさらに若いです。
「初めまして、エレンと言います。今回は父上を助けていただきありがとうございます! 一応友達のパン屋さんを手伝ったこともあるので力になれると思いましゅ!」
彼女は緊張しているのか、最後に盛大に嚙みながら頭を下げました。知り合いのお店を手伝ったとはいえ、年齢から考えるとサリーと違ってほぼ未経験でしょう。
とはいえ、お店が予想外に繁盛しているおかげでまさに猫の手も借りたい状況です。本音を言えばサリーのように店番を任せられるほどの人手が欲しいですが、今日のようなお使いを任せられる人が増えるだけで十分ありがたいです。
「……分かりました。それなら一か月間、お店の仕事を手伝ってもらうということでどうでしょう?」
「もちろん構いません、ありがとうございます!」
男はほっとしたように頭を下げ、エレンは
「一生懸命頑張ります!」
と言うのでした。もし彼女に見込みがありそうなら、その後はちゃんとお給料を払って雇うかどうか相談してみましょう。
ふう、これでサリーの負担も少しは減らせるかな……と思ったところで私は店番をサリーに任せていたことを思い出します。
「しまった、私はどれくらい倒れていましたか!?」
「えっと……二時間ほど?」
エレンが少し言いにくそうに言います。
それを聞いて私は一気に現実に引き戻されます。
朝は暇だから店番一人でもどうにかなりますが、日が高くなってくるときっとお店はかなり混んでくるでしょう。
「しまった、早くお店に戻らないと! 悪いけどエレンちゃん、早速来てもらうよ!」
「わ、分かりました!」
こうして私たちは大急ぎでお店に戻るのでした。
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