開店
トールに売る薬を準備するのと並行して私はお店を開く準備も進めていました。もっと他のたくさんのお店を調査してお店を開くのに必要なことを勉強しようかとも思いましたが、私はとりあえずオープンを優先することにしました。純粋に収入が欲しいというのもありますが、調べるよりも経験で学んだ方がいいと考えたからです。
玄関のドアを入ってすぐにあるダイニングの広い部屋を模様替えしてお店にし、ダイニングの奥の部屋への通路を余った家具を置いて塞ぎました。
ダイニングにはテーブルをいくつかおいて棚の代わりにし、薬を並べます。そしてその部屋の奥にお会計を作りました。お店というよりは普通の家に商品を並べただけの感じですが、あまり高価な薬をたくさん並べるのは防犯上良くなさそうなので、棚に並べられるものはあまりありません。あとはちょっと高い絨毯と壁紙を買ってきて若干室内をきれいにしたぐらいでしょうか。
もう一つだけしたのは『セシルの薬屋』という看板を作ったことです。店の名前は凝ったものにしようかとも思いましたが、この方が私の名前も早く覚えてもらえると思ったのでそのままにしました。大きな看板の下には小さな文字で『風邪薬・胃薬・頭痛薬などの常備薬から稀少薬調合の相談も承ります』と書きました。
オープン日、私はドキドキしながら看板を出します。用意した薬の量は足りるでしょうか。それとも逆に誰も人は来ないでしょうか。私が作った薬は気に入っていただけるでしょうか。それとも逆にクレーマーのような方が来るのでしょうか。
そもそも素人の私が急ごしらえで店を出している以上、様々な盲点があるかもしれません。
そんな期待や不安とともに私は看板を出し、お店の中で待っていましたが……しばらくたっても誰もやってきません。元々薬屋というのはそんなにたくさん人が来るものでもないのですが、少し不安になった私は外に出ます。
相変わらず家の前の道はそこそこ人通りはあり、通行人の中には看板を見ている方もちらほらいるのですが、「薬屋だって」「新しく出来たのかしら」などと会話するだけで入ってきてくれる人はいません。やはりオープンしたばかりの店だと入りづらいのでしょうか。
いくらいい薬を作っても最初に入ってきてくれる人がいなければどうにもなりません。そう思った私は覚悟を決めて家の前に出ました。そして通行人に向かって呼びかけます。
「本日オープンしました薬屋です! よろしければ是非お越しください!」
これまで不特定多数の人に話しかけた経験なんてないのにすぐに恥ずかしくなります。しかし勇気を出して呼びかけた甲斐あって何人かの人がこちらを振り向きます。
「せっかくだし常備薬が切れたから買っていこうかな」
呼び込みの甲斐あって、ちらほらと人が入ってきます。
「いらっしゃいませ」
人が入って来た以上、私は店内に戻らないといけません。私が慌てて中に戻ると、入って来たお客さんは物珍し気に店内を見回し、風邪薬や胃薬を持ってお会計にやってきます。
「これ一つちょうだい」
「ありがとうございます!」
「お嬢ちゃん一人でやってるんだ。頑張ってね」
最初のお客さんはそう言って帰っていきました。
「お嬢さん、なかなか愛想がいいね。気に入ったよ」
「ありがとうございます! よろしければまた来てください!」
「よく効いたらまた来るね」
確かに薬というのは食べたらすぐに味が分かる食べ物と違い、効果が分かるまでには時間がかかります。
しばらくは積極的に呼び込みをしないといけないかもしれません。
他のお客さんも次々とやってきては「頑張ってね」などと声をかけてくれます。そして入ってきたお客さんが一通り帰っていくと、私は再び外に出て声かけを再開するのでした。
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