クロードとエリエ
こうしてセシリアがラタンの街で新生活を始めたころ、クロードとエリエはカンタール伯爵家の屋敷でのんびりティータイムを楽しんでいた。
「うふふ、ようやくこうして堂々と一緒にいられることになりましたね」
エリエはそう言ってクロードに笑いかける。これまでクロードはセシリアの婚約者だったため、違う女性と二人で会うことははばかられていた。しかしセシリアが追放された今、もはや誰に遠慮する必要もない。
エリエは幼いころからクロードに片思いしていたが、大人の事情でセシリアとクロードが婚約したことに内心腹を立てていた。
「そうだな。僕も君と一緒になれて良かったよ」
一方のクロードにとって、エリエの実家グランド侯爵家はセシリアの実家よりも金持ちで爵位も高いため魅力を感じていた。そのため、自分に思いを寄せてくるエリエと仲良くしていたのである。
婚約したばかりのころはセシリアと仲良くしていたクロードも、だんだんと彼女の家の貧乏さが嫌になってきていた。彼女の家に遊びにいってもあまり豪華な夕食は出てこないし、セシリアの身なりもどことなくぱっとしない。
一方のエリエは今日も豪華なドレスで美しく着飾っていて可愛かった。
「にしてもセシリア、事件の直前まで私のことを幼馴染と信じていておかしかったですわ。おかげで紅茶に毒を仕込むのも拍子抜けするぐらい簡単でしたもの」
「そうか。僕のためにそこまでしてくれるなんてよほどエリエは僕を愛してくれているんだね」
「もちろんですわ」
そう言って二人は見つめ合う。
「でも良かったのかい? セシリアは君の幼馴染なんだろう?」
クロードの言葉にエリエは露骨に顔をしかめる。
「ふん、あんな下級貴族のためにクロードと結ばれようなんて身の程知らずよ!」
「そ、そうか」
クロードはエリエの剣幕に若干引いたが、それでも彼女が自分を愛してくれる思いの強さを感じて満足する。エリエは自分にぞっこんだ。もし今後お金が必要になればエリエに頼めば実家のお金を貸してくれるだろう。
そんなクロードの内心を知ってか知らずか、エリエは上気した目で彼に顔を近づける。
「分かった。この件のほとぼりが冷めたら父上にいって僕の家から君の家に婚約を申し込むようにしてもらうよ」
「ありがとう。ねえクロード、キスしましょう?」
「もちろんいいよ」
そして二人の唇が近づいた時だった。
突然クロードがごほごほとせき込む。
「まあ、大丈夫でしょうか!?」
「大丈夫だ、薬でも飲めば治るよ」
そう言ってクロードは薬箱に手を伸ばす。
しかし中は空になっていた。これまでセシリアからもらってばかりだったので、クロードはどんな薬かすらよくわかっていなかった。
「ない……。これまでセシリアからもらっていたのに」
「大丈夫です、うちに頼めばどんな薬でも取り寄せてもらえますから!」
「分かった、頼む、ごほ、ごほ」
そう言ってクロードはせき込む。しかし彼にとってこの咳は薬を飲めば治る、という程度の認識だったのでろくに医者にも診せていなかった。
一方のエリエもクロードが咳をしていることはほとんど見たことがなかったので、適当に風邪薬を取り寄せれば治るだろう、とたかをくくっていた。
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