全人類が心を『共有』した未来での物語の『読み方』。【文書ロイドシリーズ短編(超未来編)】

春眼 兎吉(はるまなこ ピョンきち)

全人類が心を『共有』した未来での物語の『読み方』


「はぁ……はぁ……まだまだ核心コアにはたどり着きませんの?」

「お待ち下さい、理利りりお嬢様」


激しい吹雪がホワイトアウトした視界。果てない果てない【哀しみ】の世界モノガタリ。作者の心情創作理由をありありと示しているようですの。


「ここは哀しみ耐性に特化したわたくしめが、突破致しますので、お嬢様には精神封印スリープを施します。ここを抜けるまでしばしお休み下さい」

わたくしを気遣っての従者の気遣いに注文をつける。

「言いましたわよね? こういう状況の時、わたくしには半覚醒状態封印セミスリープを施して欲しいと」

「しかし、お嬢様……」

 わたくしを気遣ってくれているのが痛いほど分かるが、コレだけは妥協は出来ませんの。



「父が遺した物語世界を踏破読切する為にこれまで物語耐性を上げる努力を重ねて、ようやっと全てのジャンルそれぞれで半分の耐性を獲得しましたの。少しでも『父の想い』を受け止めたい。お願いしますの」


「……分かりました。できる限り気を確かに持って下さい。お嬢様が発狂しそうになれば、躊躇無く読破中止にしますので」


「いいですね!」

 古参の執事でもある彼に言われてはわたくしも首を縦に振るしかありませんの。



 かつてニッポンの地で起きた。全作家・・・大量虐殺ホロコースト未遂事件クーデターと超巨大ウェブ小説交流VRサイトの崩壊・・……運命之日あの日起点に人類の共有意識化エスパー化が進みましたの。

 また、特定のジャンルを読もうとすると激しい拒否反応をもよおして高確率で死に至る『物語アレルギー』が新出生児ほぼほぼ全てに見られるようになる等、『物語』を憎む何者かの思惑神の手を感じずにはいられない事態が進行していきましたわ。

 『物語アレルギー』に関しては、年を追うごとに1人あたりの拒否反応をもよおすジャンルの数が増えていき、そしてとうとう、今や生まれる人間のほぼ全てが物語アレルギーに対して『全耐性無ノンジャンル』になってしまいましたわ。

 文字を捨て、【共有意識内】でコミュニケーションを営むことになった人類にとって、これは大問題でしたの。【書き手と心を共有する】『物語を読む』という【行為ギシキ】は『読み手』にとってこれ以上無いほどに危険なモノと成り果ててしまったのですわ。

 人々は完全に検品ジャンル分析され、安全が保証された『古典昔の物語』を愛でるか、過去に確立・・された、物語耐性を得るために心身に負担をかける手法によって徐々に自らの耐性を向上させるほかはするべき事がなかったんですの。

 ただし、それでも読みたい物語があれば、人々は努力して耐性を身につけ、技術を磨き、物語に挑むようになったのが、わたくしが生きる時代そのものですわ。




「小説執筆とは譜面を書き起こす『までの』作業である」

読者奏者が読む《奏でる》ことで作品ハーモニーになる」

 遠い昔にいた、とある大作家が言っていた言葉ですの。

 同時にこうも言っていましたわ。

当然・・読者奏者にも技術・・が必要である」と。



 今回は演奏でいうなら五重奏クインテットにあたる編成ですわ。わたくしを中心にして、喜怒哀楽四面感情に対する耐性をそれぞれ極めた実力者スペシャリストで固めた楽団パーティー。当然、わたくしも、それぞれ平均値以上の耐性強化トレーニングを済ませていますし、早々に全滅することはありませんことよ!  ただ、作家のに対する耐性が圧倒的に足りないのが不安材料ですけれども。




 今度はエロの楽章エリアを弾き進めていくわたくしらが楽団パーティー。父がわたくしに抱いていた劣情れつじょうに触れて、気持ち悪さよりもむしろほほえましさというか、必死に姉を慕う弟の頭をなでたくなる衝動をいいましょうか、思わず包んであげたくなりましたの。他の楽団パーティーメンバーはえずいていたりと随分消耗グロッキーしていましたけど。



 そしてわたくしはここで調子に乗ってしまいましたわ。皆が手こずった楽章エリアわたくしだけが以外と楽に弾き進めれたという状況に慢心油断したのですわ。ですので、この先の読破が絶望的になる地獄を感づきもしなかったのです。



「さぁ、行きますわよ。このまま行けば核心コアはすぐそこですわ」

 消耗した皆を叱咤激励し弾き進めようとするわたくしらをが襲いましたの。喜び、怒り、哀しみ、楽しみ……『四大元素主感情』だけでなく、嫉妬しっと憐憫れんびん噴飯ふんぱん……その他細々としたモノまで。

 それは、ありとあらゆる感情・・混ざり合い、常に激しく変化し、押しては引き、渦巻いて、精神ココロをグチャグチャにき回して行きましたわ。でもそれがわたくしには目眩めまいがするほどに輝いて見えたのです。



 この変化に皆耐えられなかった。発狂し、精神に不調をきたしてゆくわたくし楽団パーティー

「ここまでですわ」

「「「「お嬢様!」」」」

「父の想いを確かめないまま、現世に戻っても仕方はありませんの。それくらいならわたくし物語父の世界と運命を共にしますわ」

 緊急帰還カプセルを展開。皆を現世に帰すと、同時に。

「だぁっ、しゃあぁぁぁーーー!」

 わたくしは持ってた可能な限りの精神補助安定剤プラグインをフル起動。最高最適キョウイチのタイミングですわ。寿命に多少影響するが仕方がないですもの、ここで使わずいつ使うというのですわ!ここまで温存できたから今こうして使えるわけですし。というのは言い訳で、わたくしはもう、いつ死んでも悔いはありませんでしたの。

物語父の腕に抱かれて死ねるのなら】と。




「読んだ(奏でた)人間によって意味が変わるような表現……しかし……これだけの感情を含めて魅せるとは、忌々いまいましい技術力筆力だな。ったく、『力だけは』認めてやるよ。俺以外は通れそうにないな」

 絶体絶命のわたくしをすくい上げる神の手。

「まったく、こんな装備・・で『悪性新書物ガ・ン』をどうにかできると思ったのか!」

 翼を生やした青年が。

「天使のお迎えですの?」

「ちゃうちゃう、ってツッコミ入れさせんなっ!」

「では、どちらからですの?」

「俺は『全物語適応性オールジャンル』を持つ『単独読破者ソロ・リーダー』だ。アンタが楽団パーティー組んで、危険きわまりない最悪の『悪性新書物ガ・ン』にふみこんだっつーから、政府の依頼で俺が救出にきたんだよっ! ついでに、この『悪性新書物ガ・ン』の処置・・も行うがなっ!」

「待って下さい!」

 わたくしは追いすがります。だって命までかけて挑んだ父の物語を読破出来ないだけでなく、この物語父の想いが消されるだなんて、死んでも死んでも死んでもとうてい許せるわけありません。

「MUSTシステムの時期当主にはこの場所は危険すぎんだよっ!」

「それでもなんとか」

「しゃあねぇな。今回だけ『特別』だぞ」

「感謝いたしますわ!」

彼の助けを借りて、わたくし物語父の想い核心コアへ到達。


父との対話・・を果たします。


「君の名の意味、『ことわりもっする』、わたしから君への祝福ギフトだよ。せいぜい、よき選択・決断を積み重ねていきたまえ。健闘を祈る!」

 それはわたくしに対する父からの祝福であり応援えーるであり、そもすれば呪いなのかも知れない…………でも…………わたくしは父のその言葉がストンと心の奥底に収まり、これからの人生覇道を歩む覚悟が決まった気がした。



「失われた【文字】である【漢字】に意味を込めてまで、アンタを祝福したかったんだろうな」

 含蓄がんちくのある単独読破者ソロ・リーダーさんの言葉。

「なんで、ここまで助けてくれましたの?」

わたくしの問いに素っ気なく彼は。

「俺はただ、アンタがどういう『答え』を出すのか、興味があっただけだ」

「で、どうだ?」

 わたくしは感想を求められて素直に答えますの。

「非常に気分がいいです! 父の想いを確かに受け継いだ充実感がありますの♪」

「そうか、なら、結構だ」

 そういってニヤリと笑う彼の瞳には物語を憎む何かを感じましたの。



「不満そうですわね」

尋ねるわたくしに彼は怒りをにじませながら語った。

「かつて存在した【文字】という記号・・は読者を守る安全装置セーフティーだったのかもしれない。そう思うほどに邪悪な物語はいとも簡単に読み手の魂を刈り取っていく……当然だ。作家と意識を共有しないのだから、『作家の闇に呑まれることもない』……寄るも離れるも読者の『裁量・・』しだい。あぁ、なんて素敵な時代だったのだろうなぁ! 物語を読むことに命をかけなくてもいい時代が、今の俺達からしたらもう、信じられないほどにはなっ!」

そして、こう言い放つ。

「だから、物語はこの人類社会の『悪性新書物ガ・ン』なんだよっ!そしてそれを量産する【作家】という種属・・はまぎれもなく、人類全体に対しての大罪人シ・ンだっ!」


彼の言葉にわたくしは何も言い返せなかった。


世界は残酷で人々は物語を失ったのかもしれない。


でも、わたくしは想いますの。


たとえ、大罪人だと言われようとも、人の想いは止められない。


 



想いを込めた物語ココロを読むオモイ普遍不変なのだと。





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【完結】文書(ぶんしょ)ロイド文子シリーズ原典『サッカ』 ~飽和(ほうわ)の時代を生きる皆さんへ~ 俺は何が何でも作家になりたい!そう、たとえ人間を《ヤメテ》でもまぁ!!


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