詫び石24つ目【よくある質問:クエストの追加について】

「グギュルルルルッ!!」

「なっ……!?」



 目の前に現れた『モノ』を警戒しながら念のためアイルちゃんとルロちゃんの様子を見てみるが、彼女達がお腹を空かせているわけではないようだ。

 アイルちゃんは得意げな顔で胸を張っていて可愛いし、ルロちゃんは何が起きているのかわからないと言いたげに口の開閉を繰り返していて可愛い。


 ……と、なると。この巨大ドラゴンは幻影ではなく、今たしかにこの場にいるということに“なってしまう”。



(ど、どう、なって……)



 こいつは確かにあの時、俺が倒したはずで……全く同じボスモンスターが存在する話も聞いたことがない。

 それじゃあバグか? 村に敵モンスターが出現したのと同じ現象が……などと考える俺の前に出て、可愛いアイルちゃんは威風堂々と言い放った。



「ふふん……さあ!! ゴブリンを撃退しなさいっ!!」

「なるほどね! 貴女の仕業でしたか!!」

「グギュルルルルッ!!」

「ギギギッ!!」



 ゴブリンの群れを焼き尽くすドラゴン。

 ゴブリンの攻撃をその巨体で軽々となぎ払うドラゴン。


 何がどうしてこうなっているのかは依然として謎のままだが、我らが隊長による所業だということだけは理解できた。

 それから、



「グギュルルルルッ!!」

「にゃっ!? ち、ちがっ……こっちじゃなくてゴブリンを……!!」



 ……ドラゴンがアイルちゃんの命令を全く聞いていないということも。



「……」

「きゃっ!!」

「にゃにゃっ!?」



 敵意を察知すると同時に可愛い2人を両脇に抱えて飛躍し、こちらに突っ込んできたその巨体をすんでのところで回避する。


 風魔法で着地の襲撃を和らげ、彼女たちをその場に降ろしてからドラゴン&ゴブリンに向き直ると、アイルちゃんが震える声で言葉をこぼした。



「ご、ごめんなさい、私……召喚士なのに、全然……い、言うこと、聞かせ……ひっく、ごめん、なさい……こ、今度こそ、上手くいくと思った、のに……うっ、やっぱり……私、パパとママが言う通り、無能で……っ、ごめんなさい……」

「アイル様……」



 召喚士……なるほど、聞いたことがある。

 たしか、一度倒したモンスターのみ召喚・使役することが可能な職業だったか……。


 振り返ってその顔を見れば、アイルちゃんはぽろぽろと大粒の涙を流していた。



「どうしてアイルちゃんが謝るの?」

「だ、だって、だって……! ドラゴン、私じゃ倒せな……っ、う……た、隊長なのに、みんなを、危ない目に遭わせて……っ」

「……ねえ、隊長。俺のお願いを1つ聞いてくれる?」

「……っ、おねがい……?」



 ぺたりと倒れた猫耳を優しく撫でれば、アイルちゃんの大きな瞳が俺を映す。



「うん、お願い。……“大丈夫”だから、泣かないで」

「……っ、」

「それに、謝らなきゃいけないのは俺の方だ」

「……?」

「グギュルルルルッ!!」

「ギギギッ!!」



 不思議そうにまばたきをするアイルちゃんも可愛いな。



(……クエストの追加)

『このアクセスは禁止されています。このアクセスは――……権限の確認中です、少々お待ち下さい。……クエストの追加を承認しました。……ダウンロード中です、電源を切らないでください。……ダウンロードが完了しました。間もなく開始します』



 ルロちゃんの頭も撫でてから、この良い雰囲気を崩すBGM担当のモンスターたちを視界に捉えた。



『クエスト発生:巨大ドラゴンとゴブリンの群れを討伐せよ』

「俺は今から、隊長の言うことを聞かずいっぱい出しゃばるよ」

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