第4話 終わらない『いじめ』に自力で終止符を
さてさて、いよいよ中学校生活の始まりです。 この時の私は
(中学校生活はいじめが無ければ良いなぁ……。)
そう思っていました。
しかし、中学校と言う場所は受験をしたり別の市町村に通わない限りほぼ確実に小学校時代の同級生も上がってきます。
そうです。 いじめグループも一緒に中学に上がってきたわけです。
さらに、小学校が違う生徒も数人入学してきました。
その生徒がいじめグループのメンバーと仲良くなってしまいましてね。
そしてなぜかわかりませんが、頭の良い生徒ばかりいじめグループにまとまっていたんですよね。
授業中は小学校時代以上に先生たちの目が光っていました。
なので、授業中にハブられるなんてことはありませんでした。
では、どこでいじめを受けたのか? それは体育の授業です。
中学生の体育は小学生に比べ、実施する内容が少し本格的になります。
特に球技の時は酷かったですね。
体育で受けたいじめ内容をいくつかあげていこうと思います。
まずはサッカー。
パスは回ってこないしボールに触れさせてもくれない。
そしてチームが負けたら私の責任にする。
他にもパスが回ってきたと思ったらスライディングで転倒させられたり、シュートのふりをして私に向けてボールを蹴ってきたり……。
チーム戦と言えど審判は先生のみです。 そして複数チームが同時に試合をしていると、1チームだけに構っているわけにはいきません。
そうです。 審判が見ていない隙にボールを使った暴力が横行していたのです。
キーパーの時なんて悲惨ですよ。
だって『的』ですから。
相手チームもグルだったので審判が見ているときは程々に試合を行い、審判の目がそれたら的あての開始。
意図的にキーパーである私を狙ってきました。
痛みでうずくまってもお構いなし。
ただ、絶対に顔面は狙ってきませんでした。
顔面だと傷や痣で何度もボールを当てていることがバレますから。
なので基本的には胴体。 特に体操着で隠れる場所を重点的に狙ってボールを当ててきました。
よく考えていますよね。
続いて、バスケ。
サッカーと似た感じでボールによる暴力ですね。
ただサッカーでの行為と異なったのが人との接触がサッカーよりも多くなるため、パスカットを装って体当たりをする。
マークされ、抜けようとする時に殴る蹴る。
ドリブルをしている時に体当たりや悪意を持った突き飛ばし。
といった直接的な行為が増えました。
あ、もちろんこれらの行為も審判が見ていない隙に行われます。
続いては夏と言えばの水泳。
私の通っていた中学校の水泳の授業はただ25mプールを泳ぐだけでは飽きてしまう、と言うことでレクリエーションの時間も設けられていました。
25mを泳いでいるだけではいじめのしようがありませんが、レクリエーションとなればいじめができます。
なぜかはお分かりですよね。
25mを泳ぐだけの場合は1人1人順番に泳ぐため全員に対して先生の目が行き届きます。 しかし、レクリエーションとなると全員がプールに入るため全員を見ることは不可能に近くなります。
そして、人が密集している場所の水中で暴力が振るわれていても水面が揺らいでいるためプール外から視認することは困難です。
暴力くらいならまだ他と変わりませんが、プールには水があります。
私は頭を押さえつけられて沈められました。
正直体をひねったりすれば抜けられると思うでしょう?
その辺も対策されていたんですよ。
頭を押さえる為に1人。
肩を抑えて沈める為に1人。
窒息しないか見るために1人。
先生から見えないようにする為に2、3人。
徹底していますよね。
最悪の場合死にかねない行為です。
ですが、彼らは水の中でもがき苦しむ私を見て楽しんでいたようでした。
「でも、水中だから楽しんでいたかなんて分からないでしょ?」
彼らが楽しんでいたことは確実だと思います。
窒息寸前で水から顔を出したときにニヤニヤしている彼らを見ましたから。
命に関わる出来事ですら彼らは楽しんでいます。
続いては柔道。
私が中学生だった当時は選択授業でした。
柔道は本格的な投げ技などではなく、受け身や寝技、危険度の低い足技が主でした。
投げ技もなくはないですが、体落と大腰のみでした。
さて、ここで行われるいじめはと言うと……。
寝技による圧迫。
危険に配慮されていない投げ技。
軽い組手で先生に禁止されている技の実行。
といった感じです。 これも命に関わりますね。
私のいじめとは関係ないところで悪ふざけで寝技をかけていたペアの技をかけられていた生徒の鎖骨が折れたという事故もあったので、正直なところ
「こいつら殺す気か……?」
と常々思っていました。
もちろん先生に報告しようものなら、いじめは悪化するので報告はしませんでした。
さて、体育の授業内で行われたいじめ行為で特に酷いものを上げました。
いかがでしょうか? 彼らにとっては人の命すらも遊びの道具に過ぎないのです。
こちらが声を上げても彼らは手を止めず、むしろそれを待っていました!とでも言うように更に楽しみ始めます。
声を上げないと周りに伝わらない??
違います。
声を上げると彼らの楽しみを増やしてしまうから声を上げることができないんです。
声を上げて対抗できるのはいじめに打ち勝とうとする確固たる意志と、それに共感して一緒に戦ってくれる仲間の存在があってこそです。
1人で声を上げたところで無力です。
いじめの場合、味方になってくれる人などいるはずもありません。
いじめられている側の味方をするということは、自分もいじめられる対象になるということですから。
もうここまでくると『いじめ』と言うものは『犯罪』とどう違うのかわかりませんね。
正直、窒息寸前までプールに沈められたり柔道での命にかかわるような技のかけ方などは殺人未遂と言っても過言ではないでしょう。
それでもいじめはいじめとという括りから外れることが無いためそこまで重要視されないのです。
さて、このように命の危機を感じるようないじめもありましたが、正直一番の危機を感じたのが別にあります。
それは脅しです。
休み時間にたまたま他の生徒がいじめられているのを目撃しました。
その時いじめていたうちの1人が私の方に近寄ってきてこう言いました
「お前、このこと先生にチクったらぶっ殺すぞ」
と。
こう言われるだけなら普通に先生に報告するのですが、この時は報告を
なぜなら、その脅しにきている生徒にナイフを突きつけられていたからです。
(おそらく登山用のナイフ)
「殺す」の言葉とともに突きつけられたナイフは「本当に殺されかねない」という恐怖心を植え付けるには十分すぎました。
ですが、いじめの被害にあう辛さは誰よりも理解しているつもりです。
見て見ぬふりはできません。
先生に報告すれば殺されるかもしれません。それでも
「いじめに屈して良い理由にはならない」
そう思い、ナイフのことのみ伏せ先生に報告しました。
その後どうなったかは知りませんが、少なくともいじめられていた生徒はそれ以降いじめられていないようでした。
微力ではあったものの、1人の生徒を救うことができたのです。
これが私の自信につながりました。
それからは、いじめを目撃する度に首を突っ込んでいきました。
少しでも救える可能性があるのなら…と。
もちろんいじめに首を突っ込むっということは、自分がいじめのターゲットになるということでもあります。
ですが、この時の私にはそんなことはどうでも良かったのです。
これを自己犠牲と呼ぶのでしょうか。
別にヒーローになりたかったわけではありません。
ただの自己満足です。 まぁ、今までの復讐もありましたが。
さて、いじめに首を突っ込んで何をしていたか。
それは、記録です。
いじめの内容を事細かに記録し、ある時は音声で、ある時は動画で、ある時は写真で記録しました。
写真はいつでも撮れるようにインスタントカメラを持ち歩いていました。
なぜここまでして記録を残すのかって?
答えは簡単です。
『ここまでしないと学校は動かないから』
まぁ、いじめの記録をして報告してもいじめが無くならないのが現状ですけどね。
でも少しだけいじめが減ったのも事実です。
ただこんなことをしていると…
「あいつ、調子乗ってんな。 痛い目見せてやる」
となる輩もいるんですよ。
で、ある日リーダー格の生徒とその側近とも呼べる生徒に道を塞がれました。
するとリーダー格の生徒がおもむろに私の襟をつかみ上げ殴ってきました。
実力行使で思い知らせようとしてきたようです。
想定内でしたけど。
想定内と言うのは、いずれ実力行使に出るだろうということを考えていたので常に他の生徒の目があるところを通っていたのです。
それでも側近の生徒がうまく隠していました。
これだけは想定外でした。
腹を数発殴った後、
「これ以上調子乗るんじゃねぇぞ」
と言われました。
そう言われても、私は調子に乗っているわけではありません。
なので、更に相手を煽りました。
「そもそも調子に乗ってないし、正しいと思ったことをやっているだけ。 これで『調子に乗ってる』って思うのは、自分が間違っていると認めてるようなものじゃないの?」
と。
もちろん無策で煽ったわけではありません。
ちょうど別学年の先生が向かってくるのが見えたからです。
当然、襟につかみかかっている生徒とその側近は怒っている為気づきません。
そして、襟をつかんでいる生徒が顔面を殴ろうとしました。
これはさすがに防ぎました。
(さすがに顔面は痛いどころじゃないからね。)
ちょうど殴る瞬間を別学年の先生が目撃し、近寄ってきました。
この時点で、襟をつかみ殴った生徒とその側近が一方的に悪となります。
私は基本的に抵抗していませんでしたから。
この件があって先生たちの間でもいじめに対する警戒心が強くなったようです。
しばらくし経った昼休み、次はトイレで同じ生徒たちに囲まれました。
先生の目が無いところを選んだようです。
この時はしっかりと抵抗しました。
と言っても相手に数発殴らせてからです。
あ、言い忘れていましたが私は多少ですが極真空手を護身術ということで習っていたことがあります。
だから抵抗はしなかったんですよ。
既にやめているとは言え、格闘技未経験者に手を出すのは経験者としてはご法度と言っても良い行為ですので。
今回ばかりは、殺さんとする勢いで向かってきていたので抵抗せざるを得ませんでした。
側近の2人は私が空手を習っていたことは知っていました。
同じ道場でしたから。
とは言え、帯の色は一級上がった程度なので問題ないだろうという認識だったのでしょう。 最初、2人は手を出してきませんでした。
相手は喧嘩慣れしている生徒なので生半可な攻撃じゃビクともしないのは明白でした。 ですが、極真空手を習っていた時の私の組手スタイルが役に立ちました。
相手に比べ力が弱く体格もかなわないならやることは一つ。
相手の攻撃をさばき、一瞬の隙を突く。 所謂カウンターです。
相手に何発殴られたか分かりませんが、必死に攻撃をさばき隙を窺いました。
その間に偶然ですが、当時仲の良かった生徒(A君とします)がトイレに入ってきて私が殴られている様子を目撃しました。
そして急いでどこかへ走っていきました。
A君が走り去ったことに気づいたのか、私を殴っている手が一瞬止まりました。
その隙を逃さないように、非力であっても当たれば沈められる可能性のある場所であるみぞおちめがけて渾身の一発を放ちました。
沈みこそしませんでしたが、予想していなかった為か少しうずくまりました。
その隙にトイレからの脱出を計りました。
トイレの出口目前で側近2人に両腕をつかまれてしまいました。
自分より圧倒的に力のある2人につかまれたとはいえ、私は必死です。
必死な時って不思議なんですよ。
通常出せない力が瞬間的ですが出せてしまうんです。
そして何とか2人を振り払い、トイレから出ることができました。
その時、走り去っていったA君が担任を引き連れて戻ってきました。
A君は一部始終とは言わずとも、現場を目撃しています。
それだけで先生を動かすには十分だったようです。
その時の担任は私がいじめを受けていて自分で解決していることを知っていました。
私に攻撃をしていた生徒とその側近は、
「あいつに殴られました」
と被害者面をしていましたが、目撃者もいます。
そんな言い訳が通るはずもなく生徒指導室へ連行されていきました。
私はと言うと、担任の計らいでお咎めなしでした。
今までの行いの差ですかね…?
そしてその日の放課後、私も一応来てくれということで生徒指導室へ向かいました。
生徒指導室へ向かうとそこには各加害生徒の親もいました。
どうやら昼休みからずっと保護者を呼んで指導していたようでした。
加害生徒の親のことは私も知っていました。
親たちはまさか自分の子供が加害者になっているとは思わなかったらしいが、最近のモンスターペアレンツと呼ばれる親たちではなかったため現実を受け止めてくれたようでした。
この一件の後、中学校での私へのいじめが無くなりました。
いじめの加害側は反撃してこないことを前提としていじめています。
それが反撃してくるとなると、自分たちにとって扱い辛くなります。
わざわざ扱い辛い奴をいじめる対象にはしないでしょう。
だから私に対するいじめが無くなったのではないかと思います。
――誰もが私のように反撃できるわけではありませんし、自分で行動していじめを終わらせようとするわけでもありません。
むしろ私のような人の方が珍しいでしょう。
いじめられている人が100人いたら私のような人は1人いれば良い方でしょう。
私は良い意味で壊れていました。
ココロに対する苦痛を感じない程に。
ただ、少なくとも護身術は習っておいて損はないと思いました。
少なくとも自分の身を守る役には立ちます。
いじめられる側が考えるべきは、どうすればいじめられないかではありません。
大事なのはいじめられた場合の対処方法の引き出しを増やすことです。
自分自身で何とかしようとする方法だけを考えなくても良いのです。
対処方法を知っていればそれなりの行動ができます。
学校の先生が信用できないのであれば、いじめられているという証拠を集め教育委員会や役所に叩きつけても良いと思います。
あまりにも酷いのであれば警察に頼るのも手です。
何に頼るにしても証拠が必要です。
自分で何とかしたいのであれば何としてでも証拠を集めてください。
私は運が良かっただけです。
これ以上に酷い経験をしている人はたくさんいると思います。
ただ、死を選んではいけません。
死にたいと思うのならそれをどこかに吐き出してください。
今は吐き出せる場所がたくさんあります。
頼ることは恥ずかしいことではありません。
もし恥ずかしいと思っていても、その恥ずかしさを飲み込んで誰かに頼ってください。
もしかしたら何とかなるかもしれません。
無責任かもしれませんが私には『確実になんとかなる』とは言えません。
――さて、いかがでしょうか。
これが中学生の時の経験です。
多分、小・中・高で一番酷かったと思います。
では、次は高校時代のお話になります。
いじめ ~変化するココロ~ DICE @dice10
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