第3話 生と死の綱引き・いじめる側の定義

 死にたいと思うようになった私は、まだ幼いながらに「生きる」ことの意味を失いかけていました。 失いだけで失ってはいなかったことが、いま私が生きていられる理由なのだと思います。


 もしここで生きることの意味を失っていたら……。

そう思うだけでゾッとしますね。

おそらく昨今のニュースのように自殺していたかもしれません。


 『自殺』というものは衝動によって引き起こされます。

その衝動にブレーキをかける役割を持つのが『理性』です。

人は常に『衝動』と『理性』の綱引きをしています。

皆さんもこのような経験はありませんか?


 ――とある買い物中

たまたま欲しかった商品が売っているのを見つけました。

あなたは

「欲しい!」

と思いその商品を手に取ります。 ここで理性が働いた場合は

『今本当にその商品は必要なのか? お金に余裕はあるのか?』

と考えます。

ここで理性が働かなかった場合、あなたは後先考えず商品を購入します。

理性が働けば、購入するか否かを考えた上で結論を出します。

これが『衝動』と『理性』の綱引きです。


話が少しそれましたね。 

理性が働けば自殺を思いとどまるしれません。

あくまでも理性は一時的に待ったをかけるだけであり、最終的な判断は自分が行います。 限界まで追い詰められていれば、たとえ理性が働いたとしても死の道を選んでしまうでしょう。

その死が衝動的であったか否かの判断は難しいですが、理性が働き一度考えた上で死を選んだ場合は遺書を残している場合が多いと思います。

衝動による場合はフラっと電車に飛び込んだり、ビルや崖から身を投げたりする行為が多いかもしれません。

その死が衝動か考えた末なのかは本人にしかわかりません。


 私は小学4年生くらいの頃にこの綱引きをしていました。

私がいま生きているということは綱引きに理性が勝ったということです。

この理性には家族や仲の良い友人のこと、将来やりたいことへの希望がありました。

理性が勝った瞬間、こんな反発心が芽生えたのです。


「今死んでしまっては損しか無い! 自分が死んだところでいじめてきている奴らは痛くも痒くもないんだ! だったら見返してやる!」


そこからです。 いじめに対して「やめろ」と言えるようになったのは。


 さて、「やめろ」と言えるようになって何が変わったのでしょうか?

結論から言うと、何一つ変わりませんでした。 むしろ反発したことによっていじめる側の反感を買ったようです。


 これがいじめの2つ目の特徴ですね。

大人に相談したらいじめが悪化し、自ら反発しても悪化する……。

もう、どうしたら良いんだよ……。

 反発した時に加害側の代表格の生徒に問いただしました。

問いただした時は頭に血が上っていたため内容はあまり覚えていませんが、この2つは確実に聞きました。


「なぜいじめるの?」

「何か悪いことしたか?」


と。 相手の返答は……


「楽しいから」

「存在することが悪い」


といった内容でした。 酷いものですね。


――自分の基準に基づいて人を選別し、理由はどうあれ気に入らなければいじめても良い。


これがいじめる側の定義のようです。

そうです。 いじめられる側が何をしようともいじめる側が


「こいつ気に入らないな」


と思ったらいじめる対象になるのです。

そして、彼ら彼女らのリーダーが


「こいつを無視しろ」


と言えば組織的に一個人を無視し、それを他の生徒にも強要します。

強要された生徒は拒否したら自分自身もいじめられる可能性があるため従わざるを得ません。 結果クラス全体…広ければ学年全体、学校全体へと広がっていきます。


 私の場合は短期間ではありましたが、クラス全体からいないものとして扱われたことがあります。 正直、暴力や陰口に比べればどうという事はありません。

担任も薄々気づいていたようで、積極的に私に関わってくれました。

私が無視されていようが普通に生活していた故に、無視という手段は意味を成さないことが分かったのでしょう。 すぐに日常的ないじめに戻りました。


――4年生もいじめが続いたまま終わりました。


 そして、自分自身が高学年という立場になってもいじめは続いていました。

正直、ここまで長い間いじめが続いているといじめられる側としての感覚がマヒしてきます。

 私の通っていた小学校では学年が変わり新年度が始まると、決まって顔写真付きの自己紹介文を4月いっぱい廊下に掲示して皆に知ってもらおうという文化的なことがありました。

この取り組み自体は良いことだと思います。

さて、『顔写真』とくればいじめる側にとっては良いターゲットになるでしょう。

そう、私の顔写真が被害にあいました。

私自身は正直気づいていなかったのですが、担任に呼び出され掲示物を見てみると私の顔写真だけがズタズタにされていました。

その写真を見た時は少しショックでしたが、その程度であればココロにダメージはありません。 感覚がマヒしていますので。


 犯人はすぐに判明しました。

私をいじめていたグループとは全く関係のない女子のグループでした。

どうやらそのグループのことが嫌いな別のグループの女子が告げ口したようです。

さて、犯人が分かったということで担任がそのグループを招集し私の写真をズタズタにした経緯を問い始めました。

担任には


「辛かったら来なくても良いぞ」


と言われていましたが、一切関わっていないグループの犯行だったので理由だけでも聞きに行くことにしました。

するとどうでしょう?


「なんで私たちが悪く言われなきゃならないの?」

「悪いことなんてしてない」

「こいつがキモいからやっただけ。それの何が悪いの?」


と言い始めました。

まぁ、予想通りと言えば予想通りでした。

さて、どうしたものか……。 考えた末に行き着いたのは……


『こいつらがやったのであれば、今ここでこいつらの写真をズタズタにしても問題ないよな?』


です。 この頃既に若干おかしくなっていたのでしょう。

やられたのであれば、そっくりそのまま同じ手口でやり返す。

そういう手段を取るようになっていました。


 そして、行動に移りました。 廊下の掲示物を丁寧にはがして、先生が女子グループを説教している教室に戻りました。

私が手に持っている女子グループ全員の自己紹介文の掲示物を目にした女子グループの一人が声を上げました。


「私たちのやつもって何してんだよ!」


と。 それに対して私は


「君たちがやったことでしょ? だった同じことをされても文句は無いよね?」

「まさか自分たちだけやっておいて、やられるのは嫌なんてそんな都合の良いこと言わないよな?」


そう言って、自己紹介文の掲示物の写真をズタズタにしました。

するとリーダーと思しき女子は今にも飛び掛かってきそうなほどに激怒していました。 取り巻きの女子はこれ以上事を大きくしたくないのか、必死にその女子を止めていました。

先生はというと、私の行為を止めませんでした。まぁ、後で


「やりすぎだ」


とは言われましたが。


 いじめる側にとって、いじめとは娯楽でありいじめている対象は玩具おもちゃでしかありません。

故に反論することを許しません。

反論すればよりいじめを強化し、反論する気さえ起こさせないようにしてきます。

そうすることでいじめ対象のココロを掌握していくのです。

いじめられている側は


「従わなければもっと酷いことをされる」

「反論すると暴力を振られる」

「誰かに相談すれば更に酷くなる」


こういった恐怖が付きまとう日常をいじめが続く限り、延々と送っていくのです。

そうして、耐えきれなくなった人は自らの命を絶つことを選んでしまうのです。


――いじめとは人を狂わす。


とは言え、私はいじめに対して耐性のようなものができてたため酷い仕打ちだろうと耐えられました。

それでも人としての根幹にある性格は狂ってしまいましたが。


いじめとは人生を狂わせることもあれば、人としての根幹にある性格を狂わせてしまうこともあります。

元々の私は一言で言うなら明るい性格でした。

ですが、この頃からは全てに無関心でやられたことはやり返す。

既に感情と呼べるものがあまり機能していませんでした。

それ故に、いじめられても何とも思わない。 殴られても苦痛ではない。


「だって、全てやり返せば良いんだから」


こんな感じの一言では表せないような正確に変わってしまいました。

そうですね……。

アニメや漫画で言うと”闇落ち”ってやつなんですかね?


まぁ、そんな感じで小学生のうちに性格がガラっと変わってしまったわけです。

いじめは人を壊すのです。


私はたまたま完全に壊れる前に耐性が付いただけです。

運が良かっただけなのです。

一歩間違えれば私は今これを書いていることはなかったでしょう。


 ――さて、小学生の頃のお話はここでお終い。次からは少し成長した中学生の頃のお話です。

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