第15話 家族

「おはよっ!ユウお兄ちゃん!」そう朗らかに挨拶の言葉を、俺に投げ掛けた少年。さて、どう返そう。まず、寝ぼけた演技で誤魔化すか。


「ふわああ。おはよ。所で、君の名は何だっけ?」半笑いで聞いてみる。


「やだなぁ、ユウお兄ちゃん。僕のことを忘れたの!?志狼だよ!左門志狼!」


よし、なんとか名前を聞き出せた。ここから帳尻を合わせる。


「俺さ、昨日変な夢を見たせいで、あまり眠れてないのか寝ぼけてて。すまんな、志狼。変なこと聞いて。」


「ユウお兄ちゃんが変なのはいつものことだし大丈夫だよ!いつも空ばかり見上げてぼーっとしてるし!」


「あ、ああ。そうだな。」この俺の前世らしき少年は、何処か掴みどころのない少年らしい。なんとなく、状況は把握出来た。


「あ、忘れてたけど、ご飯のことユウお兄ちゃんに伝えに来たんだった!一緒に食べよっ!」


うっ。俺にそういう趣味は無いが、天真爛漫過ぎて目眩がする。俺にこの子は太陽のように眩しい。


まあ、この領域内でも腹は減るみたいだし、空間内に悪意も感じられない。本当に敵の創り出した領域なのか、疑う程に安全だ。敵を釣るために、敢えて流れに乗ってみよう。


「おう、では食べに行くか。」


「二階でお父さんお母さん、それとモコちゃんが待ってるよ!いこいこ!」


モコちゃん?ペットか何かか?まさか。


「ワンワンワン!」突如、黄色い毛並みの恐るべき物体が、俺の顔面に飛び付いてきた。そう、俺がモノノケよりも忌み嫌う生命体。その名は、犬。


俺はガキの頃、ヤクザが放し飼いにしてるデケェ犬に腕を噛まれて、大量出血をしたことがある。


そのときは既にアドマ師匠と居たので、ヤクザは師匠によって半殺しにされ、その犬に関しては動物好きの師匠の温情で、お咎め無しだったが、聞いた話によると、半殺しにされたヤクザの逆恨みで、保健所送りにされたらしい。その話を聞いて、師匠はこんなことを言っていた。


「焚。あることをお前に教えよう。古い文献によると、まだこの世界にモノノケが存在せず、狩人と犬が共生してた時代があってな。不思議なことに、犬達は狩人に懐く習性があり、狩りの際には犬が獲物を追跡したり、指示の元、仕留めたりすることがあった。そして、寿命や獲物にやられて、亡くなったときは、家族同様に弔っていたんだ。」


「だから、犬ってのは昔から私等にとって、最良のバディでもあるんだよ。そして、一番この話で大事なことだ。」


「飼われる側、利用される側。この二つがどれだけ善良であったり、悪意が無くとも、飼う側、利用する側に悪意や敵意が有れば、強力な武器となりうる。私が言いたいのはね、焚。」


「狩人たるもの、武器も人脈も、常に自分が振るう側であること。利用される側、飼われる側であれば、そういった無辜の人種に対しても、悪意は牙を剥くし、責任を擦り付けて、最後は切り捨てるような奴ばかりだ。この世の常ってやつだね、善人はとことんしゃぶり尽くされる。残酷だが、あのヤクザが飼ってた犬もそうだね。」


「だから、アンタには弱い偽善の犬で居るよりは、全てを手中に収める義悪の狼になって欲しいのさ。この言葉の意味は、いずれ語るさね。今のお前にはまだ早い。」


こうやって、犬とは何たるかを語られたから、嫌に印象に残っちまってるのが実際の所だ。その殺処分された犬も不憫に思ってるしな。


このモコとかいう犬がベロベロ舐めてきて、涎まみれになっちまった。


「あはは、駄目だよ、モコちゃん。ユウお兄ちゃんは昔から犬嫌いなんだから。」


こいつもそうなのか。なんか親近感湧いた。


「ちょっと顔を洗ってくる。」


「いってらっしゃーい!」


「ふう。戻った。」


「ユウ、起きるのが遅かったじゃないか。今日の朝ごはんは、父さんが釣ってきた、魚の塩焼きだぞ。どうだ、嬉しいだろ〜?」


「ふふ、父さんはまた子供みたいにはしゃいで。」


「俺はいつも子供らしくいたいんだよ、良いじゃないか、なあ、ユウ!」


大分明るい家庭のようだ。親父さんも、陽気な人で嫌いじゃない。奥さんからは、優しい雰囲気を感じる。


「では、いただきます。」


食事が終わって、志狼と歯磨きをする。


「ひっほにはっほうにひほ!」


「こらこら、志狼、きちんと洗い流してから喋れって。」


「ごめんごめん、一緒に学校に行こ!」


「ああ、そうだな。」


その後、俺はランドセルで学年をチェックした。「六年生か。」


「僕は三年生!」


「うわっ!?志狼、聞いてたのか。」


「遅れちゃうよ、はやくはやく〜」


「へいへい。」


どうやら志狼によると、バス停まで歩き、その後電車に乗り換えて通ってるらしい。ちょうどいい運動になる。


後、隠れて試したのだが、自分の精神世界故に、術式を展開すると、それと紐付けされた都牟刈を取り出すことが出来た。これでいつでも奴、九尾妖狐を殺せる。さて、蛇が出るか、鬼が出るか。

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