第14話 過去
モノノケ忌譚14話
焚達は訓練を終え、帝都本部の談話室で菓子と茶を啜りながらテレビを見ていた。
「焚っち、コクトー、今日はお疲れ様だぜyeah♪チョコレートと飲み物でもどうかな?」
「黒桐、チョコレートって何だ?」
「焚、知らないのか?カカオっていう豆を液状に溶かして、砂糖とミルクを混ぜ合わせたお菓子だ。甘くて戦闘後や訓練の後にはちょうどいいんだぜ。脳がほぐれる。あ、海斗さん、俺はコーヒーで。」
「じゃあ、俺もコーヒーってやつで。」
「了解、二人共。甘いのがあるから砂糖は要らねぇなok?これ飲むと疲れが吹っ飛ぶぜメーン。」
海斗は飲み物とチョコを取りに行った。
「ところでよ、黒桐。」
「なんだ?」
「海斗さんがやってた妖纏なんだが、ありゃ俺達にはできる気がしねぇ。最後までやったが、俺達は鉱石を破壊するのがやっとで、綺麗な切断は出来なかった。あの人のように無駄な破壊の伴わない一点集中の攻撃というのが、どうも感覚として掴めない。」
「俺もだよ、焚。彼が言ってたけど、俺達はどうやら力み過ぎらしい。完全に脱力した状態で、技を放つというのは一朝夜で出来るもんじゃない。恐らく、独特のある境地に行き着かないと出来ないのだろう。俺もそれが何なのか、知りたい所ではあるな。」
海斗が戻ってきた。
「おーっと?オレの居ない所で噂話かブラザー?それは光栄だぜメーン!ほい、コーヒーとチョコだぜ。」
「ありがとうございます。」
「ところで、海斗さんは何故狩人に?」
「それはだな...言い辛いんだけどな... まあ、二人になら、教えるよ。」
「恋人を目の前で殺されたんだ。名はミショーン。金髪の色香漂う女性だったけど、根は誰よりも繊細で優しかった。兄弟と上手くいかなかった俺にとって、彼女は唯一の理解者だった。でも、それは唐突に奪われた、だから狩人になったんだ。まあ、俺達狩人は大なり小なり、そういう不幸の元で、戦うしかなかった脛に傷を負った戦士なのさ。いつか、二人の狩人になった理由も話してくれよ。」
「「分かりました。」」
「おっと、年寄りの昔話でシケちまったな。菓子と茶を啜りながらテレビでも見るか。今日の目玉番組はサッカーだぜ。」
突如、本部に時空の歪みが発生した。
「なんだこれ、気持ち悪い... ウッ...」
焚は意識を喪った。その一分後。
「どこだ、ここは... 空が真っ青だし、見慣れない土地だ...」
「うふふ、ここは貴方の記憶の残滓から私が創り出した場所。お初にお目にかかります、焚くん。私は九尾妖狐。これから貴方を記憶の旅に連れて行く女よ。」
「貴様、モノノケか。他の二人はどうした?」
「他の二人は、今帝都本部の外かしらね。両面宿儺と酒呑童子がお相手してるわ。貴方だけを隔離した理由、それは。」
「貴方の中にあのアドマお姉さんと並ぶ強さのお爺さまが居るからよ。名を閻魔屠。私達の霊視能力では、それがもう誰なのか検討は着いてるわ。でもオシャレな皮肉ね、ジャムシード王、すなわち閻魔様に屠られたから"閻魔屠"なんて。」
瞬間、焚の脳裏にあの悪夢の内容がフラッシュバックした。
「がっ!頭が割れる...!」
「もう貴方は私の術中の、と・り・こ。本当に虐めがいのある坊やね、ゾクゾクしちゃう。」
「黙れ...!女狐...!」
「そう言ってられるのも今のウチよ。では一名様、前世の旅へごあんな〜い♪」
「うおおおおおおお...!」
気が付くと俺は、ベッドで目を覚ました。どこの家だ、ここは。混乱する頭を整理する。おそらく、ここは、九尾妖狐の創り出した幻術だ。ここで何が起きても、平静さを失わないでいなければ。ここでアドマ師匠の言ってた言葉を思い出せ。
「焚、ごく一部のモノノケや、狩人が使う幻術に掛かったときの対処を教える。その術式の名は、総称として、領域構築と呼ぶ。それは、術者の魂の有り様や、心象風景を具現化したものだ。早い話、私達の使う異能により、世界そのものを構築してしまうという大魔術だ。」
「この領域内で発生する事象は、全て術者に有利に働く。そして、もしその場所で死ぬことは領域内から抜け出すことではなく、永劫にその空間に魂を囚われる。すなわち、精神の死により廃人化することを意味する。」
「ここに囚われた場合の抜け出す方法は一つ。領域内に居る術者を倒すか、己の領域で相手の世界を塗り替えるか。後者の場合、まだお前の強さではそれは難しい。だから、もし引き摺りこまれたら、前者を必然的に選ぶ形になる。」
「そこで必要なことは3つ。まず、深呼吸し、常に冷静で居ることを保つ。一瞬の焦りや、精神的動揺が、死を招くぞ。2つめは、その場に適応すること。適応出来ないことそのものが、パニックの元となり、不利な状況を生む。もし精神攻撃系の領域だった場合は、適応こそすれど、創られたものであるという認識を持て。そういった状況では、精神力、つまり魂の強度が勝敗を決する。3つめ。目標が現れるまで索敵し続け、出現次第、己の死力を尽くして敵を殺害すること。そこに一切の甘えや情を持つな。最終的に全てを決めるのは殺意だ。どんな時に於いても、獲物を殺すのは我々狩人であり、例え、同胞であろと、こちらに剣を向けた瞬間にそいつは敵だ。一片の容赦も無く、敵を肉塊に変えろ。以上だ。」
まずは深呼吸。「すううう、はー。」次は適応。適当にクローゼットのものを漁る。「ランドセルがあった。名前は、左門勇。」ちょっと催してたので、トイレに行くついでに顔を確認。ジョボボボボ。「ふむ、顔は夢で見たあの目隠しの少年だな。自室に戻ろう。」
勇とやらのスマホを弄りながら、待機してたら、何やらノックだ。「いいぞ。誰だ?」すると、扉が開いた瞬間、美少年が入ってきた。髪は羽毛のようにふわふわで、赤い目は猫のようにまん丸。そして、まだ若さが満ち溢れる体躯からは、想像通りの声が飛び出した。「おはよっ!ユウお兄ちゃん!」どうやら弟のようだ。はてさて、どうやることやら。
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