第13話 妖纏

師匠との情事が終わり、自室に俺は戻っていた。


「昨日は師匠と勢いであんなことしちまった... 顔合わせる度に小っ恥ずかしいぜ...」


焚は貰った形見の丸十字のアクセを眺めて呟いた。


「師匠の旦那さんか...たとえモノノケであろうと不殺を貫いた男ね...そんな偉大な男が付けてたものなんだ。俺もそれに劣らない狩人になりたいぜ。」


しばらく音楽を聴き、リラックスしながら歯を磨いて、帝都本部の食堂にやってきた。食堂では黒桐と海斗が待っていた。


「よう、焚。昨日はよく眠れたか?」


「遅いぞタケっち!ここの飯は人工物無しの純度100%の素材だ!よく味わってくれだぜイェー!」


「ああ、黒桐、よく眠れたよ。そんで、純度100%の素材っすかぁ。人工肉や人工野菜しか食べたことが無かったから楽しみっす。」


給仕係の若い女性がやってきた。「こちら、三人分の食事となります。今日の献立は、鰹のてこね寿司、海苔、納豆、お味噌汁、おしんこ、ポークソテーとなっております。」


「あれ、あんた、俺とどっかで会ったっけ?」


「はい。焚さんが人語を話すA級モノノケを倒したときに居た、有馬 姫理です。覚えてて頂いて光栄ですよ、焚さん。」黒髪ロングに赤い猫目、モデルのようにスラッとした体型の美人だ。とても給仕服が似合ってる。とても好みの娘だが、俺には師匠がいる。あまり目移りしては駄目だ。


「ありがとう、姫ちゃん。恩に着るよ。」「いえ、こちらこそ、そう言われただけで嬉しいです...!今狩人達の間では焚さんや黒桐さんは大型ルーキーとして話題ですからね!あのS級モノノケ鬼兄弟を討伐したことで界隈は持ちきりですよ!」


やや興奮気味に姫さんは語ったが、俺にとってあの件は忘れたい過去だ。善人を殺して得た名声や栄誉など、要らない。とても胸が痛くなった。


「あ、ああ。そうだな。では食事にするか。」


「沢山食べて、精力付けてくださいね!狩人は肉体が資本ですから!」


姫さんが給仕室に戻った後、黒桐が心配そうに話しかけてきた。


「焚、顔色が悪いぞ。またあの件か?」


「ああ。不名誉なことが名誉とされるほど、当人からして辛いものは無いさ。じゃあ飯食うか。」


「人工素材じゃない食事は、映画館の時以来だな。生の野菜や魚なんて初めて見る。どれ、まずはこの野菜から頂くか。」


「ふむ、ポリポリとした軽快な歯応えに、適度な塩味。クセがなくいくらでも食べられるな。」


「次はこの妙な豆と味噌汁で。納豆、師匠から聞いたことがある。発酵という工程を経て、ねばつきを出してるだっけな。ではこの醤油とかいうソースみたいなのをかけて、混ぜる。ふむ、中々旨そうだ。」


「なるほど、粘っこいが、大豆本来の甘味と醤油の旨味が中々に合うな。粘つきは味噌汁で中和。おお、こっちはサラっとした口触りに、爽やかな味だ。これは確か師匠の話だと、乾燥させた魚を削って入れて、そこに大豆由来の調味料を入れたものらしいな。豆同士、納豆と合う。」


「さて、次はポークソテーを頂くか。うん、ちょうど良い焼き加減に程よい脂身が口の中でほろほろと溶けて旨いな。これも旨い。」


「さて、最後はメインディッシュの鰹のてこね寿司。む、米が酸っぱく甘味がある。そして、この魚は甘だれで甘しょっぱく後味が爽やか。これもいくらでも食べれるな。」


「ふう、ご馳走様。旨かったな。黒桐。」


「自然食材がこんなに質の良いものだとは思わなかったよ。兄弟達も連れて、ここに棲みたいぐらいだ。」


「おっ!ここの飯を気に入ってくれたみたいで何よりだメーン♪この後、二人に教えたい技術がある。修行ってヤツだぜ。」


「「ウス!」」


三人は、帝都の修練所へと向かった。


「よし、着いたなブラザー。異能者に宿る妖力、それを操作することは出来るな、二人共。」


焚が答える。


「ええ、身体強化や炎を使うときに使ってます。」


「だが、今回教えるのはその上の段階のステージ、妖纏についてだぜイエー。これは身体に妖力を武器や身体に外装のように纏わせ、敵を攻撃する技だ。古来では発頸と呼ばれる技術だな。まずは思うようにやってみるんだベイベ?」


焚と黒桐は刀を構え、身体に妖力を纏わせる。そして、練習用の鉱石を攻撃を加えるが、砕けずに終わった。


「確かに妖力は纏えてるが、出力が分散し過ぎている。二人共力が入りすぎだぜ、コツとしては脱力から、身体に膜のように妖力を纏わせ、攻撃の動作の時に眼に力を入れ、纏わせた妖力を一気に放出。要は溜めからの一点集中だぜ、兄弟。」


海斗に言われたように、妖力を纏わせ、二人は攻撃を放つ。すると、練習用の鉱石は破壊出来たが、切断されるというよりは、砕け散った。


「うーん、無駄な破壊が多すぎだな。剣の場合、それが上手く出来た場合、綺麗な切断面が出来る。拳の場合は、こうなるぜ。見てろ。」


海斗は身体を水平にし、深く腰を落とし、拳を構える。「ふしゅるるるるる、ハアッ!」そして、放たれた拳は鉱石に直撃し、砕けずに、大穴がポッカリと空いた。


「これが本来の妖纏だ。こうなれるように、今日は1日鍛練だな。」


「「オス!」」


こうして、焚達の修行は始まった。


その頃、百鬼夜行の面々は、地下で作戦会議をしていた。


鴉天狗「ボス、帝都襲撃はいつにするんで?儂はあの憎っくき狩人共を殺したくて、ウズウズしてるんですがね。」


大嶽丸「まあ待て鴉天狗。偵察用の眼鬼は飛ばしてある。奴等は今修行をしてるようだ。だが、奴等には特記戦力のアドマ、鴉丸蓮、鈴鹿海斗、その他S級狩人が数人居る。狙うとするならば、単独行動をしてるときに各個撃破。」


両面宿儺「俺は強者と戦えればそれでいい。闘争こそ我が本質よ。」


九尾妖狐「私は焚って子と戦いたいわぁ。惑わし甲斐がありそうだもの。」


酒呑童子「儂は帝都本部から酒を掻っ払いたいのう。」


ぬらりひょん「我輩は大嶽丸の案に賛成だ。まず、九尾の妖術である空間隔離で、それぞれを分断し、各個撃破。明日、11月1日にそれを決行しよう。我々モノノケが人間より優れた種族であり、奴等に取って代わる新人類だということを見せつけようか、諸君。」


戦いの火蓋は、切って落とされた。

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