第10話 帝都
「そうだな、二人共帝都は初めてだろ?今日の19時の召集時間まで自由行動でいいぞ。」
「マジすか、師匠!師匠も一緒に行動しますか!?」
「いや、私は用事があるのでここで離脱する。黒桐と楽しめ、バディとの親睦を深める良い機会だ。」
「分かりました...でも、こういう所に仲間と来るのは初めての機会です。目一杯楽しんできます!行こうぜ、黒桐!」
「おう、でもはしゃぎすぎて、遅刻だけはしないようにな!」
ひとまず師匠は離脱して、二人で行動することになった。俺は今までこんな綺麗な景色を見たことが無かったし、仲間と一緒に見て回れるのはとても嬉しかった。師匠が居ないのは少し残念だったけど。今日は特別な一日になるな。
「で、何処から楽しむよ、黒桐。」
「まずはあそこに行ってみようぜ、相棒。」
黒桐が指を指した先には、奇妙なオブジェと、巨大な機械があった。アイスクリーム、と書かれている。
「この食べ物は、本で読んだことがある。冷たくて甘い氷で出来たお菓子だそうだ。気になるだろ?」
「甘い菓子か。そんな高価なもん、ろくに味わったことねぇな。あってもふ菓子ぐらいだ。食べてみたい、かも。」
「今日は全部、俺の奢りだ!」
「チビ達が居るんだろ?そんな散財して大丈夫なのか?」
「無問題、死んだ親父と、お袋の遺産が大量にある!帝都で遊ぶくらいなら大丈夫だぜ。」
「では今日は貸しだな。いつか返す。」
「おう!おやっさん、アイスクリーム二つで!」
「あいよ。」
店主は妙な機械に付いたボタンを押して、黄色い菓子に白い物体を入れている。
「はい、アイスクリームお待ち。」
そういって手渡されたこの得体の知れない何かを、不思議な心持ちでまじまじと見つめる。
「おい、早く食わねぇと溶けちまうぞ。」
「ああ。」先端を少し齧る。...!とても甘い。それでいて冷たくさっぱりとした食感。いくらでも食べれそうだ。
夢中になってあっという間に食べ終わってしまった。「ハハハ、口に付いてるぞ、はい、ティッシュ。」
「...!すまんな。」年甲斐もなくはしゃいでしまった。自分の子どもっぽいところをバディに見せるのは、少し恥ずかしいな。
でも、悪くない。「糖分も補給出来たし、次はあれでも乗ろうぜ。」
黒桐が指を指した先には、妙な箱型の乗り物が、もうスピードで走っていた。「あれはなんだ?」
「ジェットコースターという乗り物らしい。本によると、スリルを楽しむ為のモノみたいだ。」「スリル、ねぇ。そういうのはモノノケ退治で味わってるけどな...」
実を言うと少し怖かった。乗り物自体に乗るのも、酔うのであまり好きではない。
「なんだ、怖いのかぁ~?」黒桐が茶化す。
「いやいや、そんなことはないけどよ!」
図星を付かれて焦る。「まあとりあえず乗ってみようぜ!何事も試しだ!」
「あ、ああ。」
しばらくの間列に並び、順番が来た。「お、おい、黒桐。命の危険性は無いよな?」
「はっはっはっ、大丈夫だよ。それに俺達はいつも死線を潜ってるだろ?これぐらいでビビんなって。」
「そうだけどさ...やっぱり不安だぜ...」そうこう言ってる内に、乗り物が頂上まで着いた。
「お、おい、これ本当に大丈夫なのかよ...」
「怖がり過ぎだ、焚!そろそろ落ちるぞ、そんときは思い切り手を上げると楽しいんだってな!」
話してる内に、乗り物が高速で落下し始めた。「ギャアアアアア!」絶叫する俺。こんなに叫んだのは初めてかもしれない。
「ヒャッホー!最高だな、焚!」黒桐はとてもスリルを楽しんでいた。
荒い呼吸を、何とか整えようとする。「ぜぇぜぇ、あれに乗るのは二度と御免だぜ、黒桐。」「まぁまぁまぁ、たまにはああいうのも良いだろ?」
「少し休ませてくれ。」
「ああ、いいぞ。少し休んだら、次はここに行こうぜ。映画館、って場所だ。何やら、旧時代の人間が造った、娯楽映像を楽しむ場所らしい。」
映画館か。俺は娯楽に縁が無い生活だったから、少し気になるな。スマホのアプリも最低限しか入れてないし。
「それは中々面白そうだ。行ってみる。」「よし
決定!」
そう言って、30分程休憩し、少し歩いて映画館に着いた。映画館の壁には、スーツ姿にサングラスを掛けた男女の写真が張ってある。
「これはどんな内容の映画なんだ?」
「スマホで調べたが、電脳世界っていう、人工的に創られた世界で戦う系の話らしい。」
「何となく難しそうだな。後、人工的に創られたっていう設定がここの帝都みたいだ。」
「ハハ、確かにそうだな。とりあえず見てみようぜ。」そう言って、俺達は中に入った。受付でチケットを買って、それを係員に見せた。「お楽しみ下さいませ。」
「ああ、そうだ焚、飲み物とおやつは食べるか?」「ここにもあるのか?」
「ああ、コーラって飲み物と、ポップコーンていう塩味のおやつがある。飲み物の方は、独特な甘味に、ビールみたいなさわやかな爽快感が味わえるらしいぜ。」
「とりあえずそれ、貰うか。」
コーラとポップコーンを買って、上映室に入って行った。中は真っ暗だ。目を凝らしながら、チケットで指定されている座席に座った。
「そんじゃ、この得体の知れないおやつを食べてみるか。...!」塩気が強く、サクサクの食感で非常に旨い。
食べ出したら、手が止まらなくなった。次はコーラだ。...!
表現のしようのない、独特な香りと甘さに加え、シュワシュワとした飲み心地が堪らない。映像を見に来たのに、飲み物とおやつでかなり満足してしまった。
「お、そろそろ始まるみたいだぞ。」
映像が映った壁には、カウントダウンが表示され、映画が始まった。この帝都で見た、奇妙で巨大な建物が沢山並んでいる。
主人公は、ボタン付きの、スマホに似た装置を動かしている。場面が進み、サングラスの男に、赤い錠剤と青い錠剤を選択させられている。青い錠剤を飲めば、何事も無かったかのように生きられるが、赤い錠剤を飲めば、衝撃的な真実と、過酷な戦いが待ち受けているとサングラスの男は語っている。
主人公は、赤い錠剤を飲んだ。いきなり場面が変わり、主人公が奇妙な機械に繋がれて寝ている。そして場面が元に戻った。
どうやら、機械に繋がれて、人工の偽の世界に閉じ込められているという状況らしい。
俺は何となく、今俺が生きている、モノノケという怪物が跳梁跋扈する世界が、誰かの悪意によって人工的に造られたモノだとしたらと、不穏な考えを抱いてしまった。
いや、そんな筈はない。こんな狂った世界を悪意を持って創造出来る超越的な力を持った存在など居ない。
全てが偶然によるものだ。
俺はそう思った。だが、それが気になり、それ以降の話と映像が、殆ど頭に残らずに、映画館を後にした。
「中々難解な映画だったな、黒桐。俺はもしこの世界が意図的に、それも悪意を持って創られたモノなんじゃないかと思ってしまって、なんだか落ち着かなかったよ。」
「はっはっはっ、焚は想像力が逞しいな。んー、でもそれもあり得るかもしれないぜ?人知を越えた存在であるモノノケに、それに対抗出来る俺達だろ?俺はそこに作為的な何かを感じる。もしかしたら、悪意を持ってしてこの地獄のような世界を造り、因果率を意のままに操る、謂わば神のような存在は居ても可笑しくねぇな。」
「でも、そんな存在が居るとするなら、神様じゃなくて、邪神か悪魔の類いだな。」
「あー、それは違いないな。おっと、そろそろ召集時間だ。本部に行こうぜ。」
「そうだな。今日は楽しかったよ。」
俺達は映画館を後にした。だが、この時は気付かなかった。モノノケという枠組みすら越えた、邪神達が世界を操っていることに。
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