第7話 鬼達
飢人を倒した焚と黒桐は、山の中を進んでいた。
「なぁ、ところで焚はなんで狩人になったんだ?」
「ああ、そのことについてか。成り行きだ。殺す以外に方法が無かったから狩人になった。詳しく話すと、俺は孤児で、家族が居なかった。店から盗んだり、ゴミを漁ったりして餓えを凌いでた。そんな時に出会ったのがアドマ師匠だ。彼女は狩りを手伝わせる代わりに、俺にとってまともな人間としての生活を約束してくれた。そして、十年間一緒にいて、そこで銃の扱いや刃物の扱いを習った。あのときは孤独とは無縁で、楽しかったよ。俺はなんだかんだ言って一人になるのが怖いのかもしれねぇな。」
「成る程、お前にはそんな過去があったんだな。血の繋がった親が居なくて、寂しかったことはあったのか?」
「いや、アドマ師匠と出会う前は、生きることに必死で感傷に浸る余裕は無かった。師匠と出会ってからは、育ててくれた彼女のことを親のように思ってたから、そこでも寂しさとは無縁だった。」
「じゃあ尚更生きて帰らねぇとな。前は話さなかったが、俺には帰りを待つ兄弟が居るんだ。五年前、俺が15歳ぐらいの頃、両親がモノノケに襲われて死んで、その後、俺は狩人になった。狩人になった理由の一つとして、チビ達の為に生計を立てる為というのもあった。そして何よりも、両親の仇を討ちたかった。」
「黒桐も大変だったんだな。兄弟の為にも絶対に生きて帰るぞ。」「ああ。」
俺達は洞窟の目の前に着いた。分厚い岩戸を開けて、中に入った。かなり暗かったので、ランタンを付けた。しばらく進むと、10人程の小さい子供たちが居た。
「この子供らは、救出リストに載ってる子達だな。怪我は無いか?」
「大丈夫だよ。お兄ちゃん達は誰?なんでここに来たの?」
「それはだな、君達を拐った悪いモノノケをやっつけに来たんだ。」
「鬼さんたちを殺すの?それは駄目!あの人達は毎日ごはんを作ってくれるし、私達をいじめる悪い親から救ってくれたの!だから殺さないで!」
「おいおい、洗脳されてんじゃないのか?」俺が不謹慎な軽口を叩く。
黒桐が答える。「いや、それは本当かもしれないぞ。よく見ろ、この子達の顔や腕には殴られた痣がある。これはモノノケによるものではない、人間が作ったものだ。怪異対策協会に引き取ってもらった方がいいかもな。」
「分かった。討伐対象を殲滅次第、応援を呼ぶ。」次の瞬間、奥から声がした。
「おい、どうやら虫が入り込んでるみたいじゃぞ、兄者。」
「そうみたいだな弟よ。」
討伐対象がやって来た。二本角の生えた赤鬼と、一本角の青鬼だ。
「コドモたちはわっしらの希望、決して奪わせはせん。覚悟はいいか、ニンゲンよ。」
「異能発動 阿吽」次の瞬間、二体の妖力が大幅に上昇するのを読みとった。
「なんて妖力だ、こっちの肌まで鳥肌が立ちやがる!」「躊躇したらこっちがやられる!行くぞ、焚!」「応!」
こちらも異能を発動し、臨戦体制を取る。「残火よ、不浄を焼き尽くせ___ツァラトゥストラ!」「鋼よ、より鋼であれ___ブラックストーン!」
二人の妖力と、赤鬼青鬼の妖力で、空間が振動する。戦いの火蓋は、切って落とされた。
まずは中距離から牽制だ。「爆炎舞!」俺は手から異能による爆炎を放射した。目の前の敵二人が焔に包まれる。
だが、手応えを感じる暇もなく、高速で突っ込んでくる。「チッ!」ツムカリで防御するが、その前に余りの膂力で、骨がへし折れそうになる。痛ぇ。俺は急いで距離を取るが即座に距離を詰められ、成す術がない。
「大丈夫か、焚!オラァ!」硬質化した大剣で攻撃する黒桐。だが、鋼鉄と鋼鉄がぶつかりあった高い音が響いた。「クソ!...ガッ!」
青鬼の飛び蹴りが黒桐の腹に炸裂する。
「硬質化してなかったら今ので終わっていた!焚、策はあるか!?」
「"アイツ"を呼び出す!閻魔屠!交代だ!」焚の妖力が、別のものへと変化する。顔つきも不敵なモノへ変わっていく。
「どれ、中々追い詰められてるようだの。ではこれを使うか。」
閻魔屠は榴弾付き散弾銃を天に掲げて発射した。天井が崩れ、子供達にも降り注ぐ。
「...兄者、コドモを守るぞ!」赤鬼がそう叫ぶと、青鬼が持ってた鎖鎌で落石を粉砕する。隙が出来た。
「善し、今じゃ。若いの、捕まっていろ。フッ!」爆音が響き、焚達の身体が天空へ舞い上がる。「逃げられた、兄者。」
「弟よ、奴等はいずれ戻ってくる。そして、あの爺さんの感じだとわっしらは負ける。これでコドモ達と触れあえるのも最後じゃ。それまで、一緒に居よう。」
果たして、ここまで人間性の強いモノノケを敵と呼べるのだろうか。だが、それでも焚達はモノノケを狩る。
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