第6話 鉄塊

いっぽんだたら達を討伐した焚は、失意のまま自宅へと帰ってきた。「...なんかすげぇ疲れた。師匠にも喋るモノノケの件を伝えた方が良いかな。」


スマホを手に取り、師匠へ連絡を掛ける焚。


「こちらアドマ。ご用件は?」


「師匠、焚です。」


「おお、焚か。生きてるということは討伐出来たようだな。お疲れ様。で、私に何か用か?」「今回倒したモノノケの件についてです」____


「______てな感じでした。人語を放ち喋るモノノケはこれからも現れるのでしょうか?そして、彼等は同胞だけで、独自のコロニーを形成してた。それに、コロニーに籠るだけで、俺達狩人や一般人には全く危害を加えて居なかった。本当に俺がやった殺しは、本当に正しいものだったんでしょうか...」


「人語を理解し、喋るモノノケね。最近増えてるな。そんで、私も危害を加えず、人里離れた所で暮らすモノノケを討伐しに行ったことがあった。奴等は人語こそ話さなかったが、仲間が殺されて、憎悪の目を私に向けていた。私も辛かった。でも、帝都本部の命令は私ら狩人にとって絶対で、これは正しいことなんだと己に言い聞かせることしか出来なかったよ。そしていいか、焚。この狩人家業で最も大切なことは、考えることを止めること。思考を停止して、脊髄反射で動く殺人機械に己を変えることが重要なんだ。前にも言ったが、お前は飢人やモノノケに対して同情心や優しさを持ちすぎている。優しさは、人が生きる上で絶対に欠かせないものだ。だが、この仕事では、その一瞬の躊躇が己を殺す仇となる。生き残りたいなら、優しさは、一般人や同胞の狩人だけに持つことだね。」


「... 分かりました、出来る限り、そうしてみます。」


「所で、次の任務なんだが、これはもう一人居る昇格待ちの狩人とバディを組んでやってもらう。これを終わらせれば、お前も晴れて帝都本部直属のA級狩人だ。討伐目標は、赤鬼と青鬼。こいつは人里に赴いて、小さな子供を誘拐している悪質なモノノケだ。親族も、早く連れ戻してきて欲しいと騒いでる。そしてコイツらは二人で一体と言うべき、阿吽の呼吸で動くモノノケだ。もう一人の狩人との連携が重要になってくる。そんで、その狩人はいつもの集会所で待機している。詳細は以上だ。絶対に生き残れよ。」


電話を切り、焚は集会所へと足を運んだ。


集会所に着いた焚。ここに来るのはバス襲撃以来だった。「師匠によると、今回のバディは黒髪に筋肉質な大剣使いだっけ。あ、あいつか。おーい!」


「お、君が今回のバディだね。俺の名前は三国黒桐。君の名前は?」


「七灯焚だ。よろしくな。あんた、機関銃に大剣、それに加えて黒い西洋甲冑なんぞ着てるが、それで動けるのか?今回のモノノケは素早いぞ。」


「大丈夫。俺、こう見えてもかなり鍛えてるんでな。それに、君もそんな細身の身体でそんな大層な野太刀を振れるのか?」


「問題ない、こう見えて異能持ちだ。妖力による身体強化で木刀のようにこれを振れる。そういえば、あんたも異能を持ってるみたいだな。どんな能力なんだ?」


「それは見てからのお楽しみに。かなりの遠出となるから、もう行こうよ。」


「ああ、帝都8区、町外れの山間部だったな。」


適当な会話をしながら、帝都8区まで二人は歩き出した。


「ところで、黒桐は何故狩人になろうとしたんだ?」


「生活の為と、モノノケによる被害を少しでも減らす為さ。俺達狩人は、戦えない弱者を守る為に存在している。そして、強者は戦えない弱者を理不尽から守る責務があると俺は思う。俺はそれに誇りを抱いてるんだ。」


「それに、力があるにも関わらず、力の無い隣人を守らずに、それも犠牲の内だと我善しで生きるような奴は理性や情の無い、モノノケとそう変わらないクズだと思ってる。こんな腐った非情な世界だからって俺達まで腐る必要は無いんだぜ、焚。」


「その気持ち、俺は分かる。俺の師匠はこう言ってた。殺し殺されという血にまみれた仕事をやっていても、常に自身が狩人である誇りと、モノノケや飢人に安らかな死をもたらす葬送の心得を忘れるなと。それを忘れた狩人は、モノノケや飢人と変わらない、獣だとな。」


「君の師匠はよく出来てるな。尊敬するよ。」 「ありがとう、黒桐。お前のように、人として完成された人間が居るだけで、この世界もそんな悪く無いんじゃないかと思うよ。」


「それは嬉しいな。さて、そろそろ山が見えてきたな。」


「了解、偵察する。」


焚はポーチから双眼鏡を取り出した。「飢人が50体から100体ほど。弾薬と剣の準備は大丈夫か?」「バッチリさ。」


「では俺の狙撃が開戦の狼煙だな。最近の飢人は進化した喋るモノノケの影響を受けて

か、素早いぞ。気を付けろよ。」


鈍い破裂音が響いた。


その瞬間、周囲の飢人が走り出してくる。 「黒桐、援護頼んだ!スウウウ...シッ!」


「あいよ!」独自の呼吸法で集中力を高め、ツムカリで飢人を切り裂いていく焚。


それを横目にミニミ軽機関銃で次々と打ち倒してく黒桐。見事な連携で飢人達は次々倒れていく。


「そろそろ弾薬が尽きる!俺も白兵戦に参加するとしよう!」


そう呟き、身の丈ほどの鉄塊のような大剣を構える黒桐。


「俺の異能は、触れた物質の強度を変えられる!柔いコイツらじゃ相手にもならねぇけどなぁ!」


そう叫び、斬撃と衝撃波で50体ほどいた飢人がみるも無惨な肉塊になった。


「すげぇじゃねぇか、黒桐!」


「ありがとさん、焚。お前が大半はやってくれたお陰で、俺の仕事がこれだけで済んだぜ。まっ!後千体ぐらいは寄越さねぇと準備運動にもならんがな!ハハハ!」


「では奥に進むか。」「応!」小粋な会話を交わしながら進む焚達。だが、その先に悲劇が待ってるとは今の二人は知るよしもなかった。

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