第8話 ラジオからテレビへ

ラジオで人気者となって様々な番組に引っ張りだことなり、忙しくなり、嬉しい悲鳴をあげていた堂島道汚は、朝のラジオ番組に出演していた。

【お願い!モーニング!】というラジオ番組だった。中でも人気のコーナーは、毎日星座占いがあり、その星座占いで自分の星座であるしし座の結果に一喜一憂する堂島道汚のコメントだった。


「堂島道汚のお願い!モーニング!さあ続いては、星占いのコーナーです。今日のあなたの星座は何位かな。ちなみに私、堂島道汚は、しし座です。それではいってみましょう。第11位から発表します。11位は、やぎ座のあなた。したはずの約束が守られず、悪い日になりそう。今日のラッキーアイテムは、赤い手帳。――さあ続いて第1位。第1位は、さそり座のあなた。やることなす事すべてが上手くいく。今日は失敗しないから思いっきりチャレンジしてみて。ラッキーアイテムは、腕時計。そしてごめんなさい。今日の最下位は、しし座のあなたです。うわー、私もだ。ショックだー。思いもしない不幸に見舞われるかもしれません。特に交通事故には十分気を付けるようにしましょう。ラッキーアイテムは、アップルティー。休憩の間に飲むようにしましょう。いやー、残念だなー。アップルティー買っておかないと。私ね、どちらかというと紅茶より珈琲の方が良く飲むので、あまり紅茶について詳しくないんですよ。皆さん、おすすめの紅茶ってありますか?あったら是非、お便りで教えてください。さあ続いては――」


その日のラジオ番組の収録を終えて、堂島道汚は次の現場へと移動していた。その時、居眠り運転をしていた大型トラックに轢かれ、幸い命に別状はないものの、右足右腕の骨折で全治三ヶ月の大怪我を負った。頭も強く打っていたので長い時間をかけて検査入院もする事になった。頭の方に異常はなかった。しかし怪我の影響で出演するラジオ番組は、全て休む事となった。道汚は、入院期間中はずっとラジオを聴いて過ごしていた。早く復帰したいという気持ちばかりが先走り、なかなか思うようにならず焦る日が続いていた。

そんなある日、病院に見知らぬ人がお見舞いに来てくれた。その男は、富井誠と名乗った。テレビ番組のプロデューサーをしていて、新しく始まる番組で喋りが上手い司会者を探しているということで、ラジオで活躍している堂島道汚に目を付けたとのことだった。堂島道汚は、入院している病院でテレビのオファーを始めて受ける事になる。その番組こそが後に堂島道汚の存在を世に知らしめる事になる【二十四の客人】であった。道汚は突然のテレビ番組のオファーに戸惑った。今までは声だけで表現してきてなんとかなっていたが、実際に映像となると、自分は動けるだろうか。道汚は、このオファーを受けるべきかどうか迷った。しかし、プロデューサー富井誠の猛烈なアプローチによって、堂島道汚は、テレビ出演のオファーを受ける事になった。

その時、堂島道汚の年齢は四十一歳。ラジオ歴は二十一年。ここから初めてのテレビ番組の司会を務める事になる。


そして伝説の国民的テレビ番組【二十四の客人】の放送がスタートしたのである。


「さあ始まりました。二十四の客人。私は司会進行を務めさせて頂きます。堂島道汚、堂島道汚でございます。道汚の漢字が間違えているのではないか?今テロップを見た視聴者の皆さんは、そうお思いかもしれません。いいえ、違うんです。合っています。私の本名は、道汚。道が汚いと書いて、道汚でございます。よくご指摘を受けますが本名です。間違いではございません。私の親は一体どうしてこんな名前を付けたんでしょう。この世に生を受けて五十五年。私は、五十五年生きておりますが、今だに怖くて母に理由を聞けておりません。そうです。道が汚いという印象を人様に与え続けて、生きて参りました。不快な思いをさせてしまい、大変申し訳ございません。私の自慢は、屈強な精神力でございます。名前でいじめられる日がよくありました。ですが周りの目は気にするな。自分の信じた道を行け。それが私のモットーでございます。そんな私にも一つ悩みがございます。私、最近、薄毛になってきました。原因は加齢でしょうか?いいえ、ストレスのような気がします。仕事の時間帯は不規則。寝る間も惜しんで番組の打ち合わせ。仕事、仕事、仕事。プライベートでは浮ついた話は一切なく、気が付けば五十五歳。もう半世紀生きてしまいました。いつからでしょう?いつからこうなってしまったのでしょう?彼女も欲しいが、その前に帰ってこい、私の毛。毛根が死んできて、そろそろまずいのではないかと危機感を抱いております。今日の番組スポンサー様は、恐ろしく生えまくる育毛剤真口育毛剤でお馴染みの真口製薬。あわよくば私をCMに起用してもらえないだろうか。そんな下心全開で薄毛をアピールするのが私、堂島道汚でございます。そして全国の薄毛を気にする人達の光になりたい。そんな思いを胸に込めて!!いざ!!ショータイム!!二十四の客人!!」


それから十一年。【二十四の客人】は、これからも続いていく。


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