ソロドリーマー
富升針清
第1話
「今日は、十時に待ち合わせ」
「たまには、違う人と寝てみたいとか、思わない?」
「正直、誰でもいいんだよね。マッチングアプリとか使ってる子も多いよ」
「彼氏以外と? するする。別によくない? 合法じゃん」
「昔はさぁ、友達同士でやってたよね」
「小学校の頃、先生が禁止って言ってたけど、誰も結局聞かんかったよね。シャーペン使用禁止並みに謎だったわ」
「出始めたのってさ、私らが小学生の時じゃなかった? 昔はおもちゃ売り場に売ってたんだよね。幼女向け玩具としてさ」
「最初、うちの親も滅茶苦茶反対してたし、絶対買わんとか言ってたのにさ、いつの間にか自分たちの方がめっちゃ使ってるし」
「てか、最近ベビー用も出たんだっけ?」
「今の時代に一人で寝る人なんて、もういないでしょ?」
「夢の中で誰かと繋がってないとか、無理無理」
「日本中、世界中、誰もが使ってる。老若男女問わずとは、この事ってぐらい」
「ソロドリーマーの時代はもう終わり」
「そして、いつでも、誰でも気軽に繋がれる。私は毎日彼氏と一緒に夢の中へ出掛けるの」
「僕は家族と。起きている時には中々出来ない事、話せない事を寝ている間に。夢の中で過ごすかけがえのない家族との時間は大切な僕の宝物です」
「中々会えない友達とでも、ネット回線で気軽にドリームタイム」
「距離も時間も関係ない!」
「夢の中なら、出来るんです!」
「そう! 六輪ピックも! 今すぐにドリームソーマッチから応募しよう! 今なら、プレミアム限定色のパープルバタフライエフェクト使用のドリームソーマッチが当たるよ!」
「皆んなで盛り上げよう! 日本!」
「夢と現実の区別がつかなる事はありせん。容量用法を守って正しくお使いください」
うるさくて何て長いCMなんだ。
テレビに映ったドリームソーマッチで開かれる六輪ピックのCMを見ながら、篠山克、四十六歳は思った。
「ちょっと、パパっ! こんな所で寝ないでよ!」
「寝ないよ」
「寝そうだった」
「煩いCMで目が覚めたからね」
「ドリームソーマッチのCMでしょ? あの限定版いいわよね。克也も新しいドリームソーマッチ欲しがってるし、応募しようかしら?」
「当たらないし、君、運動神経良くないでしょ?」
克は妻の言葉に呆れた言葉を返す。
「夢の中なんだから関係ないわよ。夢の中って凄いのよ。色んなことが、何でも出来るし。この前なんて、ドリームソーマッチって同窓会したんだから。本当に凄いわよね」
「へー」
「興味、無さ過ぎ。パパもドリームソーマッチ使えばいいのに。パパ以外に使ってない人なんていないでしょ? うちの両親も使ってるんだから」
「いや、いいよ。君達も使うのやめたら?」
「何でよ?」
「危ないかもしれないだろ?」
「いつの時代の話してんの? 安全だって、散々言われてるでしょ? 実験何千回も繰り返しても体や脳に外はなかったて証明された話知らないの?」
情報に疎い自分の夫を、まるで恥ずかしいものでも見る様な目で妻が見て来た。
克は時間の無駄だと思って何も返さずに再びテレビに目を向けて口を閉ざす。
夢の中では喋ってくれるかも言う、淡い妻の期待を裏切る様に。
「自分がいた前の会社の製品使いたくないのはわかるけど、パパぐらいよ? 使ってないの。克也も夢でパパとお出掛けしたいって言ってるのに」
「……」
「もう、いい。私、克也迎えに行くから、パパはそこで寝ないでよね」
「……」
「返事っ!」
「はいっ!」
克が声を上げると、妻は満足した顔で家を出る。
その姿を見送って、克は再びリビングのテレビの前で大の字に寝転がった。
今や、一人で夢を見る人間はいない。
それ程、ドリームソーマッチと言う元玩具は世界中に広まっていた。
誰もが使える簡単設定。
安心安全。体にも脳にも影響はない。
寝れればずくに繋がる。したい事、やりたい事、何でも出来る。
まさに、文字通り夢の機械だ。
「でもさー」
誰もいないリビングで克は声を上げた。
篠山克、四十六歳。
元、ドリームソーマッチ開発チームのプログラマー。
「あれ、何で動いてるかわかんないんだよね……」
何度も実験をしたし、安全であるエビデンスは確かに克自身も現場で見ていた。
しかし、何故あのプログラムで、あの構造で夢を完全に支配しているのか未だに誰もわからない。
「絶対、使いたくねぇー」
本当は家族にも使って欲しくない。
ソロドリーマーと周りに笑われても、そんなもんはどうでも良い。
うっかり動いてしまったプログラムは、今日もまた、誰かと誰かの夢を繋げる。
いつか、エラーが出るその日まで。
おわり
ソロドリーマー 富升針清 @crlss
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