第131話セシリオの最後 if


 もし、セリシオがクレアの妨害なく、転移を成功させた場合。


 ケース1


「転移ぃーー!」


 私の視界はガラリと変わり、ある部屋へと移動しました。


「ここは?」


 がむしゃらに転移魔法を使ったので、移動先をまったく指定していませんでした。


 自分でも、何処に移動したのか分かりません。


 この部屋は?


 見覚えがあります。


 そう。

 ここはアターシャの私室。


 部屋を見渡すと、隅っこにアターシャを発見しました。


 突然現れた私にびっくりしているようです。


「セリシオ、様?」


「ア、アターシャ」


 まさか公宮に戻ってきてしまうとは。


 しかし、これは灯台下暗しかもしれません。


 レオダス達も、まさか公宮に私が戻るとは思わないでしょう。


 ここで奴等をやり過ごし、上手く逃げ出せばいい。


 とすると、問題はこのアターシャですね。


 この女は私の本心を知り、私に怒りを向けている筈。


 それをどうにかしなければ。


「セリシオ様。怪我を」


 そうでした。

 興奮で忘れていましたが、私はレオダスに斬られていたのです。


 まずはこれを治療しなくては。


 この怪我でアターシャの同情を誘えば。


「ああ、アターシャ。助けて下さい。レオダスに、あの野蛮人に傷を負わされました」


「レオダス、様、に」


「お願いです。助けて下さい。あんなアイテムよりも、私を信じて下さい。まずはこの傷の手当を!」


「・・・」


 アターシャはぼうっとしています。


 何をしているのですか、さっさと医療道具でも持ってきなさい。

 グズ女め!


「セリシオ様」


 アターシャはフラリフラリと揺れながら、こっちにきます。


 イライラしますね。


 さっさと道具を持ってきなさい。


「わたくしを道具と思っていたのですか?」


 この!


 こんな時に何をグズグスと!


「何を言うのです。私はあなたを愛していますよ」


「本当ですの? では、わたくしとキスをしましょう」


「は? え? キス?」


 突然何を言い出すのだこの女は。


「今はそんな場合では!」


「やはり、わたくしを、愛してなどはいないと?」


 こ、この馬鹿女がぁ!


「・・・分かりました。それであなたが納得するのなら」


 アターシャは満足そうに頷くと、ゆっくりと私のそばに寄り、顔を近づけて、


 ドス。


「・・・あ?」


 何か、腹に衝撃が?


 何、が?


 顔を下に向けた瞬間。


 私はパニックになりました。


 私の腹に、ナイフが突き刺さっている!


「なっ、が、ア、アターシャ! 貴様!」


 私はアターシャを突き飛ばそうとしましたが、アターシャは離れるどころか、ナイフを握り、更に私に押し寄せて来る。


 ナイフが深く腹にねじ込められ。


「ぐはぁ! や、止めろ! 離れろこの馬鹿女がぁ!!」


「それがあなたの本性ですのね?」


 ズン、とまたナイフを奥に。


「ぐあああああああああああ!!」


「今更ではありますが、わたくしは本当に愚かでした。このナイフで命を絶とうかとすら思っておりましたが、わたくしを思ってくれたお父様や、友人達に誠心誠意謝らなければと思い、自害は思い留めようと思っていたところにあなたが」


「ア、アターシャ。助け、助けて・・・血が、止まらない。意識、が。死ぬ、死んでしまう」


「さようならセリシオ様」


 ああ、私が、何でこんな目に・・・。


 私の意識はここで途切れた。




 ケース2


「転移ぃーー!」


 私は転移で空間ジャンプすると、そこは先程いた風景とさして変わらない草が生えている所でした。


 しかし、違うのは、目の前には兵士がいたこと。


「ここは?」


 辺りを見渡すと、兵士兵士兵士。


 まさか、ここは、レキスターシャ軍の中?


 そこに迷い込んでしまったのですか?


 いきなり現れた私を、兵士達は驚いて見ています。


 不味いですね。


 私を知る者もいるでしょうし。


 ここは、早く移動するのが良いでしょう。


 私は早々に、この場から離れようとしたところに、


「セリシオ」


「レ、レキスターシャ、公」


 なんということだ。


 目の前には、レキスターシャがいるではありませんか。


 なんという不運!


 レキスターシャは落ち着いた面持ちで、ジロジロと私を舐めるように見つめます。


 私はたじろじつつも、なんとか逃げ出す隙を伺っていると、奴は何やら納得した様子で頷きました。


「なるほど。レオダス達は上手くやったようだな」


 私は自分が傷を負っていることを思い出しました。


 レキスターシャは、それで私が、アターシャから見限られたと判断したようです。


 不味い。


 これは不味いですよ!


「これで、心置きなく貴様を殺せる」


「ま、待って。待って下さい」


 早く逃げなくては。


 転移は?


 くそ、次の転移まで、しばらく時間を空けなければ。


 時間を、時間がほしい!


「わ、私はアターシャに見限られたわけではありません。これは、そう。いきなりレオダスに斬りつけられて」


「そんな見え見えの嘘が、わしに通じると思うか?」


 レキスターシャは剣を抜き、私に近づく。


「わしがこれまで、どれ程この時を待っていたことか」


 最早、弁解で切り抜けるのは不可能。


 ここはこいつを殺してでも。


 こいつを一撃で仕留め、動揺している兵士達をかき分け逃走する。


 それしかありません!


「ライトニング・ラ」


「遅い!」


 私が呪文を唱えるより速く、レキスターシャは私の懐に飛び込んで来ました。


 馬鹿な!

 速過ぎる!!




 斬!!



「が、はっ」


 痛い、これではもう。


「止めだ。苦しまぬよう情けをかけてやる」


 やめ、や、め、て。


 死にたくない。


 死にたくないーーーー!!



 ザシュウ!



 ケース3


「転移ぃーー!」


 視界が切り替わりました。


 此処は?


 目の前には石の壁があります。


 ジメジメと湿っていて、何やら臭う。


 不快な場所ですね。


 ダンジョンですか?


「セリシオ?」


「!?」


 まさか、私を呼ぶ声がするとは。


 急いで振り向けば、そこにいたのは私の愚兄でした。


「何故、あなたが?」


「それはこっちのセリフだ。いきなり現れたぞ」


 私はアルフレッドの言葉を無視して、辺りを見渡します。


 鉄格子の扉?


 まさか、ここは牢?


「此処は、一体どこです?」


 私が質問すると、アルフレッドは怒気を込めて私を睨みつけました。


「城の牢だ! お前のせいで、こんな所に閉じこめられたんだ!」


「城の牢?」


 まさか、レキスターシャから城まで、転移したというのですか?


 がむしゃらだったので、魔力が暴走して奇しくも長距離移動したのかも知れませんね。


 しかし、まさか牢とは。

 しかも、こんな奴と一緒に。


「聞いているのか。お前に手を貸したせいで、俺はこんな所に入れられたんだ。全てお前のせいで!」


 チッ、鬱陶しいですね。


 犯罪者に手を貸したのですから、捕まるのは当たり前でしょう。


 それも解らずに、意気揚々とレキスターシャ領を出た自分が悪いというのに。


 本当に無能ですねこいつは。


 仕方ありません。


 ここはまた、美味しい餌を上げましょうか。


「まあ、落ち着きなさいアルフレッド。ここから出して差し上げますよ?」


「な、なんだって!?」


 アルフレッドは飛び上がりました。


「ほ、本当なのか?」


「ええ」


 期待と不安がない交ぜになっているようですね。


 また、デーモンの生贄にしてもいいのですが、この傷です。


 無理に突破する必要もないでしょう。


 私には転移があるのですから。


「ど、どうやってだ?」


 逃亡の方に心が傾きましたね。


 まあ、ここにいれば死ぬだけなのですから当然ですが。


「転移を使います。そうすればここから出られますよ」


「て、転移だって? あんな高等魔法をお前は使えるのか?」


「当たり前です。私を誰だと思っているのですか? 大賢者セリシオですよ?」


 私はニヤリと笑った。


 ここでこいつを逃がせば、囮にするなり、使い道があるかもしれませんからね。


「では、私の傍に寄りなさい」


「わ、分かった」


「よし、では行きますか。転移!」


 私の周りに魔力場が発生し、


 スッと消えてしまった。


「え?」


 な、何故、魔力場が消える!?


「おい、どうした?」


 アルフレッドが不振に思ったのか私を見ますが、こんな奴はどうでもいい。

 何故、転移が使えない!?


「て、転移。転移ぃーー!!」


 私の呪文に応え、魔力場は発生しますが、すぐに消えてしまいます。


 こ、この現象は、クレアの妨害と一緒。


「はっ、そうか!」


 この牢には、魔法使いの脱獄防止の為に、アンチ・マジックフィールドと同じ効果の仕掛けが施されているのです。


 こ、これでは魔法が使えない!


「ま、まさか。使えないのか!?」


「う、うう。黙っていなさい!」


 どうする?


 なんでよりにもよって、こんな牢に転移してしまったのです!?


 まさか、血縁であるアルフレッドに引き寄せられたのか?


 くっ、何処まで私の足を引っ張るのです、アルフレッド!


 私がアルフレッドを睨むと、奴はそれ以上の形相で私を睨んでいました。


 は? なんで?


「・・・お前はいつもそうだ。こっちを期待させて、すぐに裏切る。天才と思っているのだろうが、期待に応えたことなど一度もない!」


「な、何をぉ!」


 こ、こいつ。

 言うに事欠いて、私に対してなんと無礼な。


 もう、こんな男、悪魔の贄としてしまいましょう。


 魔石があれば、それも可能なのは前回の召還で証明済みです。


 そう思って、実行に移そうとすると、それよりも早く、アルフレッドが私の首を締め上げた。


「ぐっ!」


「お前など、我が家の恥さらしだ。貴様のせいで、この俺はぁ!!」


「は、はな、せ。はな」


 す、凄い力だ。


 こいつ、我を忘れている!


「死ね、死ね、死ねーー!!」


「ぐ、が、ま、まで・・・」


 本当に、このままでは・・・。


「お前など、俺の弟では、ない!!」


 意識が、遠のく。


 こんな奴に、私が、わたし・・・が。



 ケース4


「転移ぃーー!!」


 転移に成功すると、目の前にとある受付が、私の視界に飛び込んできました。


「ここは?」


 そう、ギルドです。


 冒険者ギルド、レキスターシャ支部です。


 そこそこ、遠くに転移出来ました。

 火事場のなんとやら、でしょうか?


 受付や、周りの冒険者が驚いていますね。


 こんなレベルの低い連中には転移は珍しいでしょうから。


 おお、そうです。


 ここが冒険者ギルドなら、レオダスにやられた傷を治してもらいましょう。


「だ、誰か。回復術士はいませんか? 私の治療を」


「セリシオさん」


 私が言葉を言い終える前に、誰かが私を呼びました。


 振り返ると、そこにいたのはギルマスです。


 この女、そういえば、魔法使いでしたか?

 回復魔法を使えるでしょうか?


「いえ、セリシオ」


 む、何やら剣呑な雰囲気ですね。


 一体なんです?


「何故、いきなり現れたか知りませんが、ちょうどいい。お前の容疑が固まりました」


 は?


「お前を冒険者複数殺害の罪により、今、この場で断罪する!」


「なっ!?」


 なんですって?

 一体どうして?


「ま、待ちなさい。なんのことですか? 私が殺したなどという証拠はない筈」


「お前が殺した現場を目撃した者が現れました」


「ば、馬鹿な。そんな奴がいる筈がない!!」


 誰も現場にはいなかった。


 誰がそんなことを。


 ギルマスはくいっと顎をしゃくりました。


 そちらに目を向ければ、


「お、お前達は!」


 そこにいたのは、私がレオダス殺害を命じ、しくじった役立たずのチンピラ共。


 こいつらが証言を!?


「ま、待ちなさい。あいつらは嘘を言っています。あんなチンピラよりも、私の言うことを」


 私が必死に弁解しようとするも、ギルマスの眼光は鋭く、まったく私の言うことに耳を貸そうなど思っていないようです。


「お前が殺したことは九分九厘確定していました。証言があればもう言い逃れは出来ない」


 こ、この女。

 このチンピラが本当に見ていたかなど、実はどうでもいいのです。

 ただ、口実が欲しかっただけ。


 もう、私が殺したと、確信しているから。


「取り押さえろ!!」


 私が逃げ出そうとすると、ギルマスは叫ぶ。


 すると、あのチンピラ共が私の腕を掴み、拘束しました。


 くっ、ビクともしない。


 レオダスを殺すのに失敗した、三流冒険者のくせにぃ!


「へへ、セリシオよぉ。この辺で、死んどけよ。な?」


「き、貴様らーー!!」


 ま、魔法を。

 駄目だ、腕を抑えられていて、これでは魔法を放つことが出来ない。


「ま、待て、待って下さい。釈明を、私に弁解の余地を下さい!!」


「お前は、12人もの冒険者を殺した」


 だ、駄目だ。


 聞く気がない!!


 ギルマスは手に魔力を込めました。


 動けない。

 躱せないぃーーーーー!!


「その罪、死をもって償え!!」


「や、止めろーーー!! こんな所で、公爵に、この国の王になるこの私が死ぬわけにはぁーーーーーー!!」


「“エアブレイド”!!」


 ああ、私が、天才大賢者のこの私が、なんでこんな最後を、


 ザシュウ!!




読者様はどの最後が気に入ったでしょうか?

お気に入りの最後があなただけのエンドです。

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お偉い賢者様に出て行けと追放されたが、新しく取得したスキル“キャリアオーバー”で王女様と共に無双する~ 何? 俺がいなくなって上手くいかないのはなんでか? 知るか、そんなことは自分で考えろ!!~ さく・らうめ @sakuma0815

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