第129話レオダス対セリシオ3


「そうか、城の牢を破ったのも、その魔石を使ったのね。魔法阻害の魔法をかけていたのにどうやって魔法を使ったのかと思っていたわ」


 そうだよな。


 魔法を使う犯罪者もいるのだから、魔法使い対策も当然していただろう。


 だが、セリシオは悪魔を召還した。


 阻害されてもそれが可能だったのは、あの魔石があったからなのか。


「その通りです。小さい物ですからね。忍ばせるのはそれほど難しくはありませんでしたよ。そして、既に完成している魔法ですから阻害される心配もありません。どうです? 優れモノでしょう?」


 アトスが不愉快そうに眉を吊り上げる。


「何故それをパーティーに居る時に僕らに教えなかった? そんな便利な道具があれば、もっと楽に冒険できたはずだ」


 尋ねられたセリシオは、呆れた様子で肩をすくめた。


「何を言っているのですか。何故赤の他人であるあなた達に、私の力を分け与えなければならないのです?」


 アトスは更に眉を吊り上げる。


「無駄だアトス。こいつはずっと俺達のことなんて、なんとも思っていなかったんだ」


「フフ、そうですよ。あなた達は私の道具だったのですから。本当に最後まで役に立たない道具でしたよ」


 ざわりと俺達の怒気が高まった。


「・・・落ち着け皆。解っていたことだ」


 俺は怒りを抑えながら一歩前に踏み出した。


 遅い。


 さっきまでの動きとは比べ物にならない位に身体が重い。


 だが、もう少し我慢だ。


「“アイスバレット”」


 セリシオが放った魔法を間一髪で躱す。


 さっきまでは躱しながら前に出れたのだけど、今は躱すだけで精いっぱいだ。


 好きなように魔法を撃たれ、爆風で吹き飛ばされる。


「レオダス!」


「近づくな!」


 アティが飛び出そうとしたので俺は大声で止めた。


 ビクっと震えてアティは足を止める。


 つまらない男の意地に付き合わせて悪いな。


 でも、こいつだけは俺の手で倒す!


「ふむ? どうしましたかレオダス。疲れましたか。さっきよりも動きが鈍いですが」


「お前の魔法がぬるいから気が抜けただけだ。その程度か!」


「っつ。言いましたね。では存分に甚振ってあげましょう」


 馬鹿言ったなぁ。


 セリシオは遠慮なく魔法をぶっ放してくる。


 こっちの動きが鈍ったと見るや、俺の動きを先回りして足を止め、少しづつ俺にダメージを与えるつもりだ。

 このサディストめ。


「くっそ!」


「フハハハハ! ほらほら、まだぬるいですか? もう少し熱くしましょうか?」


「はっ! 余裕だ。お前こそ魔力が切れてきたんじゃないのか?」


「ご心配なく。この魔石がありますからね。まだまだあなたを甚振れますよ」


 ああそうかい!


 セリシオの魔法を辛うじて躱し続ける。


 が、本当に疲れもあり、足がもつれた。


「ッチ」


「レオダス!」


 アティが叫ぶ。


 だが、セリシオの魔法が容赦なく襲う。


「がああっ!」


 直撃は免れたものの、左側面に大きなダメージを負ってしまった。


「さあ、そろそろ終わりにしましょうか」


 嗜虐的な笑みを浮かべながら、セリシオが“ファイアボール”を放つ。


 ここが限界だ!


「キャリアバウンド終了!!」


『キャリアバウンドチャージ終了。レベル補正プラス22』


 途端に身体が軽くなり、俺は“ファイアボール”を悠々と躱す。


 プラス22。

 つまりは42か。


 以前のようなレベル70なんて化け物めいた力は出せないが、これでも十分。


 セリシオは、何故このタイミングで躱されたのか分からずに、動揺を露わにした。


「くっ。“エアブレイド”」


 迫る風刃を躱す。

 躱す、躱す。


 先程までとは違い、余裕をもって全て躱していく。


 くそ、傷が痛えな。


 だが、ここは精神力で抑え込む!


 一体何が起こったのか解らずに、セリシオは先程までのスカした表情は消えうせ、焦りで汗がにじみ出ている。


「お、己レオダス。一体何が!」


「おおおおおおおおおお!! セリシオ、これで最後だーーー!!」


「こ、このお。“ファイアボーーーーーール!!”」


 “ファイアボール”を撃った後、セリシオは即座に右側を向いた。


 例のスキル最適解で、俺がそちら側に回避すると読んだのだ。


 それは確かに当たっている。


 俺は咄嗟にそうしようと思った。


 だがだ!!


「なっ! 真っ直ぐだと!!」


 俺は真っ正面からセリシオに肉薄する。


 そう、俺は“ファイアボール”をスライディング気味に躱し、そのままセリシオに迫ったのだ。


 ギリギリだったのでちょっともらって火傷してしまったけど。


 だが、だからこそセリシオの裏をかけた。


 こいつの最適解が、熟考した末に最も適切と思える答えを瞬時に出せたとしても、セリシオは危険を顧みずに特攻するなんて発想は絶対にしない。


 どれだけ考えようと、思い至らなければ正解は導き出せない。


 泥臭くても、こいつの裏をかくにはこれしか思いつかなかった。


「うおおおおおお、セリシオーーー!!」


「や、止めろレオダスーーーーーー!!」


 斬!!


「ぐおおおおおおおおおお!!」


 斬った。


 しかし、まだ致命傷ではない。


 それでももう戦うことはできないだろう。


 セリシオは倒れ、尻餅をついた。


「はぁはぁ、ここまでだセリシオ」


「う、ううぅう」


 俺はゆっくりと剣を振り上げた。


 セリシオは血を流しながらヒーヒーと呻いている。


「じゃあなセリシオ」


 俺はぐっと剣に力を込めた。


「お前は、この世界には不要だ」


 そう言って、振り下ろそうとした時、セリシオは笑った。


「クハハハハ! まだだ。まだ終わりませんよ。私に転移があることを忘れましたね。もう次の転移が出来るまで十分時間が経っていますよ」


 また転移をするつもりか!?


「さらばですレオダス。次こそはお前を、お前達を殺してあげましょう! 転移ぃーー!!」


 セリシオの周りで魔力場が発生し、そして。





 ぽつんと、セリシオは全く動くことなく、その魔力場は消えうせた。


「・・・は?」


 俺をあざ笑っていた顔が、何が起こったか解らないと言った風に戸惑い、徐々に引きつっていく。


「い、一体何が? 転移、転移転移ぃーーーーー!!」


 ジジ、ジジジと魔力は生み出されるも、直ぐに霧散してしまう。


 出血も相まって、セリシオの顔がドンドン青ざめる。


「次こそは・・・・と言ったなセリシオ?」


「ひっ!」


「お前に次などない・・・・・」

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