第128話レオダス対セリシオ2

「くっ」


 セリシオは俺をずっとなめていた。


 それを腹立たしくも思ったものだが、逆もまた然りだ。


 俺もセリシオをなめていた。


 純粋に魔法使いのステータスはあれど、この性格だ。


 ソロでの戦闘など無理だと思っていたのだが、それをスキル最適解が補っている。


 あのスキルがあるおかげで、セリシオは自信が生まれ、余裕を持って動くことが出来るし、その行動は的確だ。


 俺達が努力している中、こいつもしていたってわけか。


 俺が間合いを詰めようとすると、セリシオは魔法で迎撃を続け、距離を詰められない。


 一進一退。


 これでは埒が明かない。


 俺はぐいっと汗を拭い、策を練る。


 悔しいが、頭を使う方面ではセリシオの方が上。


 さて、どうする?


「フフフ、どうしましたレオダス。先程から何もできないではないですか? 私を殺すのではなかったのですか?」


「焦るなよ。これからだって」


「フフフ、焦っているのはあなたでしょう? 私に手も足も出なくて歯がゆいのでしょう?」


 ニタニタとセリシオは笑っている。


 俺を甚振って暗い愉悦に浸っているらしい。


 セリシオは、魔力を込めた手を俺に向け、魔法を放つ。


「“ライトニングランス”」


「くそ!」


 魔法最速の雷系。


 俺は横に飛んでこれを躱すも、奴は既に次弾を用意していた。


「そら、そらそら!」


 次々に魔法を乱射して、全く飛び込む隙を与えてもらえない。


 それでも、弧を描きながら、徐々に徐々に距離を詰め、剣が届く距離まで迫ると、今度はセリシオが後退。


 後ろ走りをしながら、連続魔法を唱え続け、あと一歩、攻めきれない。


 苦々しい時間だ。


 お互い、決め手がない。


 奴に近づくにはもっと速度がいる。


 速度アップが、簡単に出来る方法がある。


 キャリアバウンド。


 このスキルを発動させれば、一時的に俺のレベルは上がる筈だ。


 問題は、レベルアップするまでの少しの間、ダウンしてしまうという困ったマイナス効果。


 これをどう克服するか。


 そう思案していると、


「レオダス!!」


 仲間達があっちから駆けつけてきた。


「皆、来てくれたか」


 それぞれが武器を取り、戦闘態勢に入る。


 これでこっちの戦力は大幅アップなのだが、セリシオは何を思ったのか、


「これは私とレオダスの一騎打ち。手出しは無用です!」


 そんなことは一言も言っていないのだが。


「何勝手に言ってるのよ。わざわざそんなことする必要はないわ!」


 アティは杖を突き出すと、セリシオは焦りを見せる。


「き、貴様レオダス。レキスターシャとは一騎打ちをしておいて、この私にはしないというのですか。何処までも厚顔無恥な卑怯者め!」


「だから、なんでそっちで勝手にルール決めてんのよ。バッカじゃないの!」


 アティは俺を庇ってそう言ってくれているのだが、俺はアティの杖をそっと下げた。


「アティ、ここは俺に任せてくれ」


「レオダス。でも」


「頼む」


 馬鹿な事してるなあと自分でも思うよ。

 キャリアバウンドを使うにしたって、反動でレベルが下がっている間、皆にフォローしてもらえばいいんだから。


 だけど、俺とセリシオの因縁。

 ここで決着をつけたい。


 俺とセリシオ、一対一で。


 万一、俺に何かあれば、その時は全員で相手をすればいい。


 セリシオ。


 気づいているか?

 お前はもう、詰んでいるんだ。


「フフ、そういうことですよ。あなた達とはそれぞれ一対一で決闘して差し上げます」


 何故こいつは全員と一対一で戦うこと前提で話しているんだろう?


 まあいい、皆に戦わせるつもりなど毛頭ない。


 俺が決める。


「キャリアバウンド発動」


『キャリアバウンド発動。レベルマイナス10ダウン』


 ずうぅん、と身体から力が抜けていく。


 これで俺のレベルは10となってしまった。


 まともにやったら、あっという間にやられてしまうな。


 ここは時間を稼ぐか。


「お前は何故、杖もなしに、それだけ魔法制御が出来る? それもスキルの力なのか?」


 知りたかったことだ。


 立ち回りは最適解のおかげだということは分かったが、魔法制御の謎は分かっていない。


 時間稼ぎついでに聞き出せるのならば聞いておこう。


 セリシオはニヤっと笑い、懐から光輝く宝石を取り出す。


「これのおかげですよ」


 なんだあれは?


 相当な魔力を放っているぞ。


「あれ、もしかして魔石!?」


「魔石? どこかで聞いたことがあるぞ」


 アティは驚きで口に手を当て、それに気を良くしたのか、セリシオは饒舌に喋ってくれる。


「そう。魔力を内包した宝石、魔石ですよ。我が一族はね、これを人工的に作り出す術を知っているのです」


 驚いた。


 そんな宝石があるのか。


「魔力回復のポーションとは違うのか?」


「フ、あんな量産品と一緒にしないでほしいですね。この魔石でも確かに魔力回復は可能ですが、これは魔法調整も、威力アップも、ここに魔法を閉じ込め、魔力のない者でも魔法を発動させることが可能な代物。完成された一つの魔法なのですよ」


 そんな便利な物があったのか。


 セリシオは有名な貴族と聞かされていたが、魔法使いとして優秀な一族だったんだな。


 伊達に賢者を輩出しているわけじゃないってことか。


 あれがあるから、杖が無くてもあれだけ魔法を自在に使えるんだ。

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