第124話賢者サイド 年貢の納め時

 フフ、楽しくなってきましたねぇ。


 私は私室(客間)でのんびりとくつろぎながら、アターシャとお茶を楽しんでいました。


 これから国内で、稀にない程の大戦争が勃発します。


 それもアターシャの、つまりは私の一声の元に。


 この私の思うがままに、この国の運命は定まるのです。

 なんと素晴らしいことでしょう。


 紅茶の香りを鼻孔で吸い込み、ゆるりと口元に運びます。


 優雅ですね。

 そう、私には本来こういった行いこそが正しいのです。


 泥にまみれて冒険に出るなど、そんなものは荒っぽい連中に任せておけばよいのですから。


「セリシオ様。お代わりはいかがですか?」


「そうですね。いただきましょうかアターシャ」


「はい」


 アターシャは私に命令されて嬉しいのでしょう。


 ニコニコ顔で紅茶を入れます。


 この戦争で、勝ってくれればそれでよいですし、引き分けであってもその時は公国として独立すればよいだけのこと。

 ※負けるとは全く考えていない。


 私は必ず一国の王となります。


 軍事力を蓄え、いずれ世界も。


 フフフ、楽しみですね。


 そんな風に胸を膨らませていると、何やらドアの向こうが騒がしいです。


 なんですかまったく。

 今はお茶の時間だというのに。


 不快感に襲われていると、なんとドアが無造作に開かれました。


「セリシオ!!」


「レ、レオダス!?」


 レオダスが私の前にいる。


 馬鹿な! 奴は殺された筈です。


 なのになんで奴がここにいるんですか!?


 お、己、やはりあの暗殺者、失敗しましたね。


 それなのに私に真実を伝えずに!


 で、ですが、焦ることはありません。


 あの男には何も出来ないんですからね。


 私は気持ちを落ち着けると、自慢の髪をふさぁっとかき上げます。


「おやおや、レオダスではありませんか。随分と生き汚いですね。なんでも災難が続いたと聞いていましたが、そうですか、生きていましたか」


「ああ、お陰様でな。そっちこそ、俺が死んだと思って油断していただろう。こちらの思惑通りにな」


「っく」


 あの役立たず共、よりにもよって、レオダスに従ったというのですか!?


 レオダスに言われるがままに、私の虚偽の報告を。


 次会ったら必ず殺してあげます。


「・・・それで? あなたはここに何をしに来たのです? まだこの私をどうにかしようというのですか? 公爵の客分であるこの私を」


 そう、私には公爵がついているのです。


 今もこの周りには公爵の軍勢で溢れ、立錐の余地もないという状況で・・・。


 ・・・待ちなさい。


 この状況で、何故レオダスはこの公宮にやって来られたのですか?


 誰もこいつらを止めなかったのですか?


 ゆっくりと、レオダスは口を開きます。


 何を、何を言うつもりです?


「その公爵だが、俺と決闘で敗れ、全面降伏した。既に兵士達は解散の準備をしている」


「・・・は?」


 言っている意味が解りません。


 決闘?

 全面降伏?

 解散?


「・・・何を、何を馬鹿な。あの軍勢をあなた達だけでどうにか出来るはずが」


「だから、レオダスはレキスターシャ公と一対一で決闘し、勝利したの。そして勝利条件として武装解除させたのよ」


 アティシアが嘲るように私に事実を突きつけました。


 馬鹿な。


 あの状況で、何故一対一の決闘で勝敗を決しなければならないのですか?


 こんな奴ら、数に任せて蹴散らしてしまえばよいのです。


 なんでそんな馬鹿なことを!


「お、お父様は?」


 アターシャが恐々とアティシアにレキスターシャの安否を確認しています。


 この馬鹿女が。

 お前は奴に戦争を焚きつけた張本人でしょう。

 そんなお前が、父親の心配をするなど笑止千万ですよ、この偽善者め。


 それを分かっているようで、アティシアは呆れた様子で応えます。


「安心しなさい。大きな怪我もないわ」


「そう、ですか」


 ホッとした様子でアターシャは胸を撫でおろしました。


 アティシアはアターシャの一挙手一投足が気に入らないようで、目を細めます。


 気持ちは解りますよ。


 どの面を下げて心配しているんだといったところですね。


 ですが、こんな女はどうでもいいのです。


 問題は、レキスターシャが負けたということ。


 これでは、これでは私は・・・。


「わ、私はレキスターシャ公の客分で・・・」


「そのレキスターシャ公は打倒されたわ。分かりやすく言ってあげましょうか。もうあんたを守ってくれる人間はいないのよ!」

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