第123話レオダスの勝利

「立てるか?」


 俺が手を差し伸べると、レキスターシャ公はしっかりと掴んでくれた。


 しかし、まだ足に力が入らないようで、ふらついている。


 実は、俺もさっきの技でかなり体力を消耗しているのだが。


 そもそも俺は、魔力制御なんて高等技術は苦手なんだ。


 土壇場での集中力でなんとかやり抜いたが、身体に力が入らないけど、ぐっと踏ん張る。


「ぬしはとんでもない男だな」


「よしてくれ。まあ、ちょっと変なじーちゃんがいたってだけなんだよ」


「ふっ」


 レキスターシャ公は俺から離れると、周りの兵士達を見回した。


「皆の者、聞け。わしは正々堂々と戦い、この男、レオダスに敗れた! 約束に従い、わしはこの出兵を解散させることにする!」


 実は、さっきの技を見てから、周りは騒ぎっぱなしだ。


 今も、声が聞こえてくる。


「レキスターシャ公が負けた」

「さっきのはなんだ?」

「手加減したのか?」

「いや、しかしあの男も強かったぞ」


 こんな話をしているとサディンバンが会話に加わる。


「公爵は本気だったさ。彼がそれよりも更に強かった。そういうことだ」


 それがスッと兵士達の中で納まったのか、納得の表情を浮かべる。


「レオダスよ」


 レキスターシャ公は俺に手を出して、握手を求めてきたので、俺はそれに応え、ぐっと彼の武骨な手を握る。


「ぬしに助けられた。ふふ、叱られるなど、父上が無くなって以来久々であったぞ」


「偉そうなことを言ってしまって・・・」


「今更殊勝になるな。このわしと正々堂々と戦い、勝利したのだ。胸を張れ」


「あ、ああ」


 どんと背中を叩かれ、俺は背筋を伸ばした。


「レオダス」


 アティ達が興奮しながらこちらにやって来た。


「さっきの何!」


「あー、あれはな。子供の頃見せてもらった技を思い出して、ぶっつけ本番で使ってみた」


「何よそれ!」


 アティは呆れたようにそう言うが、事実なので仕方がない。


 アトスは少年の目をキラキラさせながら、俺を見る。


「やっぱりレオダスは凄いよ!」


「いや、あれは結構まぐれだぞ。また使えるかちょっと分からん」


「そうなの?」


「まあ、あとは練習だな」


 仲間達と話していると、レキスターシャ公はアティの前でゆっくりと跪く。


「殿下。わしはレオダスと決闘をし、敗れました。軍の進行は取り止めます。この首、如何様にも」


 そう言って首を下げるレキスターシャ公にアティはちょっと困って眉間に指を当てた。


「それはお父様に釈明して。どうなるかは、あたしでは解らない」


「御意に」


 アティに許しを得て、レキスターシャ公は立ち上がり、クレアに向き直る。


「先程見せてくれた“真実の鳥”をもう一度見せてもらえるか?」


「はい。これです」


 クレアは再びバックから“真実の鳥”を出すと、レキスターシャ公に手渡した。


 受け取ったレキスターシャ公は首を傾げる。


「・・・何故、口の部分を縛っているのだ?」


「・・・取ってみますか」


 クレアは困り顔で縛っていた紐を解くと、逃げるようにレキスターシャ公から離れた。


 不審に思いながらも、レキスターシャ公は“真実の鳥”を見つめ、


『珍妙な。こんなもので本当にアターシャの目を覚ますことが出来るのか?』


「ぬぅ!?」


 “真実の鳥”が喋りだし、レキスターシャ公は思わず、腕を伸ばして“真実の鳥”から距離を取った。


「こ、この様にですね。近くの人間の心の声を喋り続けるので、こうして縛っているわけでして」


「な、なるほど。納得したぞ」


 クレアは慌てて再び真実の鳥の嘴を縛り、レキスターシャ公は冷や汗を拭った。


 このアイテム、やっぱり怖い・・・。


「使いどころが難しいアイテムだが、これならばあの悪魔の本心を聞き出すことが出来るな」


「はい。セリシオの所へ行きましょう。アターシャさんにも同席してもらって、真実を明らかにするんです」


 バックに“真実の鳥”をしまったクレアは正義感に燃えている瞳のままにそう言った。

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