第120話レオダス対レキスターシャ

「レキスターシャ公」


 レキスターシャ公の名前を呼んで、アティは鋭い眼差しで睨む。


「多くは聞かないわ。アターシャと何かあったのね?」


「・・・」


 レキスターシャ公は無言。


 おそらくそれは肯定という意味。


 アターシャに詰め寄られたか。


 それで、いうことを聞かざるをえなくなってしまったのだろう。


 まったく、領をまとめる人間が、そんなことでどうする。


 と、彼のアターシャを思う心を鑑みれば、そうハッキリとは言えないが、それでも、もっとやり方があったと思う。


「でも、その問題は解決できたわ」


「解決ですと?」


 レキスターシャ公は目を瞬かせる。


 アティがクレアに視線を移し、アイコンタクトをすると、クレアはそっと持っていたバックから、“真実の鳥”を取り出した。


「“真実の鳥”よ。手に入れたわ」


「なんと!!」


 レキスターシャ公はこれでもかという程飛び上がった。


 最後の一縷の望み。


 まさか、本当に持ってくるとは思っていなかっただろう。


「これでこの馬鹿げた騒ぎも終わりよ。さあ、アターシャの目を覚まさせてあげましょう!」


 が、レキスターシャ公が驚いたのもつかの間、すぐに眉を寄せ、歯を食いしばる。


「・・・それは、出来ませぬ」


「レキスターシャ公?」


 アティは不審に思い、レキスターシャ公の名を呼んだ。


 それは俺も同じで、どうしてこうやって“真実の鳥”を持ってきたというのに、この騒ぎを鎮静化しないのか解らない。


「既に、令は発してしまいました。そう簡単に取り下げることは出来ませぬ」


「・・・それは」


 そんな馬鹿なとも思うが、公爵程の人間が、一度言ってしまったことをすぐに撤回するなんてことは、易々と出来ないのだろうか?


 それじゃあ、俺達は間に合ったと思ったが、一歩遅かったのか?


 この“真実の鳥”は役に立たないのか?


「どうか、そのアイテムで、アターシャの目を覚まさせてやってください。しかし、この徴兵を簡単に止めるわけにはいかないのです」


「・・・くだらないわね。そんなメンツの為に多くの血を流すというの?」


「それだけではありません。なんの理由もなく出来ないと言っているのです。それは、上に立つ人間である貴方にもお分かりの筈」


「だ、だけど・・・」


 アティの勢いが弱まった。


 馬鹿げているとも思うが、大事なんだろう。


 周りには兵士も集まっている。


 簡単にはいかないのか。


 一度王国軍と当たって、大敗したとか、そんな理由付けが必要。


 負ければ。


 負けさえすれば。


「でもそんな! アターシャのわがまま一つで!」


「傾国の女という言葉もあります。女性一人の為に、国を争った例など、歴史を紐解けばたいして珍しくもありません」


 なるほど、歴史には詳しくはないが、そんな俺でもエピソードの一つくらいは知っているな。


 確かに歴史を振り返れば、他にもいくらでもあるのだろう。


 女ってこえぇ。


「レキスターシャ公!」


「問答の時間はもう過ぎているのです」


 俺は、そっとアティの肩を掴んだ。


「レオダス」


「アティ、よく頑張った。でも、この人はもう言葉では止まらない。何か止めるにしても理由が必要なんだ」


「理由・・・」


「それを、俺が作る」


「えっ」


 手袋なんて持ってないが、やるしかない。


 俺は、しゃらんと剣を抜く。


「レキスターシャ公。剣を抜け。俺と一対一の決闘をしよう!」


 ドオオオオオ。


 周りが騒ぎ出した。

 まあ、そうなるだろうな。

 だが、ここで止めるわけにはいかない。


「もし、俺が勝ったら、戦争を中止してほしい。俺が負ければこの命、好きにしてくれ」


「「「レオダス!」」」


 皆驚いてるが。

 いいさ、真剣勝負だ。

 負ければそのまま死ぬ可能性の方が高いのだし。


「どうだ。この勝負、受けるか!」


 俺が剣を向け、問うと、彼は真剣な目で俺を見つめている。


 そこへ、さっきの人、サディンバンがレキスターシャ公の横にスッやって来た。


「公。この決闘、こちらが勝ったとしても、なんの益もありません。受ける必要などありませぬ」


「・・・」


 そう。

 この俺が死んだとしても、あちらは嬉しくもなんともない。


 だが、それでもレキスターシャ公はこの決闘を受けると俺は見ている。


 さあ、どう出る?


「受けよう」


「公!」


 サディンバンは驚きを込めてレキスターシャ公を見る。


 だが、レキスターシャ公の目は揺るぎもしない。


 俺は、ニヤリと笑い。


 ゆったりと距離を詰める。


「皆、下がれ。この決闘、何者も立ち入ることは許さぬ!」


 レキスターシャ公は大声で叫び、剣を抜いた。

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