第118話賢者サイド 侵略開始
ここで最後の一手を加えるとしましょう。
レオダス達は死に、もう私の邪魔をする者は、王国のみ。
最初は私を捕えなければそれでよいと考えていましたが、ここまでくれば、更に行動を起こしてもいいでしょう。
消し去ってしまいましょうか。
王国をね。
「ああ、愛しい人よ。都で話を聞きました。未だに、レキスターシャ領の前には多くの兵士達が私を捕えようと、兵を集めているのです」
「まあ、まだいますの? 何度もお父様に言っているというのに・・・」
アターシャは、憂いを秘めた目で、私の話を聞いています。
そうです。
その調子で私の話に聞き入りなさい。
「私はいずれ、捕まってしまうのでしょうか?」
「そんな! そんなことは絶対にさせません!」
「捕らわれた後は、おそらくは処刑されるでしょうね」
アターシャは、それが解っているのかいないのか、顔を真っ青にさせます。
「させません。無実の罪で処刑など間違っています」
「ですが、彼らは私の言い分を聞き入れようとはしません」
アターシャは私の話を聞きながら、口をキュっと結びます。
何かを考えているようですね。
その考え、私が誘導してやりましょうか。
「私が思うに、もう王国が存在している限り、私の処刑は免れないでしょうね」
「・・・王国が、在る限り」
「王国など、無くなってしまえばいいのに。そうすれば、私達は永久に結ばれるでしょうがね」
「王国が無くなれば、永久に・・・」
フフ、いいですよ。それでいいですよ。
私は美しい顔をアターシャの顔に近づけました。
アターシャは顔を赤らめます。
クックック、初心な女ですよ。
そのままそっと頬に手を当てて、
「アターシャ。私達の愛を成就させたいとは思いませんか?」
アターシャは勿論、頷きました。
*********
「お父様!!」
アターシャはレキスターシャの執務室のドアを勢いよく開き、レキスターシャに詰め寄った。
「アターシャ。ノックもせずに、どうした。淑女らしからぬ振る舞いだぞ」
「今はそんなことは些事ですわ!」
レキスターシャは渋面を作った。
これまでも何度かこういうことはあった。
いや、これまではなかったのだ。
そう、あの悪魔が来るまでは。
「お父様。未だに、領の外にはセリシオ様を捕えようとしている兵がいるとのこと。何故彼らを帰さないのですか?」
「それは、仕方のないことだろう。セリシオは大罪人だ。それを捕えようとするのは彼らの責務なのだから」
「いいえ、いいえ、セリシオ様は無実ですわ」
レキスターシャは更に顔を渋くする。
この話はもう何度もしてきたのだ。
そして、当然平行線である。
だが、今回は今まで以上にアターシャは荒ぶっていた。
レキスターシャは警戒心を強めて、宥めるように努める。
「落ち着きなさいアターシャ」
「落ち着けません。お父様。これ以上彼らを好きにさせるのは好ましくありません」
「仕方あるまいよ。これは王国の意思なのだ」
「では、王国を滅ぼすべきです」
レキスターシャは目を最大まで広げた。
遂に、遂にこの言葉が出てしまったか。
これまでは本来の性格もあって、そんなことは決して口にしなかったのだが。
「・・・あの男に何か言われたか?」
ブンブンと、首を横に振る。
「関係ありません。わたくし達の愛を邪魔するというのなら、王国は敵です」
レキスターシャは小さく深呼吸をして、ゆっくりと語り掛ける。
「滅多なことをいうものではない。そんなことが出来るはずもあるまい」
「出来ます。お父様なら、レキスターシャの軍事力を持ってすれば、王国を打倒することも出来ますわ!」
「馬鹿なことを・・・」
アターシャは本気だ。
本気でレキスターシャの力ならば、それが可能だと思っている。
だが、そんなに簡単に事は運ばないだろう。
運ばせるつもりもないが。
「出来ん。陛下に弓引くことなど、出来るはずがない」
「お父様は、わたくしと陛下とどちらが大事なのですか?」
「それは・・・」
陛下だ。
当然、すぐにそう答えるべきなのだ。
だが、レキスターシャには出来ない。
本来であれば、すぐに口から出なければならない言葉が出てこない。
逆に、アターシャはすぐに自分だと言ってくれると思っていたのだろう。
苦悶の表情を浮かべるレキスターシャを見つめ、ショックを隠せないでいた。
「・・・もう、結構ですわ」
「何?」
ふらりと、アターシャは顔を下に向ける。
「お父様には頼りません。わたくしは家を出ます」
「な、何を言っているのだ!?」
レキスターシャは椅子から立ち上がった。
「出ます。ここにいてもわたくしとセリシオ様は結ばれません!」
レキスターシャはアターシャの傍に寄り、肩を掴もうとするが、アターシャは一歩引いて、それを拒否した。
それに傷つけられたレキスターシャだったが、悲しみながらもアターシャを見つめる。
「出て行って、どうしようというのだ? これまでこの公宮で暮らしてきたお前が、生きていけるはずがないだろう」
「出来ます。セリシオ様がいれば」
「馬鹿な。金はどうする? セリシオだってここを出れば金など好きに出来ぬのだぞ?」
「いいえ、そんなものが無くとも生きてはいけますわ。愛があれば」
滅茶苦茶だ。
愛で全てを解決できれば、世界はもっと平和なはずである。
完全に恋に盲目になっている。
まさかここまで猪突猛進とは。
「もし、それが叶わないのであれば、わたくしはこの命を捨てます」
「な、なんだと!?」
レキスターシャは仰天した。
あまりにも行動が突飛過ぎる。
だが、アターシャの目は純真なままだ。
本気だ。
ここで止めなければ、本気で彼女は自らの命を絶つつもりだ。
レキスターシャは冷たい汗を垂らし、身体を震わせた。
「お父様。もう一度聞きますわ。わたくしと陛下と、どちらを取りますの?」
「う、ううううう」
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