第117話虚偽の塔13
「はあはあ!」
急いで戻った俺は、台座の上に置かれていた、グラスもどきを手に取って、矯ためつ眇すがめつグルグル回して観察した。
「もー、なんなの?」
アティ達が急いで戻って来ると、俺は皆にグラスもどきを見せる。
「見てくれ、このびっしりと書かれた幾何学模様を」
「うん、見事な工芸品だと思うわ。何、これに価値があるって言いたいの? これがこのダンジョンに隠されていた宝だってこと?」
「いや、そうじゃない。そうじゃないんだ」
俺はグラスの頭にあたる部分を皆に見せる。
「全体に幾何学模様で書かれていて判りづらいが、これ、何かに当てはめることが出来そうな作りをしていないか?」
皆は驚いて、頭の部分をじっと見つめる。
頭の部分は色々ときめ細かく掘られており、何かにしっかりとかみ合うんじゃないかと思わせる。
「あっ、そうか! それであの通路か!」
俺の言わんとしていることが伝わったようで、ステラは掌を拳で打った。
「えっ、えっ、どういうこと?」
「つまり、これは鍵じゃないかってことさ」
「これが、鍵!?」
「そう。装飾と思えた通路の幾何学模様の彫り物。もしかしたら、これとしっかりとかみ合う箇所があるかもしれない」
「た、確かにそう言われるとそうかも。この塔全体に所々あった模様は、このトリックを隠すためのフェイクだってことなの?」
「皆、この形をしっかりと覚えろ。この通路に似た形の模様がないか探すんだ!」
「「「了解!」」」
俺達は通路の戻り、手に持っているグラスもどきの模様を確かめつつ、通路の幾何学模様を凝視した。
ここに隠し部屋があると考えれば、妙にこの階層だけ狭いのかも説明できる。
これが俺の違和感の正体だったんだ。
しばらく探すと、俺は自分の胸元辺りに当たる通路の模様が、グラスもどきの模様よりほんの一回り大きい形をしているのを発見した。
すっぽりとはまりそうだ。
「見つけたかもしれない」
「何処!?」
アティがわくわくしてやって来て、皆も集まる。
俺もわくわくし、ちょっと震える手で、グラスもどきの頭を、壁に押し付ける。
はまった!
ぴったりと収まる。
そして、これを右に回す。
ガシャンと、音がして、ゴゴゴゴという振動と共に、壁が動き出した。
「お、おおおおおおおおおおお!!」
俺は壁が動いていく様を見つめながら、思わず笑ってしまった。
「ははは、もう誰かがやって来たと思わせておいてこれとは。本当にここを作った奴は性格が悪いな」
「もしかして、ここまで来た人はいたのかもしれないね。だけど、あたし達と同じように諦めて帰っちゃったのかも知れないよ」
アティが待てないというようにぴょんぴょんと飛び上がりながら、返してくる。
そうだな。
モンスターもしばらくするといつの間にかリポップするし、誰かが来たのかもしれない。
だが、この仕掛けは気が付かなかった。
もしそうなら、あのグラフもどきを、そのまま置いていってくれたことに感謝したい。
壁が自動的に開かれ、これまでで一番大きなフロアが出現した。
ま、周りには価値がありそうな、宝石や装飾品がいっぱいあるぞ。
正に宝部屋だ!
「やばいやばいやばいよーーー!!」
ステラは目をきらっきらさせながら、今にもよだれが垂れそうな顔をしている。
アトス、クレアは勿論、価値のある芸術品を数多く見ているであろうアティも、驚きで興奮を抑えられないようだ。
そして、その中央には。
鳥かごの中に、オウムほどの大きさの木製の鳥が置かれていた。
目には何かの宝石が埋め込まれているのだろう。
じっとこちらを見つめているみたいだ。
「これが、これが“真実の鳥”なのか?」
正しく、思い描いていたアイテムそのものだ。
こいつが本当にそうなのだろうか?
ただの彫り物か?
どうなんだ?
俺が恐る恐るその置物に近づいてみると、
『こいつ喋るのか?』
「え!?」
今こいつ喋ったぞ!
『今こいつ喋ったぞ!』
俺は思わず、この置物から距離を取った。
「レ、レオダス。今こいつ喋ったよね?」
「あ、ああ、ステラ。お前ちょっと近づいてみろよ」
「お、おお、ちょっと行ってくる」
ステラがそーっとそーっと近づいて見ると、
『この宝を売ればいくらになるんだろう? あたし一生遊んで暮らせるじゃん。ぐへへ』
「うおおおおお!?」
仰天してステラが飛び上がった。
「ステラ、お前そんなことを考えていたのか?」
「だ、だって普通考えるじゃん! え、つまりこいつ、あたしの思ってること声に出して・・・」
「じゃあ、じゃあこれって!」
アティはなわなわと震えだし、
「「「“真実の鳥”だーーーー!!」」」
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