第115話虚偽の塔11
ゲリュオーン。
頭が三つに腕が六本のモンスター。
手強いだろう。
既にオーラで解る。
だが、アンデットには違いはない筈だ。
「クレア」
「はい!」
クレアは高々と杖を掲げ、呪文を唱えた。
「“ホーリーライト”」
再び照らされた聖なる光がフロアに満ちる。
ゲリュオーンはその光を浴びて身を縮こませた。
「グウウウウウウウゥ」
「よし、効いてるぞ、えっ?」
俺が効果を喜んでいると、屈んでいたゲリュオーンを纏っているオーラが、噴射した。
「グウウウウウウウウウウ!!」
「なっ!」
オーラは聖なる光を跳ねのけ、ゲリュオーンは勢いよく叫びを上げる。
「そんな、私の聖なる光を跳ね返した!」
「なんて奴だ!」
くそ、これじゃあ、弱体化は難しいか。
ならば、
「うおおおおおおお!!」
俺はゲリュオーンに斬りかかり、一気に仕留めようとしたのだが、当然あちらも迎撃してくる。
俺の剣を右腕の一本で受け、更に、もう一本の剣で横に薙ぐ。
「ぐっ」
俺は急ぎバックステップを踏んで、これを躱すが、今度は左腕に持っていた剣を俺に振るう。
持っている剣を三つ使っての同時攻撃だ。
「レオダス!」
アトスがそこに割って入って、ゲリュオーンの攻撃を受け止めると、今度は剣を持ってない方の腕で、アトスの首を掴みにかかる。
「ぐぁ!」
「アトス!!」
後ろからステラが踏み込むと、三つあるうちの一つの頭が、ぐるりと後ろに回転した。
「え、キモ!?」
更に、本来であれば、動く筈のない稼働部分を超えて、腕が後ろに捻られ、ステラの拳を手で受け止める。
「くっそ」
不味い、ステラも止められた。
アトスが!
「ぐあああぁ」
首を掴まれている。
このままだと潰されるぞ。
「アトスさーーーーん!!」
悲鳴を上げてクレアがアトスに向かって駆けつける。
それを防ぐかのように、アティが杖を持ってゲリュオーンに攻め入った。
「だーから、あんたは無駄に突っ込むなって言ってんの、よ!!」
ガッと、ゲリュオーンに詰め寄ったアティが超至近距離から、魔法をぶっ放す。
「“エアブレイド”」
バキンと激しい音を鳴らし、アトスを掴んでいた腕が、根元から切断され、アトスは地面に落ち、苦しそうに咳き込んだ。
「ご、ごほぉ」
「アトスさん。しっかり!」
「早く後ろに下がらせなさい!」
「は、はい!」
アティに叱咤され、クレアはアトスを担いで後ろに下がった。
ゲリュオーンはアティの魔法を食らって、一本、腕を持っていかれたが、すぐに態勢を立て直し、お構いなしに襲ってくる。
くそ、アンデットめ。
「下がれ!」
俺は“ファイアバレット”を放ち、更に衝撃を与えると、ぐらりとゲリュオーンに揺れ、一瞬行動を停止した。
その隙に、ステラはゲリュオーンに握られていた手を抜け出し、アティも退避する。
「あー、やばかった。あのまま掴まれてたら、あたしの拳もっていかれたかも」
手をプラプラと振りながら、ステラは冷や汗をぬぐった。
アティのファインプレーでなんとか難を逃れたが、あの六本腕(今は一本減って五本だが)を持っているゲリュオーンに接近戦を挑むのは極めて危険だ。
三体よりも一体になった方が強くなるとは。
「魔法で組み立てるぞ。アティ!」
「了解!」
俺とアティは同時に呪文を唱える。
どれだけ頭が働くのかは分からないが、ゲリュオーンはアティに向けて突進するも、ステラに阻まれた。
「ちょっとあたしと遊んでいきなよ。かる~くでいいからさ」
そう言って、ステラはステップを踏んで、付かず離れず、なんとかゲリュオーンの気を逸らす。
そして、俺とアティの魔法が完成した。
「「“ファイアボール”」」
飛び出した二つの火球。
それが、左右の腹に見事命中。
爆発を起こし、もうもうと煙が立ち込める。
「わぉ、あぶな。同時着弾だと凄いね。爆風だけでもあっついよ」
撃つ直前、アイコンタクトで指示を出して、ステラは下がらせたが、それでも衝撃と熱波は襲ってきたらしい。
さて、これでどうだ?
「やったの?」
「アティ、それフラグって言うんだよ・・・」
こんな時でも的確にツッコむステラ。
煙がなくなり、視界が開けてくると、ゲリュオーンが未だに健在であると思い知らされた。
頭が一つ吹き飛び、鎧もデコボコであるが、未だに戦闘続行は可能のようで、まるで動きに乱れはない。
マジか。
しかも、俺とアティが危険だと見て、ステラを無視してこちらに走って来る。
「あ、こら待て、あたしと遊べ!」
ステラが叫ぶもそれを無視。
まずはアティに詰め寄る。
「っつ」
接近戦にも対応できるといっても、こいつ相手では荷が重いだろう。
アティの顔が強張った。
そこに、
「はああああああああああああ!!」
裂帛れっぱくの気合と共に、アトスが飛び上がり、もげてしまっていた頭部から伽藍堂がらんどうの鎧へ剣を垂直に突き刺す。
回復したかアトス!
本来であれば、これで完全に決まっているのだが、相手はアンデット。
鎧はただのハリボテだ。
これでも動きは止まらず、アトスを掴もうと、腕を上に上げるが、
「“セイクリットストライク”」
アトスの両手から光が溢れ、伽藍堂の鎧を爆砕した!
胴部分は吹き飛び、頭も腕も足も塵切りに飛び散る。
これで完全勝利、と思われたが、カタカタと音がして、鎧は再び結合しようとしている。
俺は体を硬直させた。
まさか、まだ戦うのか!?
再び剣を構える。
しかしだ。
「“ホーリーライト”」
クレアの聖魔法が放たれ、揺れ動く鎧を照らす。
すると、辺りに漂っていた暗い魔力は浄化され、フロアから消えていき、鎧の動きはピタリと止まった。
しばし、辺りに静寂が訪れる。
「・・・今度こそ、やったの?」
「だからそれフラグだってばアティ。でも、まー」
ステラは鎧を見つめる。
大丈夫だ。
もう完全に活動を停止している。
「・・・もう大丈夫っぽいね。あー、疲れたー」
そう言うと、ステラはその場で座り込んだのだった。
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