第112話虚偽の塔9


「・・・謎かけか」


 たまにこういう仕掛けはあるが、頭を使うのは苦手だ。


 悔しいが、こういうのはセリシオが得意だった。


 さて、俺はもう一度文章を読んでみる。


 うーん、どうすれば正解の村に行けるか、か。


「そもそも善の魔物なんかいるわけ?」


「その辺は仕様じゃないか?」


 アティが素朴な疑問を口にすると、俺は苦笑して答える。


 これはなぞなぞなのだから。


「なるほど、この窪みに、正解のパネルを嵌めていくわけだね」


 アトスは面白そうに一文字一文字が掘られたパネルと触っている。


 おそらくなんらかの仕掛けがしてあって、正しい文字順に嵌めていくと新たな道が開けるのだろう。


「うーん。ボコって聞き出すじゃ駄目よね?」


「それじゃなぞなぞにならないぞ」


 アティが身も蓋もないことを言うので俺は苦笑いをする。


 この子、一応王女様です。


「あ、正直村はどちらかって素直に聞いてみるのはどうでしょうか?」


 それはそのまんまじゃないですかクレアさん。


 名案とばかりに、クレアはそう文字を当て嵌めていくが、何も起こらない」


「・・・正解じゃないみたいです」


「あんた馬鹿-!? どっちの心を持っているか判らないって書いてあるじゃない。悪の魔物だったら絶対に嘘を言うのよ。教えてくれるわけがないわ」


「そ、そうですよね」


 クレアはシュンとした。


 うーん。

 正直すぎるクレアにはこの手の謎かけは難しいようだぞ。


 俺も頭を使うのはちょっと・・・。


「じゃあ、あなたが来た村はどちらですかって聞けばいいんじゃないかな?」


 アトスがそう言って、パネルを並び替えるも、何も起きない。


 正解ではなかったらしい。


「それじゃあ、どっちの心の持ち主か分からないでしょ」


「あ、そうか」


 ステラに指摘され、アトスも撃沈した。


「レオダスはどう思う?」


「俺か? 俺は、うーん。ま、待ってくれ。時間をくれ」


 ええと、つまりは悪の魔物に聞いたとしても、正解を言わせないといけないってことだよな。


 しかし、まず善なのか悪なのか見分ける方法がないとそもそもいけないし。


 じゃあ、まずは善か悪かを判別する質問をすれば・・・。

 あ、質問は一回だったな。


 う~~~ん・・・。


「ん。もういいよレオダス。頭から煙出そう」


「う、も、もうちょっと時間を」


 弟分に諦められ、俺ちょっと涙目だ。


 皆であーでもないこーでもないと考えていると、


「あ、分かった」


 ステラがそう言って文字を並び替える。


「ほ、本当かステラ」


「多分ね。これでどー、だっ!」


 すると、ゴゴゴっと壁が唸りだし、なんと階段が出現した。


「「「おおおおおおおおおおお!!」」」


 全員で拍手。


 ステラ偉い。

 流石は一流冒険者、力だけがものをいう、俺とは違う。


 当てはめた正解は『あなたの住んでいる村はこっちですか?』というものだった。


「つまりね。こう質問してどちらかの村に続く道を指させば、その先が善の村だったら、善の魔物はそのまま「はい」と答えるし、悪の魔物は自分の住んでいる村じゃないんだから嘘をついて「はい」とやっぱり答えるしかないよね。じゃあ、その逆なら、善の魔物は自分の住んでる村じゃないから「いいえ」と答え、悪の魔物は、自分の住んでいる村だけど、嘘を言わなきゃいけないから、やっぱり「いいえ」と答えるしかない。だからこの質問をすれば、どちらの心を持つ魔物でも「はい」と答えたほうが善の村ってわけだよ」


「「「おお~~~」」」


 ちょ、ちょっと待て、頭で整理する。


 ふむふむ、ほんほん。


 な、なるほど、解ったぞ。


「ステラさん、凄いです。天才です!」


「や、そんなに難しくないよクレア」


 大げさにクレアはぴょんぴょん飛び跳ねてステラを称賛する。


 確かに、解ってしまうと簡単に思えるな。

 しかし、こういうのは最初に答えた人が凄いのだ。


「よし、この階段を上ろう。俺の考えじゃそろそろ最上階の筈だ!」


 皆で頷き、俺達は階段を上った。





 階段を上ると、大きめのフロアに出た。


 周りには何もなく、奥へ続く通路のみ。


 だが、そうそう簡単に進められるわけもなく、そこには、三体の鎧がいた。


 その鎧は俺達を認めると、ゆっくりと剣を抜き、構えを取る。


「なんだ、お前達は。この塔に先にやって来た冒険者か? もしくはここの守護者か?」


 鎧は答えない、兜は目元以外顔を覆っており、どんな顔をしているのかまるで分らない。


 だが、戦意だけはあるようだ。


 俺達は武器を取り、戦闘準備に入る。


 こいつらがダンジョンのボスなのか?


 鎧は俺達に向かって走る。


 三体同時。


 俺と、アトス、ステラは前に出る。


 振り上げた鎧の武器を剣で受け、激しく鍔迫り合い。


 なるほど、力も強いな。


 チラリと、二人を見ると、アトスも同じように受け、ステラはステップを踏んで躱している。


 よし、強敵ではあるが、なんとかなる。


 ガキンと、剣を押して、鎧の体制を崩させる。


 そのまま一気に攻勢へ出た。


 上段、中断、下段。


 角度を変えて、何度も打ち込み、決定的な隙を伺う。


「はっ!」


 一度籠手の部分を斬りつけたが、小さな傷は出来たものの、斬り落とすには至らず、振り払われた。


 いい鎧だ。


 やはり関節部を狙わないと難しいか。


「離れてレオダス。“ファイアバレット”」


 俺はステップを踏んで横に移動すると、アティの魔法が鎧に向かって放たれ、見事に命中した。


 鎧に直接炎は効かないだろうが、熱で中の人間は堪らないだろうし、衝撃もある。


 直撃すればダメージを負う筈だが、鎧はグラっと揺れただけで、何事もなく攻撃を再開する。


「何!?」


 確かに鎧には焦げ跡が付いたくらいだが、中の人間は何ともないのか?


 アティも驚いて、再び呪文を唱える。


 俺は思い切り下から切り上げ、相手の剣を上にはね上げた。


 ガラ空きになった首元へ、一閃!


 確かに決まって兜がガランガランと床に転がる。


 しかし、


 ギギギ、と鎧は揺れて再び活動を再開した。


「なっ、首をやったんだぞ!?」


 鎧は兜を拾う為に、下を向いた。


 その時に見た、中に人の姿はない。


 空っぽだ。


「リビングアーマー!!」


*********

 皆さんは正解できましたか?

 読者の方から、ステラの解答以外の正解投稿を寄せられました。

 私自身、なるほどと思った答えもあり、目から鱗でした。

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