第111話虚偽の塔8
俺は腰にロープを結び付け、具合を確かめた。
うん、大丈夫だ。
これなら真っ逆さまに落ちたとしてもほどけることはないだろう。
「どう、レオダス。行けそう?」
「ああ、大丈夫だステラ」
俺は頷く。
「あたしが行ってもよかったんだけど、あたしの方が軽いし」
まあ、確かにそうなんだが。
「いや、やっぱり俺が行くよ」
これならば安全は確保できるし、やっぱりこの中では俺が行くのが一番正解な気がする。
それが解っているのか、ステラも強くは言って来なかった。
「よし、じゃあ行くぞ。しっかりとロープを押さえておいてくれ」
「分かった。ゆっくりいくよ」
俺は滑り台に足をかけると、ゆっくりと下に降りて行った。
ずりずり、ずりずり。
ゆっくりゆっくりと。
「レオダース。大丈夫ー?」
「ああ、大丈夫だステラ。その調子で降ろしてくれ」
「分かったー」
俺はホール状の滑り台の真上を見つめながら、下に滑っていく。
もう辺りは薄暗くなってきた。
一体いつまで続くんだこの滑り台は?
そろそろ、ロープの長さが足りなくなってくる頃なんじゃないだろうか?
三階建ての建物の上からでも降りられる長さなんだが、この塔の高さでは足りなくなる。
このまま本当に一階まで続いているんだろうか?
だとすると、あの壁の文字はやっぱり嘘っぱちか?
いや、あんなのを本気で信じたわけではないんだが。
一度上げてもらおうか?
そう考え始めた時だ。
薄暗い視界の中に、スイッチが目の止まった。
「なっ、こんな所にスイッチだと!?」
まさか、これが正規ルートへと続く道を開く為のスイッチなのか?
「待ってくれ! 降ろすのストップ、ストーーップ!!」
俺は大声を出して、上を見上げながら叫んだ。
声が届いたのか、ずりずり降りていくロープはピタリと止まる。
「まさか、本当に?」
恐る恐る、俺はスイッチを押した。
その瞬間、ガコンガコンと振動があり、何かが動いた。
「うわ、なにこれ!」
上からアティの声がする。
俺は慌てて再び叫ぶ。
「なんだ! 何があった!?」
「い、いきなり壁がズレて、新しい階段ができたー!」
「やっぱりか!」
このスイッチはやはり正しい道を開く為のスイッチだったのだ。
そ、それにしても、なんちゅう嫌らしい場所にスイッチを設置するんだ。
普通に滑ってたら絶対見つからないぞこれ。
「ゆっくり上げるねー!」
「ああ、頼む」
ロープに力が入り、俺はゆっくりと上に持ち上げられていった。
しばらくして皆と合流できた俺は、先程『正規ルート』と書かれていた壁がなくなり、新たに階段が出来ているのを確認した。
なるほど、確かにこの壁・が正規ルートだったわけか。
俺はスイッチを押したことでこの階段が出現したと説明すると、アティは目を三角にした。
「何それ! 普通見つからないわよそんなの。どんだけ性格悪いわけ!」
全くその通りと思ったが、ステラはそうは思わなかったらしい。
「いや、慎重な人間ならここでロープを使うよ。無理とは思えないね」
「一人で来た人はどうするのよ!」
確かに、この辺りにはロープを括り付けられる所なんかない。
「そこは工夫するしかないね。あたしらも、もう少しそのスイッチが下にあったら危なかった。もうすぐ長さが足りなくなるところだったからね」
ほんとそれな。
そもそもロープを持っていなければその時点で詰んでいる。
そうなると数日移動日数のかかる公都までロープを仕入れに戻らなきゃならなかった。
だが、俺達は運のいいことに、複数で、ロープを持っていた。
なんとかこの難関も乗り越えたぞ。
「よし、じゃあ、この『正規ルート』の階段を上がるぞ。
「こっちも偽じゃないでしょうね?」
アティは未だに警戒している。
「そうなったらもうお手上げだな」
俺は苦笑した。
それから俺達は塔の攻略を進める。
どうやらあの階段は正しかったらしい。
同じように嫌らしい罠に道を阻まれ、もう一泊しながらも、なんとかかんとか俺達は9階までやって来た。
もう精神は相当参っていた。
だが、外から見た限り、そろそろ最上階の筈だ。
もうひと踏ん張り。
だが、そんな俺達の前に、新たな仕掛けが現れた。
広いフロアに出ると、前方には台座があり、その横には何かを複数嵌め込む窪みがある。
そして、恐らくその窪みに嵌めるであろう文字を掘られたパネルが置いてあった。
そして、台座にはこう綴つづられている。
『旅人が分かれ道にやって来た。片方は善の心を持つ魔物の村に続き、もう一方は悪しき心を持つ魔物の村がある。旅人は善の村に行きたいのだが、どっちが正解かは判らない。そこへ魔物がやって来た。この魔物はどちらかに住む魔物ではあるが、善の魔物か悪の魔物かは判らない。善の魔物は必ず正直に答え、悪の魔物は必ず嘘を言う。さて、旅人はなんと質問すれば善の村の道に行くことが出来るだろうか? 正し、質問は一度だけとし、答えは『はい』か『いいえ』とする』
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