第110話虚偽の塔7

 セリシオの刺客を撃退した俺達は、先程してやられた上下に分かれた階段前までやって来た。


 己、下段の階段め、よくもやってくれたな。

 と、仕方のないことを思ってみる。


「やっぱり上だったんだな。考えすぎもよくないってことか」


「そうだね。今度は間違いようがない。じゃあ行こうか」


 アトスがリーダーとして発言し、俺達は上へと向かった。


 下は螺旋階段だったが、こっちは真っすぐだな。


 これは、これまで上がってきた上階段と同じ作りだ。


 やっぱりこっちが正解だったんだな。


 しばらく上がると、目の前の壁に、ぽっかり穴があいていた。


 これまでのように、フロアには出ない。


 ただ、目の前にぽっかりと人一人が寝転がって入れるほどの穴が開いているのだ。


「「「・・・・・・・・・」」」


 こ、これ、罠だろ。


 なんだこのあからさまな穴は。


 こっちが正解じゃないのか?


「どうするか・・・」


「どうするも何も、道はこっちしかないんだし、行くしかないじゃない?」


 アティが若干顔を引きつらせながらそう言った。


 俺も頷きたいんだが、これまでがこれまでだからな。


「じゃあ、アティが行くってことでいい?」


 ステラがそう言うと、アティは青ざめ、顔をぶんぶん横に振る。


 そらそうだよなー。


「あ、あの、横の壁に文字が書いてあるんですけど」


クレアがちょんちょんと壁を指した。


「あ、本当だ」


 穴にばかり目が行ってしまったが、横の壁に文字が刻んである。


 なになに、


『この先、正規ルート』


 ・・・。


 ウソくせーーーーーー!!


「これは酷い・・・」


 アトスの額にじっとりと汗が浮かぶ。


 こんな煽りともとれる文章があるだろうか?


「こ、この塔を作った奴、本当に性格が悪いわ!」


 アティが壁に向かって罵るが、そんなことで文字は変わったりしないのである。


「か、考えていても仕方がない。行くしかないだろう」


「レオダスが?」


「・・・や、やぶさかじゃない」


 誰かが行かないといけないんだ。


 俺が先に行って危険かどうかを見定めないと。


 ゴクリと喉を鳴らした。


「ね、ねえ。この穴、下に向かってるんだけど。滑り台みたいだ」


 ステラが穴をのぞき込んで脂汗を流した。


「じゃ、じゃあ、この穴を落ちたらやっぱり一階に戻っちゃうんじゃないの?」


 アティも穴をのぞきこんで青ざめる。


「こ、今度こそ別ルートに繋がっているかもしれません。ここにも正規ルートって書いてありますし」


 クレアは壁を見ながら自信なさげに言う。


「じゃあ、あんた行きなさいよ」


 アティはやってみろとばかりにそう言うと、クレアは決心を固めた顔で頷いた。


「は、はい! 私、行きます!!」


「ちょ、ちょっと待てクレア。俺が行く」


 本当に行こうとするクレアを呼び止めた。


 この子は、本当に人が嫌がることを率先してやろうとするな。

 いや、立派だけどこの場合はヤバイ。


「で、ですがレオダス」


「そうよ、行くって言ってるんだから行かせてみたらどうなの?」


 クレアは戸惑い、アティは急かすが、俺は首を横に振った。


「この下に罠があるかも判らない。単独でも戦える人間が行ったほうがいい」


「それは・・・そうだけどさ」


 アティは唇を尖らせる。


 何故アティはクレアのこととなるとこうも冷たいんだろうか?


 この二人を仲良くさせるにはどうしたらいいんだ?


 それはともかく、今はこの穴だ。


「よし、じゃあ俺が行く。俺がOKを出したら皆来てくれ」


「気を付けてねレオダス」


「ああ、アティ」


「何かあったら大声を上げてくださいね」


「解ってるクレア」


 しかし、何かあったら、むしろ来るなと叫ぶだろうな。


 これは言わないでおこう。


 すると、アトスが俺を見る。


「危険なら黙ってようと思ってるでしょ?」


「い、いや、そんなことは」


 来るなと言うつもりで、


「バレバレだよ」


「え、そうなんですかレオダス!」


 アトスに俺の思惑を看破され、クレアは驚いた。


 くっ、アトス。

 人の機微に敏感になりやがって。


「だ、大丈夫だ。本当に危険なら言うから」


「本当だね?」


「ああ」


 こうなっては仕方がない。

 ちゃんと言おう。


 だが、本当に危険だったら、その時は。


 俺は覚悟を決めて穴を見つめ、一度大きく息を吸った。


「じゃあ、行くぞ」


 俺はゆっくりと、穴、滑り台に足をかけた時、


「ねえ、レオダスをロープで結んで調整しながらゆっくり降ろせばいいんじゃない?」


「「「あ」」」


 ステラが俺の決死の覚悟を笑いながら、素晴らしい提案をしたのだった。

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