第109話疑惑の依頼人

「この私を呼び出すとは、いったい何の用です?」


 私は冒険者ギルドに呼ばれ、レキスターシャ支部までやって来ました。


 本来、次期公爵である私を呼び出すなど、不遜もいいところなのですが、そろそろ新しい冒険者を雇ってダンジョンに潜るつもりでいましたから、ちょうどいいです。


 昔は冒険者だったであろうギルマスは、意外にも女でした。


 魔法使いか何かだったんですかね。

 まったく興味はありませんが。


「今日、ご足労願った要件は解っていますね? セリシオさん」


 私は首を傾げました。


 はて?


 まるで、『解っているだろう』と言った口ぶりですが、心当たりがありませんね。


 どうやら、悩んでいる私が気に入らなかったらしく、ギルマスは私を睨みました。


 なんです?


「あなたはこれまで、3組の冒険者とダンジョン探索に出ていますね?」


「そうですね」


 ギルドの仲介があったのですから、知っているのは当然でしょうね。


 何を当たり前のことを。


 私が素直に応えると、ギルマスの表情がドンドン険しくなります。


「なんなのですか? ハッキリと言ったらどうです?」


 私がそう言うと、ギルマスは不快感を露わにしました。


「これまで、3組の冒険者があなたに同行した。しかし、その全てが全滅。帰って来たのはあなた1人だけだった!」


 ああ、そのことですか。


 そう、あれから私は2組の冒険者とダンジョンに潜りました。


 しかし、そのどちらもそれほど使えるわけではなかったのです。


 使えれば重宝してもよかったのですが、そうでないなら話は別。


 私は再び、後ろから彼らを撃った。


 天才な私は、そっちの方が効率的に経験値を稼げると知っていたのです。


 予想通りのうま味でしたよ。


「そうですね。彼らはそれ程腕の立つ冒険者ではありませんでした。不覚をとるのも仕方ないといったところですね」


 ギン! と彼女は殺気すら篭った目で私を睨みました。


 さ、流石は歴戦の強者ですね、この私を一歩下がらせるとは。


「彼らは一流の冒険者でした」


「そうですか? しかし実際彼らは死にましたよ」


 私の手によって、ね。


「あなたには、彼らを殺した疑いがかかっています」


「・・・何?」


 まさか、足がついた?

 そんなバカな。


「3組の冒険者が全滅。あなただけが無傷の生還。どう考えても不自然でしょう」


 ああ、なんだ。

 単なる憶測ですか。

 こいつはなんの証拠も持ってはいないのですね。


「簡単なことです。彼らは無能だった。私は優秀だから生き残った。それだけではないですか」


「それが、3回連続。こんなことがありますか?」


「あったのだから仕方ないでしょう。不幸な事故ですよ」


 ギルマスはギリっと、奥歯を噛んでいるようです。


「・・・どんなモンスターでした?」


「は?」


「あなたが遭遇したのはどんなモンスターかと聞いています」


「どんな、ですか?」


 考えてもいませんでしたね。


 まあ、ここは適当に、


「ハッ」


 この時、ギルマスがじっと私を観察するような目で見ているのを感じました。


 私の言葉を待っている?


 いったい何を・・・。


 私は最適解のスキルで考えます。


 そして、


 ・・・フッ、なるほど分かりましたよ。


「魔法使い型のモンスターでしたね」


「魔法使い、ですか」


「ええ、魔法使い」


 フフ、この女が失望で肩を落とすのを、私は見逃しませんでしたよ。


 つまりこうです。


 この女は死んだ冒険者の死体を調べ、死因を特定したのでしょう。


 私は賢者。


 火炎や風刃で攻撃する為、死因がバラバラなのです。


 だからここで、剣を持っていた。

 棍棒を持っていた。

 等と言えば、『じゃあ焼け死んでいるのは何故だ。さては嘘をついているな!』と、こうなるわけです。


 だから私は、私と同じ『魔法使い』と言った。


 これでバラバラな死因も不自然ではありません。


 残念でしたね。


 私は賢者、天才賢者なのですよ。


 その程度の浅い策を見破れないと思いましたか?


 そして、スキル最適解、思った以上に使えますね。


 ここでのんびり考えていては不審に思われたでしょうから。


「あの付近に魔法使い型のモンスターはいない筈なのですが・・・」


「それは知りませんよ。あなた方が把握していないだけでは? 流れのモンスターかもしれませんしね」


「く・・・」


 フフ、悔しそうですねぇ。


 さて、止めです。


「なんの証拠もなく、私に容疑をかけたのですか? 私は公爵家の客分。次期公爵になろうという人間ですよ? この無礼者が!」


「くぅ・・・失礼、しました」


「ふふ、分かればよいのです。では」


 私は再び冒険者を雇おうとしました。

 しかし、


「あなたとパーティーを組もうという冒険者はいません」


「は?」


 私は唖然としました。


「な、何故ですか? 私の容疑は晴れたはず!」


「晴れてはいません。証拠がないだけです。それに、例えあなたが殺したのでなくとも、あなたと冒険すれば死ぬ。そう冒険者達は思っているのですよ」


「そ、それは偶然・・・」


「冒険者は、験げんを担ぎます。あなたのような不吉な人間と組む者などいない」


 そ、そんな。


 ただのジンクスを大事にする?


 なんと非合理的な。


「そうでなくとも、あなたには黒い噂が尽きない。あなたを出禁にします。もうこのギルドには来ないで下さい」


「ぐっ、私への無礼。決して許しませんよ」


 私はギルマスを睨むと、くるりと半回転し、出入口に向かいました。


 その時、初めて気がついたのです。


 ここにいる冒険者達の冷たい視線に。


「くっ」


 私はセカセカとギルドを後にしました。


 己、この仕打ち、許しませんよ。


 ですが、まあ良いでしょう。


 フハハ、そう、まあ良いのです。


 欲しいものは手に入ったのですから。

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