第108話虚偽の塔6

「やっぱり罠だった~」


 アティが地団太を踏んで悔しがる。


 俺も流石に最初に戻るとなると憂鬱にもなるというもんだ。


「また1階からか」


 思わず声に出てしまった。


 しまった、憂鬱な気持ちをそのまま言葉にしてしまった。


 皆、下を向いてしまう。


 くそ。


「悪い、気持ちを切り替えていこう」


「そうだね」


 アトスは笑顔でそう言うと、入り口の扉を開く。


 その時だ。


 後ろから気配を感じ振りかえると、そこには三人の男がいた。


 なんというか、如何にもなチンピラだ。


 なんでこんな所に?


 荒くれの冒険者など多く要るが、その類か。


 この塔の攻略?


 この塔を攻略するクエストなどなかったはずだが、ダブったのか?


 だが、こいつら、明らかに俺達を見て笑っている。


 目的は、塔の攻略じゃない?


 俺達、なのか?


「よお、ダンジョン攻略は終わったかい?」


 一人の男が俺達に話しかけてくる。


 にやにやと笑って気持ちが悪い。


「この塔の攻略に来た冒険者か? 悪いな、ここは今俺達が攻略中だ。ギルドを通してはいないが・・・」


 ハッキリ言って、ギルドを介していないのだから、こいつらに何か言う権利は俺達にはないんだけどな。


 まあ、これは皮肉な挨拶みたいなもんだ。


 こいつらは、初めから塔の攻略などする気はないのだから。


「へへ、ご心配してくれて嬉しいけどよぉ。俺らはお前らに用があるんだわ」


「へえ、なんだろうな? サインがほしいなら待ってくれ。順番待ちなんだ」


 俺がつまらないジョークを言うと、奴らはさも面白そうにゲラゲラと嗤った。

 お、ウケた。


「面白れぇ奴だ。自分の立場解ってんのか? お?」


「お前らこそ解ってるのか? 今から成すすべなくやられるんだぜ、お前らは。誰が依頼主だか・・・いや、決まってるか」


 これまで笑っていた男達の顔色が変わった。


「てめえ、今死んだぞ?」


「凄むなよ。はなっからそのつもりだろう? センスのない奴だな」


 さっきまでの態度は影も形もなくなって、男達はナイフを取り出した。


 なんでチンピラってナイフを武器にするんだろうな?


 何か掟があるんだろうか?


「こっちは今機嫌が悪いんだ。そっちとしてはタイミングが悪かったな」


 ふん、と男が鼻で笑う。


「こっちはな、これでもB級冒険者なんだ。てめえらのほうが数が多かろうが」


「こっちはA級が三人だ」


「・・・は?」


 俺、アティ、ステラが前に出て、武器を抜き、ステラはポキポキと指を鳴らした。


 アトスとクレアは後ろに待機。無論二人も俺達に負けない腕前、つまりA級以上なのだが、相手も三人、手を出すまでもない。


 ちなみに、二人は俺たちの推薦もあってBランクからのスタートだ。


「じょ、冗談の続きか?」


「それは、お前ら自身で確かめろ」


 ビクついている三人に俺達は突撃した。




 戦いは別段語るべきものでもなかった。


 チンピラ三人をあっさりと撃退し、彼らは這うほ這うの体ていで逃げていく。


 俺は仲間に向き直る。


「セリシオの奴、ここに俺達がいることを突き止めていたのか」


「ふん、ここに“真実の鳥”を探しに来ているの、何処から知ったのかしら?」


 アティが鼻を鳴らし、つまらなそうにしている。


「あっちも何かしらの対策をしているのかも知れないな。急ごう」


「そうね。それにしても、あいつ何処までこっちを馬鹿にしているのかしら? あの程度の奴を刺客に差し向けてくるなんて」


 そうだ。

 こっちは勇者パーティーだぞ。

 あの程度のチンピラになんとかできるわけがないだろうに。


「ねえ、もしかしてあいつさ、このパーティーが強かったのって自分がいたからとか勘違いしちゃってるんじゃないの?」


 アティは思わず笑ってしまっている。


 確かにあいつならありそうだ。


「ま、今はあいつを頭から消しておこう。さ、面倒だけどまた戻るぞ」


 俺達は重い足取りで、塔へ登っていく。

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