第107話虚偽の塔5

「はあはあ、もうハイゴブリンはいないな・・・」


 俺は一掃したハイゴブリンを見渡してそう呟く。


 既に5階である。


 モンスターも仕掛けも、俺達を苦しめていた。


 なんとか5階までやって来て、そろそろ6階の階段も見つからないかなと思っていた矢先に、このゴブリンの亜種で、力も強いハイゴブリンと出くわした。


 それでも一匹一匹の戦闘力は、ワーウルフに比べたら劣る。


 しかし、群れによってはそれを上回る。


 今回は数が多かったから苦戦した。


 それに何て言うか、汚いからな、ゴブリンとかオークは、ちょっと数が多いと辛い。


 女子三人は鼻を抑え、顔をしかめている。

 気持ちは解るぞ。


「さて、さっさとここを離れよう」


「そう、ですね・・・」


「激しく同意するわ」


 クレアとアティはコクコクと頷く。


 さっさとこのフロアから立ち去り、暫く通路を進むと、そこには、階段があった。


 が、素直には喜べまい。


 何故ならば、


「・・・階段が二つ」


 そう、目の前には階段が二つあった。


 しかもだ、上と下に伸びている階段が二つだ。


「ど、どっちに行ったらいいんだ?」


「普通に考えたら上じゃないでしょうか?」


 俺が唸ると、クレアが素直な意見を言った。


 そう、普通ならそうだ。


 しかしだ。


「この虚偽の塔だぞ? 本当に素直に行っていいのか?」


 これまで散々騙されてきたんだ。


 今回もそうでないとどうして言い切れる。


「でも、でもですよ。裏をかいたらやっぱり騙されると思いませんか?」


「裏の裏は表ってわけか・・・」


 確かに、確かにそれもある。


「あー、面倒くさいな。ここは下よ。下行きましょ!」


 アティが頭を抱えながら、もう投げやりともいうように、強行突破をしようと断言した。


 ステラも頷く。


「どっちが正解か、これは判らないよ。まあ、素直に上が正しいとかちょっと抵抗があるんだよね。ここは下じゃない? 下と見せてすぐに上に曲がったり、下に本命の上階段があったりするかもよ?」


 そう、だな。


「ここはさー、アトスに決めてもらおう。責任はアトスってことで」


「ええ、その言い方はずるいよ!」


 アトスは汗を垂らしながら猛抗議した。


 それでも決めなくてはならない。


 ここはリーダーとして一つ。


 ・・・11歳に責任を押し付ける大人達である。


「わ、分かった。ここは下にしよう。ステラがそう言ったし!」


「ええ、その言い方はずるくない!」


「さっきのお返しだよ」


 アトスがちろっと舌を出した。


「はわわ、お可愛~」


 なんだ、クレアが自分を抱きしめて悶えている。


 一体彼女に何があった?


 アトスとステラが顔を引きつらせているのと、何か関係があるんだろうか?


 方針は決定した。


 俺達は、アトスの決定で、皆同意の上で、下に向かう。


「多分ね、あると思うんだー。この下に行ったすぐ先に上に上る階段が」


 ステラは自分に言い聞かせるように、ずんずんと先頭を切って階段を下りた。


 トコトコと。


 トコトコと。


「「「・・・」」」


 螺旋階段をトコトコ下に降りていく。


 それで、


「なんだ、このスイッチは・・・」


 行き止まりだ。


 そして、階段の正面に、一つのスイッチがあった。


 それ以外には何もないようだ。


「・・・ねえ、押していいと思う?」


 ステラは顔を引きつらせ、全員に問いかける。


 無論、俺達も顔を引きつらせている。


 こ、ここまで露骨な罠があっただろうか。


 そう、罠だ。


 罠に決まっている。


 だが、これが本当に上に行く階段が出現するスイッチだったら?


「アト」


「もう! 押すよ、押せばいいんだろ!」


 半場やけくそになったアトスはポチっとスイッチを押す。


 すると、ガガガと、目の前の壁が上がっていき、正面に一つの扉が現れた。


「え、もしかして、本当に正解?」


 アティは喜びで、飛び上がりながら扉へと小走りした。


「あ、ちょっと待てアティ!」


 喜ばせておいて実は罠でしたなんて、この塔ならやりそうだ。


 俺達は慌ててそれを追うが、アティは止まらずに扉を開けてしまう。


 そこには、


「え、草原?」


 アティはあっけに取られて呟いた。


「こ、ここは」


 入口の門のすぐ近くにある草原だった。


 あのスイッチのせいで、この扉は隠れて見えなかったのか?


「い、1階に戻って来てしまったのですか?」


 クレアが愕然と呟く。


「うわー、やっぱり罠だったー! アトース!!」


「それは酷いよステラ!!」


 アトスは涙目で猛抗議。


「ああ、それはあまりに酷いぞステラ。皆で同意して決めたことだ」


「分かってるよー。アトスごめんね、冗談だよ冗談」


「もう!」


 アトスは腕を組んでぷんすか怒る。


「ああ、拗ねるアトスさんもこれはこれで」


「クレア、それ以上は不味い。マジで戻れなくなるよ!」


 口に手を当てて、顔を赤らめているクレアに、ステラがツッコんだ。


 なんだろう。


 よく分からないが、何となく本当に戻れなくなりそうな気がするので、ここはステラを応援しよう。


 俺も参加すればいいんだろうか?


 ごめん、関わりたくないです。


「と、とにかく戻るよ!」


 アトスはそう言って振り返ると、なんと階段がベラリと畳まれて段がなくなり、急勾配の坂になってしまった。


「えっ」


 これではとても登れないな。


 つまり、つまりだ。


「「「振り出しに戻ったーーーーーーー!!」」」

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