第106話虚偽の塔4

 先手は譲らない。


 俺はワーウルフに向かって走る。


 が、奴はステップを踏んで俺との対決を避け、アトスに向かって突撃した。


「っ!」


 鋭い爪をアトスは聖剣で受ける。


 しかし、明らかにパワー負けだ。


 そのまま後ろに大きく吹き飛ぶ。


「うっ!」


「アトスさん!」


 クレアが叫ぶと、アトスは片手を上げて、心配ないとジェスチャーを送った。


 が、クレアが動いたことで、ワーウルフはターゲットをクレアに変えたらしい。


 ぐるんと視線をクレアに向けると再び猛ダッシュ。


「っつ!」


 不味い。


 俺が割って入ろうとするよりも早く、アティがクレアに向かってタックルし、ワーウルフの攻撃を間一髪で躱す。


「かはぁ!」


 庇う為とはいえ、アティの全力タックルを食らったからな。

 クレアのダメージも相当なはずだ。


「我慢しなさいよ! って、こいつに接近戦はあたしも遠慮したいわね」


 アティは杖術の達人ではあるが、それでも体格、パワーの面で、相手があまりにも悪すぎる。


 そこに横合いから、ステラが飛び込み、ワーウルフの腰にミドルキックを入れた。


「ぐる」


 大男でも悶絶ものの蹴りだっただろうが、ワーウルフには身体がぐらっと揺れた位で大したダメージではなかったようだ。


 それでも、ターゲットはクレアから今度はステラに移った。


「ぐああああああああ!!」


「うわっ、おっかなぁ!!」


 ワーウルフの咆哮にビビるも、台風のごとく両爪の攻撃をなんとステラは捌いていく。


 とてもではないが、正面からでは打ち合えない。


 絶妙に力を逃がしながら、見事な立ち回りを演じている。


 しかし、このままではすぐに拮抗は崩れるぞ。


 無論、それをじっと待っているつもりはない。


「正々堂々じゃなくてごめんな!」


 俺は背後からワーウルフに斬りかかった。


 気配を察したか、ワーウルフは大きく横にジャンプ。


 体制の立て直しを図る。


 させない!


 俺は息をつかせまいと、ワーウルフを追う。

 ステラもそれに続く。


 俺達に注意が向いたところで今度こそ、アトスが横から斬りかかった。


「ぐあああああああああ!!」


 わき腹を斬られ、ワーウルフは絶叫する。


 間髪入れずにステラが、斬られたわき腹に回し蹴りからの後ろ回し蹴りまで決め、堪らずワーウルフは膝をつく。


「悪いな」


 そこに俺は脳天目掛けて剣を振り下ろした。


*********


「ふー、手強い相手だったな」


 俺は手うちわで身体を仰ぎながら、倒れたワーウルフを見下ろした。


 噂通り、この塔のモンスターは一筋縄じゃいかないぞ。


 この先何が待ち受けているか、考えただけで気が滅入りそうだ。


 その上、意地悪な仕掛けが満載ときた。


 俺の知る限り、難易度MAXだぞ、このダンジョン。


「うう、いたた」


 この中で一番ダメージを受けたのは、実はアティに体当たりをされたクレアだったりする。


 彼女は自分に回復魔法をかけながら、涙目である。


「だーかーらー、我慢しなさいよね! あんたあのままだったらミンチになってたのよ!」


「はい、解ってます。解ってますけど、何か別の意図はありませんか?」


「ないわよ。ないったらない!」


 そう言いつつも、何故かアティは視線を外す。


 じと~っと、クレアはアティを半眼で見つめると、アティは更に視線を大きく外した。


「あたし、恩人。感謝しなさい」


「します。しますけど」


 仲いいなー。


「仲いいなーとか思ってる?」


 いつの間にか隣にいたアトスがそんなことを言う。


 こいつ、エスパーか?


 正解を言い当てたと言った風な顔をすると、アトスは苦笑する。


「まあ、悪いよりはいいよね」


「そうだな」


 クレアの治療を終えると、俺達は立ち上がる。


「アトスさん。身体は大丈夫ですか?」


 クレアが心配して尋ねるも、アトスは肩をグルグルと回し、笑って見せる。


「ちょっと痺れたけど、怪我もないし、大丈夫だよ」


 ワーウルフと正面から激突したからな。

 ちょっと心配したが、問題なさそうだ。


 俺はワーウルフを見て苦笑いした。


「ここで、キャンプってわけにはいかないよな」


 既に死んでいるとはいえ、こいつの隣でキャンプしたくはない。


 全員が頷き、場所を移した後、今度こそキャンプした。

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