第105話虚偽の塔3

 息を切らせながら、俺達は階段を上り終える。


 既に二階は制覇した。


 これより三階を攻略するわけだが、二階でもトラップの連続で俺達は早くも消耗している。


 とにかく、いやらしい仕掛けが満載で、肉体的な疲労は勿論、精神的にもかなりクルものがある。


 特にアティは辛いだろうな。


 やはり、俺達とでは経験の差がある。


 それとなく気をつけているが、疲労は濃厚だ。


 ステラは大丈夫だろうが、クレアもそろそろ厳しい。


 辺りは暗くなってきている。


 もうここでキャンプしたほうがいいのかもしれない。


「アトス。三階についたら今日はキャンプした方がいいと思うんだが、どうだろう?」


 俺が提案すると、アトスは頷く。


「そうだね」


 すると、アティがムキになって声を上げた。


「あ、あたしならまだいけるよ」


「私もです」


 これにクレアも続く。


 彼女達は自分が足を引っ張っているんだと思っているんだろう。


 だが、それは勘違いだ。


「逸はやる気持ちは解るが、ここはまだ無理をする場面じゃない。先はまだ長いぞ? この先無理をしなければならない局面があるかもしれない。その時にへばっていたらそれこそ危険だ。な? ここは休んでおこう」


「・・・でも」


 まだ何か言いたそうにしていると、ステラがぺたんとその場で座ってしまった。


「あたしは疲れたー。ねークレアー、スタミナポーションくれない?」


「あ、はい」


 クレアは言われるがままに、一時的に体力を回復させる(回復ポーションとはまた違う)スタミナポーションを取り出すと、ステラに手渡した。


 ステラはそれをごきゅごきゅと飲む。


「っか~~! たまらないこの一瓶!」


「酒みたいに呑むなよ」


 俺が苦笑すると、ステラは「いーの、いーの」と笑った。


「レオダスもいっとく? 元気出るよこれ」


「俺はまだいいよ」


 軽くジェスチャーで断ると、アトスがクレアに手を出した。


「僕は貰おうかな。結構階段で疲れちゃったよ」


「あ、はいはい」


 クレアは急いでアトスにスタミナポーションを手渡す。


 アトスはそれを一気に呷あおった。


「お酒ってこんな感じ?」


「元気が出るって意味じゃ同じかなー。今度アトスもお酒呑む?」


 ステラが尋ねると、アトスは難しい顔をした。


「まだいいかな。お酒臭い人を見ると、この匂いの何がいいのか分からないから」


「多分、呑めばそれとは違う感想をもつと思うけど、いいや、機会はいくらでもあるだろうし」


 話しながらアトスも座り込む。


 完全に『今日はここまで』モードに入っている。


 俺はクスリと笑ってアティとクレアを見た。


「な? 皆疲れてるのは同じだよ。休もう」


「分かった」

「分かりました」


 気を使われているのは勿論気が付いているだろうが、ここは二人の優しさに乗っかっておこうと思ったようだ。


 実際に、まだこの一筋縄ではいかないダンジョンは続く。

 無理は禁物だ。


「よし、キャンプ道具を出す。ここで一夜をあかそう」


 俺がそう言って、荷物を下ろしたその時、アオーンという高い鳴き声が聞こえ、俺はすぐさま臨海体制に入った。


 この声は!


「な、何が来るの!!」


 その声は恐怖を呼び起こすには十分だった。


 アティはゴクリと生唾を飲む。


 ああ、なんとなく予想がつくぞ、こいつは。


 ズシンズシンとフロアの先からやって来たそいつは。


「ワーウルフか!?」


 それは所謂狼男だった。


 身長3メートル、唸るような体毛と、盛り上がった筋肉。

 鋭い爪と牙、真っ赤な瞳。


 顔は狼、身体は人間の狼男。


 グルルと唸りながらこちらを見下ろしている。


「そーら、こういうことがあるから休める時に休まないとダメなんだ」


 そう俺は苦笑いをして剣を抜いた。

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