第103話虚偽の塔1

「うあああああああああ!!」


 俺は落とし穴にハマり、真っ逆さまに落ちていった。


 そのまま地面にズドンと落ちる。


 ふう、ちょっと足が痺れた。


 高レベルじゃなかったら骨折してるぞ。


「レオダース! 大丈夫!?」


「おー、アトス。大丈夫だ。そんなに深くない」


 アトスは上から俺を見下ろして、心配そうな顔をしている。


 俺は手を振って、無事であるとアピールした。


「今からそっちに行く!」


「え、いいよ」


 そう言ったのだが、アトスが飛び降りてきた。


 続いてアティ、ステラも飛び降りてくる。


 おいおい。


 最後にクレア。


 あれ?


 凄く頼りなく落ちて来たぞっ!


 ああ、武道家のステラや、体術にも優れたアティと違って、クレアは正統派の後衛だからな。


 俺はクレアの真下に駆け寄り、さっとキャッチした。


「ひゃ! レオダス!?」


「大丈夫か、クレア。無理しなくてよかったんだぞ?」


「はわわわわわ! お、おひ、お姫様だっこー!」


「ん、ああ。そうなるな」


 確かに、これは俗に言うお姫様抱っこというやつだな。


 まあ、クレアはお姫様じゃないし、普通の抱っこだろ。


「ふぬー!」


 これに、何故かアティが酷く鼻息を荒くした。


「レオダス! なんであたしにはしてくれなかったの!?」


 なんでと言われても・・・。


「アティは自分で着地出来るだろう?」


「それは・・・そうだけど」


 うーん、怪我もないし、なんで拗ねてるんだろう?


 もう一言足しておくか。


「それに、クレアよりアティの方が軽い。着地に失敗したら怪我するぞ」


 クレアも小柄な方だが、あるじゃん? こう、一部に脂肪が。


 これだけフォローすれば大丈夫だろう。


 しかしだ。


 なんか空気が固まった。


 アトスは頬を引き攣らせ、ステラは天を仰ぐ。


 さっきまで怒っていた筈のアティがクレアに憐れむ視線を向けた。


 なんでかしらん?


「降ろして! 降ろしてーー!!」


「うお!?」


 何故かクレアが騒ぎだした。


 さっきまで自分から引っ付いてきたのに、いったいどうなっているんだ?


「どうせ私は重いです! 早く降ろして!」


「わ、わかった。降ろすよ」


 そっとクレアを降ろすと、クレアは「びええ〜ん」と泣き出した。


「仕方ないよ。レオダスだもん」


「流石に同情を禁じ得ないわ」


 ステラとアティがクレアを慰めているのを見て、俺は狼狽するしかない。


 え? え?


 これ、俺のせいなの?


「レオダス」


 アトスがこれまで見たことのないような達観した顔をして、


「100点からの0点」


「どういうことだ!?」


 俺はクレアが泣き止むまで、ずっとオロオロしていたのだった。


*********


「しかし、いきなり罠にかかってしまったなあ」


 気を取り直して、もう一度言おう。気を取り直して、俺はそう言って、場の空気を変えようと努めた。


 未だに俺に対する視線が痛いが、気にしない。

 気に、しない!


「あのドアだけど、絵だったよ」


 アトスがそう言ったので、俺は思わず「えっ」と、言ってしまった。

 駄洒落ではない。


「つまり、壁だったんだ。あそこから繋がる部屋は無かった」


「じ、じゃあ、あそこにはドアノブだけがあったってことか?」


 アトスはコクリと頷く。


 ステラが面白くなさそうに唸った。


「やられたね。床とか壁とかにそれとなく罠のスイッチを配置しておくなんてのはよくあるけど、侵入者から触らせにいくトラップとはね」


「まさか、入ってすぐにこんな罠があるなんてな」


「ああいう、本物のように見せる絵を騙し絵っていうの。美術館で観たわ」


 教養人のアティがそう言った。


 なるほど、そういう技術が。


「騙す、嘘、なるほど、虚偽の塔、か」


 正にその通り。


 これは一筋縄ではいかない。


 幸い、上に続く階段がある。


 これでまた一階に戻ろう。


 その時だ。


 ガシャンガシャン、と。

 何かの音がした。


「この音って・・・。」


 嫌な、嫌な予感がする。


 そして、横の通路からそいつが姿を現した。


 スケルトンキングである。


「ちょっと出会いたくない再開だなあ」


 勿論、以前倒した個体とは違うが、会いたくない相手だった。


 全員が武器を取り、臨海体制に入り、サッと、陣形を整えた。


 俺とアトス、ステラが前に出て、アティとクレアが一歩下がる。


 アティは接近戦も出来るが、一応メインは後衛とさせてもらう。


 これならば、俺達が抜かれても、アティがクレアを守ってくれるのだ。


「アトス、ステラ。行くぞ」


「うん!」


「了解!!」


 ガシャガシャと嫌な音を立て、スケルトンキングが剣を振り上げた。


 俺はそれをドラゴンスラッシュで受け止め、隙をついて、蹴りを入れる。


 腰の辺りが砕けたが、お構いなしに、剣を振り回してくる。


 以前、俺は一蹴りでこいつを粉砕した。


 しかし、今はキャリアバウンドの副作用でレベル補正が以前のプラス50ではない。


 それでもで十分強いのだが、一撃というわけにはいかなかった。


 そして、こいつらは痛みを持たないアンデット。


 体の一部が破壊されようと、怯むことなく戦闘を続行してくる。


 だが、スケルトンキングは速度と力はあるものの、攻撃事態は雑だ。


 丁寧に捌いていき、肩の辺りを叩きつけるように一撃。


 ガシャンと音を立てて斬り伏せた。


「フッ、せりゃ!」


 ステラは自慢の身のこなしで、悠々とスケルトンキングの攻撃を避けつつ、堅いガントレットをはめた拳で殴る蹴る。


 手数はかかるが、問題なく倒していく。


 そしてだ。


「はぁ!!」


 アトスが降るたびに聖剣が煌めく。


 聖属性の聖剣は、アンデットに絶大な威力を発揮する。


 まるで紙のように、上位アンデットであるスケルトンキングを蹴散らしていく。


 やるな、アトス。


 剣の技量自体も既に俺に迫る域まで到達している。


 流石というしかないだろう。


「“アイスランス”」


「“セイクリットストライク”」


 後ろからアティとクレアが援護をしてくれている。


 以前、セリシオがパーティーに居た頃は、俺が一々奴が魔法を撃つ気配を察し、仲間達に伝えなければならなかったが、連携の訓練を続けていた俺達にそれは不要だ。


 ちゃんと皆は自分の出来ることを理解してくれている。


 これをセリシオが出来ていれば・・・。


 それから30分程で、スケルトンキングを一掃したのだった。

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