第102話賢者サイド お兄さんの災難
私がこのレキスターシャ領までどうやって来たのか、簡単なことです。
我が愚兄、アルフレッドが手引きしたのです。
あの馬鹿は、私の言葉にそそのかされ、あっさりと話に乗って来ました。
見張りの兵を誤魔化し、検問では上手く変装をした上で、私の魔法で兵の認識を曖昧にし、どうにかやって来れたのです。
正直に言えば、アルフレッドがいなければここまで来るのは難しかったでしょう。
道中も、アルフレッドのフォローがあればこそ、なんとかなったのですから。
ふふふ、この馬鹿め。
こんな時に役に立つとは思いませんでした。
この男、才能では一切私には敵わない愚か者ですが、いいように動いてくれる長所もありますからね。
そして、私は見事にアターシャに取り入り、この地位を手に入れたのです。
そして、この愚かな兄はというと。
「やったなセリシオ。まさか本当にレキスターシャ公に取り入るとは思ってもいなかったぞ」
「言ったでしょう。この私にかかれば造作もないと」
正確には取り入ったのはレキスターシャではなくアターシャですが、この場合は同じことですかね。
「こ、これで我が家も、もしかしたら再興出来るかもしれない!」
フッ、小さい
恐ろしく小さいですね。
ですが、こいつにはその程度がちょうどいいのかもしれません。
確かに、我が家は有力貴族でしょう。
ですが、それも公爵の地位とは比ぶべくもありません。
精々小さな家でお山の大将を気取っていなさい。
それがあなたにはお似合いですよ。
「そうですね。私が公爵になった暁には、あなたにもそれ相応の地位を約束してあげますよ」
私の下で、ね。
「お、おお。そうか! それじゃあ、俺は一度王都に戻るぞ。これから忙しくなる」
「ええ、頑張りなさい。再興を楽しみにしていますよ」
「ああ、それじゃあな!!」
そう言って、アルフレッドは去っていきました。
私はその後ろ姿を嘲りながら見つめていたのです。
*********
で、
「アルフレッドよ。お前は国際指名手配であるセリシオを手引きした罪がかかっている。相違ないな」
アルフレッドは国王の前で、青ざめながら体を震わせていた。
彼は、家に戻って来るや否や、あっさりと兵士達に拘束されてしまったのだ。
それも仕方のないこと。
しばらく自宅謹慎の筈なのに、裏から出て行けば、誰であろうと不審に思う。
更に言えば彼は嘘の付けない人間だった。
最初は否定していたが、態度が明らかにおかしかったのだ。
ちょっときつめに尋問をしたら、あっさりとゲロった。
そして今、国王の前で跪かせている。
以前のセリシオと同じだ。
蛇に睨まれた蛙のごとく、ガタガタと震えている。
セリシオ同様、否、それ以上にアルフレッドは小心者であった。
「へ、陛下。私は何も悪意があってやったことでは・・・」
アルフレッドは涙目で国王を見た。
しかし、そこには一切容赦のない国王の姿があった。
「困ったことをしてくれたな。セリシオがレキスターシャ領に行ったことで、もしかしたら王国の危機かもしれないのだぞ?」
「ま、まさかこのようなことになるとは思わず・・・」
「そもそも、指名手配をしている人間を手引きしてはならんだろう。地位は剥奪するが、財産は残すと情けをかけた筈だ」
「そ、それは、とてもありがたく」
国王は目を細める。
「それをお前は
「そ、そんな! 国王陛下。お許しを! お許しおぉーー!!」
アルフレッドは泣き叫び、許しを乞うたが、それを聞くほど国王は甘くはなかった。
こうして彼は牢に入れられたのだ。
「哀れですな」
騎士団長は眉を下げ、アルフレッドが兵に連れていかれる姿を見つめていた。
彼のしたことは許されることではない。
だが、全てはセリシオのせいであり、彼はとんだとばっちりと言ってもいいのだ。
「俺は厳しいか?」
「いえ、正しい判決かと」
騎士団長はそう言って一礼した。
「頼むぞレオダス。なんとかアターシャ穣を説得してくれよ」
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