第101話賢者サイド 不安
公宮に戻ってきた私は、落ち着かなく自室をうろうろと歩き回りました。
レオダス。
あの男、今度は何をしようというのです?
何故私の邪魔を。
“真実の鳥“とは一体何なのでしょうか?
本物の鳥?
あるいは魔法アイテム?
一体如何なる効果をもたらすのでしょう?
この完璧な私の立場、盤石といってよいでしょう。
それを覆す効果があるというのですか。
マズイ。
マズイですよ。
どんな効果があるにせよ、奴を野放しをしておくのは危険すぎます。
なんとか手を打たなければ。
その時です、私の自室をノックする音がしました。
「誰ですか?」
「セリシオ様、わたくしです」
「アターシャですか」
すると、私が入室を許可する前に、この女は入ってきました。
私は内心舌打ちをします。
今はこんな小娘に構っている暇などないというのに。
「セリシオ様、お話いたしませんか?」
能天気な。
どうせ大した話題でもないのでしょう。
ただ、私と雑談を楽しみたいだけ。
クズめ。
「アターシャ。私は今考え事をしています。話はまた今度しましょう」
「まあ、何か考え事を。一体どんなことを? よろしければ、わたくしも一緒に考えますわ」
この!
「うるさい!!」
「えっ」
はっ、しまった。
「セ、セリシオ様、わ、わたくし」
くっ、不味いです。
こんな小娘に愛など一切ありませんが、それでもこの女は大事な傀儡。
ここで私への愛情が薄れてしまっては非常に不味いのです。
「あ、ああいえアターシャ。すいませんでした。私の考え事が面倒でしたのでね。気が立っていたのです」
「・・・申し訳ありませんでした」
シュンとしたアターシャに、必死に言葉を紡ぎます。
「実は、あなたの御父上のことなのです」
「お、お父様のことですの」
ふっ、乗ってきましたよ。
私は悲しげな表情を作り、憂いを込めた瞳で囁くのです。
「そうです。早く私達の関係を認めてくれればよいのですが」
これでいいでしょう。
「申し訳ありません。お父様は本当に頭が固くて・・・」
フッ、そっちに思考が動いたようですね。
これでさっきのショックなど忘れてしまうでしょう。
愚かなことですよ。
「わたくし達は心の底から愛し合っているというのに」
アターシャは小さくため息をつきました。
まったく、まったくこの女は愚かですねぇ。
本気でこの私がこんな小娘を愛していると思っているとは。
これほど滑稽なことはありません。
私は心の中で冷笑しました。
「はあ、こんな時“真実の鳥”があればよろしいのに」
「!!!!」
私は大きく目を開く。
今、この女は何と言った?
私はアターシャの肩を掴みました。
「きゃっ」
「アターシャ! 知っているのですか、その“真実の鳥”を!!」
「セ、セリシオさま。お、落ち着いてくださいまし。い、痛いっ」
私はアターシャの肩を掴み揺らすと、この女は動揺した様で、驚いた顔で私を見ます。
くっ、早くしなければならないというのに。
私は衝動を抑え、アターシャを放しました。
「う、ううん。それで、その“真実の鳥”とは何なのですか?」
「え、ええ。“真実の鳥”とは、このレキスターシャに伝わるアイテムです」
「アイテム。本物の鳥ではないのですか?」
この地方に伝わるアイテムですか。
それならば、天才の私でも知らないわけです。
※因みに、別に秘密にしているわけでもないし、書物などにはしっかり載っている。
「それで、その効果は?」
「その鳥は、その人が心に描いている本当の想いを代弁すると言われています」
「な、なんですって!?」
私は驚愕で、声を大きめに出してしまいました。
そんな、それでは私の心の内が・・・。
「ああ、あのアイテムが本当にあれば、わたくし達の愛が真実であると証明できるのに!」
そ、そのアイテムがあるならば、私がこの女のことをまったく愛していないことが判ってしまう!!
「そ、それは! そのアイテムはいったいどこにあるのですか!!」
再び、アターシャの肩を掴みたい衝動を抑え、私は問いました。
「それは、どこにあるのかは分かりません。あくまでも伝説ですので」
「で、伝説? で、では実際にはないのですか?」
「それも分かりません。もしかしたらあるかも知れませんが・・・」
「な、なるほど。そうなのですか」
奴らはそんなあるかも分からないアイテムを探しているというわけですか。
ですが、安心も油断も出来ません。
あのレオダスのことです。
何をやらかすのか分かりません。
何か手を打たなければならないでしょうね。
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