第99話虚偽の塔

「虚偽の塔?」


 俺はなんとなくステラを見る。


 彼女も首を横に振った。


 まあ、彼女もこの辺りの出身じゃないからな。


「そこに“真実の鳥”が?」


 クロスは苦笑する。


「いや、あくまでも今までの仮説が正しければ可能性があるくらいの低い確率だ。それにだ。この塔はこれまで攻略に行った人間は数多くいたが、誰もが空振りで帰って来たんだ」


「それだけ、モンスターが強いってことか」


 俺がゴクリと喉を鳴らす。


「それだけじゃなく、仕掛けもあってな。冒険者達は苦戦していて、しかも宝箱がまるで出現せず、うま味がないっていうんで、ここしばらく誰も挑戦していないと聞いた」


 仕掛け、か。


 俺、仕掛けのあるダンジョン嫌いなんだよなー。


 うん、悪かったね、頭使うの苦手なんだよ。


「え、待ってくれ。宝箱がないのか?」


 それじゃあ意味がないんじゃないのか?


 俺達は“真実の鳥”っていう超レアアイテムを手に入れないといけないのに、ないって言われたら行く意味が・・・。


「まあ聞け。そんな諸々の理由から、最上階まで登った奴はいないんだ。だからもしかしたら、最上階には何かあるかもしれない」


「「おお~」」


 それじゃあ誰かがムキになって挑戦を続けそうなものだけどな。


「それに、普通にモンスターも強い」


 あ、そっすか。


「その上、最上階に何があるのか判っていない。なあ、もう一度念を押すが、判ってないからな。最上階にあんたらの期待する“真実の鳥”があるのかどうかも、そもそも宝があるのかも判ってないからな。空振りでも俺を恨むなよ?」


「解ってるよ。でも、今まで手掛かりの一つもなかったんだから、行ってみる価値はあるって、なあ?」


 ステラに振ると、彼女も大きく頷く。


「ぶっちゃけ半分近く諦めていたんだけど、これで希望が湧いてきたよ」


 俺達は手を取り合い喜んでいるのだが、クロスは「そんなに期待するなよ。解ってるのかあんたら・・・」と、頭をかいた。


「いや、解ってるって。でも、ありがとうクロス。ここはおごらせてもらうよ。ああ、いや、ちゃんと情報料を渡した方がいいよな」


 俺は「いくらだ?」と懐を探ると、クロスは手を前に出し、拒否のポーズを取る。


「まあ、世間話のつもりで話しただけだ。情報提供というにはちと足りない。ここの払いを持ってくれればいい」


「そうか。いや、助かったよ」


「今度護衛の依頼でも受けてくれ。格安で頼むぞ」


 そう言ってクロスは快活に笑った。


 はは、この辺りは商人らしい。


 俺達はクロスの酒を新しく頼み、気持ちよく食事を楽しんだ。


*********


「ふーん。そんなことがあったんだ」


 俺達は帰って来ると、アトス達に闇市に行ったことや、クロスから“真実の鳥”が虚偽の塔にあるのではないかという情報を貰ったことを報告した。


 だけど、アティはそれほど喜んでいる風でもなく、むしろ不満気だ。


 あれ? どうしてだ??


「それよりも、なんであたし達を一緒に連れて行かなかったのかそっちが不満」


「あ、あ~・・・」


 あ、それで怒ってるのか。


「夕飯食べようって呼びに行ったら二人はいないし、しかも食べてきたって? 何か言うことはある? ん?」


 笑顔が怖い笑顔が怖い。


「襲われたって聞いたばかりだから心配したよ」


 アトスがそう言い、クレアも頷く。


「本当ですよ。ステラ、あなたが付いていてなんですか?」


「えええ、あ、あたし? いや、待って待って、あたしはね。レオダスに連れていかれたんだよ。なんかその前に告白みたいなこと言われてちょっとてんぱっちゃったっていうのもあって」


「「こ、告白!!」」


「あ」


 え?

 告白?


 俺が首を傾げると、アティとクレアが俺に向かって突っ込んできた。


「こ、告白って何よレオダス!」

「レ、レオダスは、ステラがタイプだったんですか!」


「お、お、おお? なんだ、どうした? 落ち着け二人共」


「落ち着けるか!」

「落ち着けません!」


 何がどうしてこの二人はこんなに俺を責めるんだ?


 俺がステラに助けを求めようと視線を移すと、ステラは気まずげに二人の間に割って入る。


「あ、あ~。だ、大丈夫だよ。ちょっとした誤解ー」


「「黙れ(黙ってください)この裏切り者!!」」


「うわ、面倒くさ! あたしは友情を取ったのにー!」


 分からん。


 女性陣が何を息巻いているのか、俺にはさっぱり分からん。


 その横で、一番の年下、少年アトスが、一番大人びた顔で外に視線を向ける。


「外は、灯りが灯って綺麗だな。ふふ」


 妙に黄昏ていた。   

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