第98話思わぬ再会

「“真実の鳥”? 知らないな」


「あの伝説の? 知るわけないだろ」


「売ってないね」




「ふうー。やっぱりそう簡単にはいかないな」


 俺はカシカシと頭をかいた。


 あれから何人もの人間に聞き込みをしたが、誰一人として知っている者はいなかった。

 当然、売ってもいない。


 俺達は少なからず失意の中、この闇市から出ようとしていた。


 それ程期待していたわけではない。


 ないはずなのに、やっぱりがっくりとくるものだな。


「まあしゃーないでしょ。今度は別の所を探そうよ。それが出来なかったら別の街を探すしかない」


 ステラは俺を見つめながらそう言った。


 俺はコクリと頷く。


「ほんと、しょうがないよな。気を取り直していこう」


「そうだね」


 その時、ふと視線を感じた。


「・・・ステラ」


「うん。誰かが見てるね。でも、害意は感じないよ」


 流石は一流の冒険者。

 視線には敏感だ。


「まああれじゃない。“真実の鳥”なんてアイテムを探している奴らがいるっていう風に、そろそろ噂になって物珍しいんじゃないかな」


「ああ、確かにそうかもな」


 気にしてもしょうがないか。


 パンと、俺は両頬を叩いた。


 闇市から、俺達は大通りに出る。


 仲間達の元へと戻ろう。


 この事を報告して、しばらくこの都で聞き込みをし、それで手掛かりをつかめなければ別の街へと行く。


 それでも手掛かりがなければ・・・いや、これはその時に考えればいいことだ。

 今考えてもいらないストレスが溜まるだけ。


 トボトボと宿に戻っている最中、一人の男とすれ違った。


「ん?」


 何処かで見た顔だ。

 俺は思わず振り返る。

 すると、あっちも振り返る。


 この人は、あの時の。


「あんた」

「あんたは」


 以前、俺が成り行きで護衛した、


「あの時の人か」


「おいおい、名前を忘れたかレオダス」


「あー、すまないえっと」


「クロスだ。商人のクロス」


「あっ、あー、覚えてる覚えてる」


 俺は悲しい言い訳をした。


 いや、忘れたわけじゃない。


 以前、俺が王都を目指した時、道中で道連れとなった商人のクロスだ。


 ちょっとこう、名前がすぐに出てこなかっただけなんだ、うん。


「それで? 闇市から出てくるとは、何かご入用かな?」


 クロスは、闇市に出入りする通りから俺達がやって来たのを見てそう言った。


「ああ、そうなんだ」


 俺は苦笑いをして答えた。


「ふむ、ちょっとそこの酒場で再開を記念して飲まないか?」


 そう言って、クロスはすぐそこの酒場を指した。


 俺はステラに目をやると、彼女も別にいいと頷くので、俺もそれに応じた。


「ああ、構わない」


「じゃあ、行こう」





「再開を祝して」


 カン、と俺達三人はジョッキをぶつけた。


「ああ、そういえば紹介がまだだった。こいつは俺の仲間のステラ。ステラ、この人は俺が前に世話になった商人のクロスさんだ」


「ステラです。ひょっとしてクロス商会のクロスさん?」


「ああそうだ。知っているのか?」


 え?


「おいステラ。クロスに会ったことがあるのか?」


「いやないよ。でもクロス商会っていえば、そこそこ有名だし」


 え、そうなのか?

 俺、全然知らないんだが。


 俺がきょどっていると、クロスは苦笑いをする。


「まあその程度の知名度ってことだ。そう気にするな」


 なんだか申し訳なさで、俺は思わず縮こまってしまった。


「あー、申し訳ない」


「いいって」


「いや、レオダスはちょっと気にしたほうがいいよ。それにこの人、商会を開ける程なのに、未だに行商もしている風変わりな人っていう意味でも有名だし」


 ステラがそう言うので、俺は「そうなのか」と唸る。


 俺、その手の話ちょっと知らないからな。


 いや、冒険者をやるならば、商会のことも少しは知っておかないと駄目だ。


 これを機に、ちょっと勉強しよう。


 クロスは、口をあけて笑った。


「自分の目で流通を確かめないと見えてこないこともある。毎回じゃないが、こうして行商するのも俺のライフワークだ」


 なるほど、その感覚なら俺もちょっと解るぞ。


 だが、偉くなってもそれが出来るかは別問題。


 俺は感心して頷いた。


「じゃあ、こっちには行商に?」


「そうだな。こっちは武具関係が安いんだ。流石に軍事に置いては一番と言われるレキスターシャ領だな」


「ああ、そうだな」


 俺はなんとも複雑な気持ちでそう答えた。


 その軍事が強力なおかげもあって、俺達は苦労しているわけなんだが。


「それで? 何を求めてお前さんらは闇市に行ったんだ?」


 クロスはグビっとラガーを飲みつつ、俺達に問いかけた。


「実は“真実の鳥”ってアイテムを探していて」


「んんん? あの伝説のアイテムを?」


 俺は苦笑する。


 やはり伝説と言われるアイテム。


 誰もが笑い話というレベルのレアアイテムなのか。


「クロスさんは知らないっすか?」


 ステラは気にせず聞くが、クロスはいい顔をしなかった。


「あいにくと、知らないな。闇市のオークションにも出回ったという記憶はない」


「あー、そうですか」


 一応闇市のオークションにも足を運んだが、そういうアイテムはなかった。


 過去にも“真実の鳥”は出回っていない可能性があるか。


 これはますます難航しそうだ。


「なんとか力になりたいが、なんとも伝承に登場するアイテムだからな」


「因みに、どんな伝承なんだ?」


 ふと、どんな風に伝わっているのか知らなかったので、聞いてみることにするとクロスも「詳しくは知らないが」と、記憶を呼び起こしているようだ。


「細部は違うかもしれんが確かこうだ『真実の鳥はあらゆる虚偽を許さない。高きその視点から全ての人を見つめるだろう』確かこんな感じだったな」


 うーん、なるほどなぁ。


 でもそれじゃあ手掛かりには・・・。


「だがふむ。『高き視点』か。これを純粋な“視点”という見方をするならば、高い位置からこっちを見ていると受け取れるな」


「ああ、なるほど。そうも取れるのか!」


 ステラはなるほどと頷いた。


「つまりあれですか? “真実の鳥”は、高い建物、あるいは山とかに置いてある」


「ああ、そういうことか!」


 俺も理解出来て、大きな声を出してしまった。

 一瞬周りの客が俺を見る。うっ、やってしまっぞ。


 俺は気まずくなって、座り直した。


「そうなると、心当たりがないわけではない」


「「本当!!」」


 二人で問い返すと、クロスは大きく返事をした。


「“真実の鳥”は、この辺りに伝わる伝承だ。そして、この辺りにある高い場所といえば、あそこがそうかもしれん」


「と、いうと?」


 俺は胸の高鳴りを抑えきれずに先を促した。


「虚偽の塔。この辺りで一番高い、塔型のダンジョンだよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る