第97話賢者サイド 経験値
暗い商店が並ぶ中、私はさらに奥へと進んでいきます。
ここは闇市。
後ろ暗い馬鹿共が集まる掃き溜めです。
なんで高貴な身分である私がこんなところにいるのかというと、それはこの先にある裏闘技場に用があるからです。
ここでは様々な連中が戦っています。
人間同士の戦いもあれば、相手がモンスターであったり、もしくはモンスター同士を戦わせるなんてこともあるのです。
と言っても、私は資金集めの為に賭けをしにきたわけでも、ましてや剣闘士として戦いに来たのでもありません。
金なら今はいくらでもあるのです。
アターシャに言えば、すぐに用意してくれるのですからね。
用があるのはここにいるモンスター共です。
私は地下の闘技場の隅にある、モンスターを捕獲している部屋にやって来ました。
私が部屋に入ると、モンスターの監視役の男が私を見つけ、ニヤリと笑い、こっちにすり寄ってきます。
「へっへ。こんばんは旦那」
気持ちの悪い男です。
この様な薄汚い場所がお似合いの汚らしい男。
本来であれば、私に話しかけるなど許されません。
ですが、私は寛大にも口をきいてやります。
「今回のモンスターはなんです?」
「・・・こちらに」
おや、この男。
私が愛想を良くしないから気分を害したようです。
愚かな。
何故私がこんな男に愛想を良くしなければならないのでしょうか?
私達は檻に捕えられていたモンスターの横を通り抜け、奥へ奥へと進みます。
「ぐおおおおおおん!!」
「っつ」
モンスターが私に向かって雄たけびを上げました。
驚かせるんじゃありませんよ。
下品で下劣なモンスターめ!
「大丈夫ですか?」
男は気遣うように私を見ましたが、その目は私を嘲っているようでした。
この。
さっきの仕返しというわけですか。
小さい男ですね。
「・・・なんでもありません」
私は堂々と振る舞い、先に進むように促しました。
フッ、あの程度のモンスターで私が動じるとでも思ったのでしょうか。
私はこれまで多くのモンスターをこの手で仕留めてきたのですよ。
この程度の雄たけび、どうということはありません。
奥までやって来ると、その檻の中には一匹のモンスターが縛られていました、唸っています。
ほほぉ、狂暴ですね。
ですが、それがいいのですよ。
「今日はこいつでさぁ」
「中々活きがいいですね」
今にも襲い掛かってきそうで、ギシギシと鎖が軋みます。
私はそんな抵抗が出来ないモンスターを笑いながら、魔力を込めます。
男はさっと身を隠して、これから起こる衝撃に備えていますね。
「“ライトニングランス”」
私の放った雷の槍がモンスターを貫き、衝撃と共に黒焦げにしました。
ああ、いつ見ても私の魔法の威力ときたら、フフ、自分でも怖いくらいですね。
さて、私は自分の状態を確認します。
何も起きない。
私は失意のまま嘆息しました。
何故私がこんなことをしているのかというと、それはレベルアップの為です。
別にモンスターを殺して楽しむ趣味はありません。
そう、私はレベルアップし、新たなスキルを得たいのです。
あのレオダスでさえ、よく分からない謎のスキルを得たのです。
であるならば、天才であるこの私にも、驚異的なスキルを授かっても良いはず。
いえ、むしろ必然と言えるでしょう。
この先何があるのか分かりません。
レオダスは尻尾を巻いて逃げましたが、あの忌々しいレキスターシャがこの先どう動くか分からない以上、こちらのステータスを上げるのに越したことはないでしょう。
何よりも、あのレオダスに出来たことが天才である私に出来ないはずがないのです。
ですが、もうこの作業を何度も行っているというのに、一向にレベルアップしませんね。
「ううむ。やはり実際に戦闘しないとレベルアップしないという説は正しいのでしょうか?」
だとすると面倒です。
既に公爵の地位を約束された私が、一々戦わなければならないとは。
かと言って、弱いモンスターを倒してもレベルアップしない。
レベルアップは現在の自分に対して、それ相応に強いモンスターでないとしないのです。
私はゆっくりと檻から出ました。
そして、男を一瞥します。
「片付けておきなさい」
「はい。次も用意しますか?」
一瞬迷いました。
もう無抵抗のモンスターを倒しても意味がないのかもしれません。
「いえ、もう結構。代金はここに置きますよ」
「何かあれば何時でもどうぞ」
金を手近な机に頬ると、私はこの場を後にしました。
*********
「くそ」
私は闇市を去ろうと、この区画の出口に歩いていきます。
この先どうするべきでしょうか。
やはり、面倒ではありますが、外に出てモンスターを倒さなければならないでしょうね。
だとすると、私の身代わりになる壁が必要です。
金ならアターシャに言えばいくらでも手に入ります。
適当な用心棒を雇えば事足りるでしょうね。
フッ、私のレベルアップも近いか。
「やっぱりないなー“真実の鳥”」
この声は!?
私はサッと、物陰に隠れました。
そこにいたのは、
(レオダスとステラ!!)
声が出そうになりました。
あの二人が一体なぜ闇市にいるのでしょう?
レオダスがステラの肩をポンと叩きます。
「仕方ないな。そうそう手に入るとは思ってないよ」
「そんなこと言って、レオダスだって肩を落としてるじゃん」
「そりゃーな。“真実の鳥”さえあれば、アターシャ嬢の目を覚まさせることが出来るかもしれないんだから期待もするさ」
(な、何ですって!?)
私は愕然としました。
アターシャの目を覚まさせる?
一体どうやって?
「明日また探そう。もしかしたら、別の街に情報があるかもしれないし」
「そうだね。あーあ」
ステラは後頭部に腕を回し、ため息をつきながら二人で表通りに戻っていきました。
私はそれをじっと見つめ、しばらく動けませんでした。
「“真実の鳥”? それはなんです?」
分からない。
だが、レオダスが何かしようとしていることは間違いないようです。
「レオダス。何処までも忌々しい奴。一体、一体何をしようというのですか!!」
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