第96話闇市に行こう

 闇市


 そこは出所が怪しかったり、違法な手段で手に入れた品々が多く並べられている、あまりお勧めできない市場である。


 しかし、そのリスクに見合ったリターンもあり、通常の市場ではまずお目にかかれないだろう品が並ぶこともある。


 ここでなら、あるいは“真実の鳥”の情報が得られるのではないか、もしかしたら、売られているのではないかと思ったのだ。


 俺とステラの二人はそこにやって来た。


 俺が襲われたこともあり、全員でとも考えたが、そこは闇市。

 治安も不安だし、教育にもよろしくない。


 そんなわけで、荒ことにもある程度慣れているステラと二人なわけである。


「レオダスはさ、闇市に来たことがあるの?」


「ここじゃなくて王都のな。そっちは?」


「あたしも王都。後、例のダンジョンの近くのあたしの古巣の街」


「なるほどな」


 ステラは俺が追放された苦い思い出がある、あの街を拠点にしていたんだったな。


 つまり、この都の闇市はお互い初めてなわけだ。


「レオダス。財布はスラれないようにちゃんと持ってる?」


「ああ」


 俺は懐に入れてある財布に注意を向けた。


 何があるか分からないからな、ここは。


「ちょっとオーラ出していこうか」


 俺は首を傾げる。


「オーラ?」


「『こいつは只者じゃないぞオーラ』」


「なんだそりゃ」


 俺は苦笑するが、ステラは真面目に続ける。


「マジだよ。ナメられないように、手を出したらどうなるか分からないみたいな感じで行くんだ」


「具体的には?」


「常に気を張って緊張。『こいつ、出来る』と思わせられればよし」


「なるほど。まあ、ここいらじゃ気は抜けないから緊張はしているけどな」


「うん。じゃあ行こう」


 ステラはキリっとした顔を作り、素早く移動する。


 そういえばステラは童顔だからな。

 もしかしたら、これまでナメられて要らないトラブルにあったことがあるのかも知れない。


 幸い俺は王都の闇市で、トラブルに合った経験は無い。

 ここでも何事もなく済めばいいが・・・。


 歩きながら、露店に目が行く。


 そこには色々な品々が並べられており、ちょっと興味が湧いた。


「いらっしゃい」


 あまり愛想のよくない店主が、俺にギロリと視線を向けた。


「見せてもらうよ」


「どうぞ」


 俺はなんとなく宝石を見る。


 普段は宝石など興味がないのだが、好奇心が刺激された。


 つまり、『これって本物か?』っことに。


 何せ闇市に出回っている品だ。

 偽物なんてのも十分ありうる。


「うーむ」


 目を細め、じっと見るが、光沢や触った感触。

 本物に思える。


 結局よく分からずに俺は宝石を元の位置に戻した。


 さて、興味本位な行動はこれくらいにしておこう。


「ちょっと聞きたいんだが、“真実の鳥”ってアイテムを知ってるか?」


「“真実の鳥”? もちろん知ってる」


「本当か!」


 まさかノータイムで返答してくれるとは思っていなかった。


 これは有力な手がかりが得られるかも。 


「何処にあるんだ? まさか、ここに売ってるのか!?」


 俺が詰め寄ると、店主は鬱陶しそうに顔を引いた。


「おい、ここじゃ“真実の鳥”なんて誰でも知ってる。だが、実際に見た者はいない。残念だがな」


「な、なんだ。そういうことか」


 興奮して詰め寄ったことが恥ずかしくなり、俺は身を引いた。


 レキスターシャ公も、“真実の鳥”はこの地域に伝わる伝説って言っていたものな。

 知っているのは当たり前だ。


「何処にあるかとか、噂話くらいはあるんじゃないのか?」


「なんか買っていけ」


 俺達が客じゃないと分かると、さらに無愛想に店主は唇を曲げた。


 ううーん。

 確かにここはお店だもんな。

 何か買えば情報をくれるだろうか?


 俺は露店をグルリと見渡し、何が適当に買おうとすると、ステラが俺を引っ張る。


「ん?」


「行こう」


「お、おい」


 半端引きずるように、俺は露店を離れた。


「ステラ。さっきの店で何か聞けたかも知れないぞ?」


「ないと思うよ。あそこに売られてるの、殆んどパチモンだし」


「え、やっぱり偽物か!?」


「そうだよ。霞んでたじゃん。結構な粗悪品」


「そうなのか。宝石は俺にはサッパリだ」


 ステラはやれやれと首を横に振る。


「駄目だねー、レオダス。そんなんじゃ女の子の気は引けないよ?」


「ううーん。別にそんな気もないからな」


「・・・ほんともー、二人は苦労するよ」


「ん? 二人? 誰のことだ?」


 誰だろう。

 話の流れから言うと女性だろうか。

 とすると、アティとクレア、もしかしてステラ自身も?


 も、もしかして、これは遠回りな宝石をプレゼントして欲しいというおねだりだろうか?


 俺は個人用の財布の中身にいくらあるか、頭に浮かべた。


「それよりさ。さっきの店はこの闇市の試金石みたいなものだよ。あそこで引っかかっちゃう程度の人間は、ここではいいカモにされて有り金持っていかれるだろうね」


「そ、そうか」


 あ、危なかったぜ。


 まあ、あれだ。


 俺は宝石の価値なんかそもそも判らないし、これが冒険に必要なアイテムとかだったら騙されないぞ。うん。


「き、気を取り直して“真実の鳥”を探そうか」


「そだね。あのセリシオに奴に目にもの見せてやる!」


 俺達は意気込んで聞き込みを続けた。

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