第95話言葉って大事

「・・・ほぇ?」


 俺がそう言うと、ステラはポカンとして固まった。


 その後、顔を赤らめ、腕で口元を抑えると、ズザザザっと後ろに下がる。


 うん? なんだ。


「え、マジ?」


「ああ、マジだ」


 ステラは酷く狼狽し、顔を引きつらせる。


 なんだ? どうしたんだ?


「まずいまずいまずいよー」


「なんだ、何が不味い?」


「いや、アティとクレアに悪いっていうか・・・」


「二人が関係あるのか?」


「あるんだよ馬鹿!」


 な、何故だ?

 というか、何故今罵倒された?


「ふ、二人のどっちかじゃダメなわけ?」


「ああ、それも考えたんだが・・・」


 アティは王女だ。

 これから行く所はちょっと物騒な上に犯罪者もいるだろう。


 クレアも聖女。

 はやり汚い場所には連れていけない。


「・・・アトスも考えたんだが」


「アトス!?」


 ステラはぎょっとして再び後ろに下がる。


 なんだ? また後ろに下がった。

 今度はちょっと引いてる。


「流石にアトスにはまだ早いと思って」


 アトスもまだ11歳だからな。


 例の場所、つまり、闇市には連れて行けまい。


「あ、た、り、ま、え、だーーーー!!」


「お、おおう」


 な、何なんだ一体。


 さっきからステラは何を怒っている?


「え、レオダスってそっちもイケる人なの? ええー、それはどうなの? それじゃあアティとクレアは一体どうしたら・・・?」


「何か問題があるのか?」


「あるんだよ馬鹿!」


 だから、なんでさっきから俺は罵倒されているんだ?


「それで、どうなんだ? 付き合ってくれるのか?」


「う、うぇえ」


 ステラは挙動不審になり、無意味に歩き回ったり、キョロキョロと視線を移す。

 いや、ちょいちょい俺を見ては顔を赤くしている。


「あの、もう一回聞くけど、アティとクレアとじゃダメなわけ?」


「ああ、二人じゃ駄目だ。お前じゃないと駄目なんだ!」


「へ、そ、そうなんだ」


 うん?

 視線を外しながらもそわそわしている。

 何故だろう。

 今まで見たことがないステラの顔だ。

 妙に可愛いな。


「で、どうなんだ? 一緒に付いてきてくれるのか?」


「つ、付いてって、え、もしかしてその先のゴールインまで念頭に置いて?」


 分からん。

 こいつの考えていることはさっぱり分からん。


「ちょ、ちょっと考えさせてくれる?」


「いや、駄目だ。今ここで答えを聞きたい」


「い、今すぐ!?」


 時間は有限だ。

 長引けば長引くほど、アターシャ嬢のプレッシャーに圧されて、レキスターシャ公が何をするか分からない。

 今すぐ行動に移さなければ。


「レ、レオダスって結構ガツガツ来るんだね。ちょっと意外。ま、まあ、男気があってあたしは嫌いじゃない、けど・・・」


「じゃあ、いいのか?」


 俺はズイっと一歩近づいてステラに迫った。


 ステラは「うぐっ」と一歩引く。

 それ以上下がったら後ろの壁にぶつかるぞ?


「うー、うー、ううーーーん」


 腕を組んで唸る。

 唸る唸る。


「や、やっぱり駄目ーーーー!!」


「えっ」


「い、いや、レオダスが嫌ってわけじゃなくて、あたしも立場があるっていうか。女の友情って大事っていうか」


「お、女の友情だと?」


 何故ここで友情が出てくる?

 分からん。

 さっぱり分からんぞ。


「しょ、正直まんざらでもなかったけど、ごめんなさい!!」


 ステラは誠意ある態度で頭を下げた。


 仕方なく俺はため息をつく。


「そうか。分かった。俺は一人で行く」


「イッ! ちょ、ちょっとそういう露骨な言い方止めようよ!」


「え? なんでだ?」


「そ、そりゃ、関係も深まれば、そういうこともあるかもだけど、それだって言い方あるでしょ」


 ・・・おかしい。


 俺達は何か誤解をしているように感じるんだが。


「なあ、ステラはなんの話をしてるんだ?」


「なっ、この期に及んで何言ってんのさ!」


「俺は闇市に一緒に行ってほしいんだが」

「告白のー・・・闇市?」





「はぁーーー!! 闇市に一緒に行ってほしい!!」


「お、おう。最初からそう言って」


「言ってない!!」


「そ、そうだったか?」


「あんた俺と付き合ってって言った! そこは俺に付き合ってでしょ!!」


「そう言わなかったか?」


「言ってない。最悪の間違いだよ!!」


「す、すまない」


「言葉、大事、あなた、馬鹿」


 何故カタコトだ?

 それだけ怒らせちゃっているのか?


「あー、そのー、それで、どうだろう。行ってくれるんだろうか?」


 ステラはため息をつき、頭に手を当てた。


「はぁ、確かにそれじゃあアティとクレアは場違いだよね。アトスはお子様だし」


「じゃ、じゃあ」


「あたしはまあ、冒険者やって長いし、その手の場所も初めてってわけじゃないから、いいよ」


「よし!」


「はあ、それでも二人きりかぁ。やっぱり二人には言いにくいなぁ」


 何故困るんだ?

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