第82話頭をかかえる王様

 王都に戻った俺達は、その喧騒の只中にいた。


 都は大勢の人で賑わい、活気に満ちている。


 モンスターの襲来や、他国が侵略してくるなんて、誰一人として思ってもいないだろう。


「なんか、平和だな」


 俺はぽつりと呟いた。


「まだ国民には知らせていないんじゃないかしら?」


 アティはそう言って、頬に指を当て、首をかしげる。


 確かに、緊急事態ならともかく、時間に余裕があるのなら、知らせない方がいいのかも知れない。

 大パニックになるだろうからな。


 とすると、モンスターの襲来って線は消えるな。


 奴らが来たら、時間的余裕なんてないだろうし。


「とにかく、王様に会いに行こうか」


 推論など、直接聞く真実の前には意味のないことだ。

 それが信用に値する人間であるならば。


 俺達は城へと向かった。


*********


 謁見の間に案内されるかと思ったが、俺達は小部屋に案内された。


 ピンと来たぞ。

 つまりは大声では言えない話というわけか。


 そして、ガチャリとドアの開く音がして、王様が姿を現した。

 王冠も、豪奢な服も身につけていない。

 無論、上物ではあるだろうが、シックなシャツとズボンというラフな格好だ。


「お父様!」


「おうアティ。元気にしていたか?」


 そう言って二人は抱擁と、頬にキスをした。


「勇者達よ、此度は呼び出して済まなかった。まあ、かけてくれ」


 王様に着席を促され、俺達は先に座る。

 王様も席につく。


 今気がついたが、目にクマが出来ているな。


 心なしか、憔悴しているようにも見える。


「お父様。何処か悪いの?」


 俺にも気がつくことを、娘であるアティが気づかないわけがない。

 彼女は心配して声をかける。


 対して、王様は苦笑いをした。


「すまんなアティ。いや、俺は大丈夫だ。大丈夫なんだが・・・」


 ふー、と、王様はため息をついた。


「困ったことになった」


「一体何があったの?」


「レキスターシャ公爵を覚えているか?」


「え? ええ、勿論」


 アティは頷く。


「お前達はどうだ? 彼のことを知っているか?」


 王様はアティ以外の、つまり俺達に尋ねる。


「知ってます」


「存じています」


 アトスとクレイは答える。


 まあ、この二人は勇者と聖女だから、知る機会があったんだろう。


「俺も知っています」


「あたしも、名前だけなら」


 俺とステラもそう答えた。


 多分俺もステラと同じくらいの知識なんだろうな。


「知っているなら話は早い。我が国に存在する四大公爵の一人、その中でも最も武力を有しているのがレキスターシャ公だ」


「あの人が、何かしたの?」


「もしかしたら、事を構えるかもしれん」


 国の危機と予め聞かされていたので、ある程度の覚悟は出来ていた。


 そうか、相手は外敵ではなく、内にあったのか。


「どうして? 彼はお父様に仕える素晴らしい軍人じゃない。レキスターシャ将軍と言えば、敵対している国の人は震え上がるわ!」


 アティが声を荒げると、王様は手で勢いを制し、重い口を開く。


「事の中心にいるのは彼ではない。その娘、アターシャ嬢なのだ」


「・・・彼女が?」


 アティが眉間に皺を寄せる。


 流石に娘の名前までは知らない。

 俺はアティに尋ねてみる。


「知っているのかアティ?」


「うーん。あたしも社交会で一度会っただけなんだけど。深層の令嬢って感じかな。こう、シャナリシャナリと歩く感じで」


「なるほどな」


「あたしだって、出る所に出ればそれなりに出来るけど、普段はこんなじゃない? だから『あ、合わないわこの子』と思ったわ。あたしなんかよりよっぽど姫って感じの子よ」


 確かに、それじゃあアティとは合わないだろうな。


「それで? なんであの子が関係してくるの?」


 アティが王様に尋ねる。


「実は彼女に恋人が出来たらしい」


 ん?

 話が見えてこないぞ?


「それがこの件とどう関わるの?」


「彼女はその恋人にぞっこんらしくてな。その恋人が『王国は悪だ』と言えば『なるほどそうなのか』と、なるらしい」


「はあ!?」


 俺もそう言いたい。

 なんじゃそれは。


「そして、レキスターシャ公は娘を溺愛している。彼女が戦争を望めば、それを叶えたいと思っているのだろう」


「ちょ、ちょっと待って。それじゃあ、あの脳内お花畑の馬鹿娘の我儘で、この国は戦争をしようとしているの!!」


 馬鹿な。

 そんな理由で多くの血が流れるのか?


「いや、その恋人ってのがそもそも頭イカれてんのよ。誰よそいつ!?」


「お前達もよく知る人物だ」


 ・・・おい。


 おいおいおい、まさか!!


「察したかレオダス。そうだ」


 王様は一度言葉を切る。


「セリシオだ」

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