第81話王国の危機
「王国の危機だって?」
俺は背筋が凍った。
なんだそれは?
一体何が起こっているんだ?
真っ先に考えたのは魔王の軍勢だ。
魔王。
それは魔界を支配し、魔界の住人を従える魔族の王。
俺が生まれる遥か以前から存在しているとされる魔王は、何千年も生きているのか、あるいは代替わりを繰り返しているのかは定かではないが、長い間魔界を統治している。
その魔界は、ここより遥か北にある。
ある一定の地域に来ると、魔力が禍々しくなり、人間には瘴気と呼ばれるそれへと変わる。
急に死んでしまうことはないが、体調を悪くし、住むなど出来ない土地なので、人間がそちらに開拓することはないが、あちらは違う。
こちらの肥沃な大地を狙い、版図を広げるべく、ずっと戦いを繰り返してきた。
最前線では今も戦いを続けているし、実は俺も一度はその戦いに身を投じたこともある。
俺が参加したのは一度きりの遠征だったけど、今なお、戦いは続いている。
だからこそ、俺達は旅をしている。
この戦いに終止符を打つため、魔王討伐の手がかりを集め、貴重なアイテムを収集し、手ごわい魔族、モンスターを倒しながら、徐々に魔王の軍勢の力を削いでいたのだが、それよりも早く、あちらが大規模な侵攻を開始してきたとしたら?
それは王国どころか、世界を巻き込んだ大戦争となる。
アトスをちらりと見た。
考えていることは同じなようで顔が真っ青だ。
だが、
「あ、いえ。皆さんの考えは解りますが、魔王とは関係がないようです」
「そうなのか?」
意外にもあっさりと、最悪のイメージが騎士によって払拭された。
「それならば、自分にも戦争準備の声がかかる筈。そんな命令は受けておりません」
「なるほど」
確かに、そうなれば騎士には伝わっているはずだな。
「じゃあ、一体国家の危機とはなんなんだ?」
「その、自分には分りかねるのですが」
「君の考えでいい」
無茶ぶりだったか?
まあ、考えの取っ掛かりでも掴めれば。
「その、政治の話ではないか、と」
「「「政治?」」」
なんだそれ?
「その、俺達は言ってみれば戦闘集団だ。政治関係で役立てるとは思えないんだが?」
「し、失礼しました。王から指令を受けた際に、自分が感じた印象ですので、気になさらないよう」
「ああいや、責めているわけじゃないから」
しかし、政治か。
もしや、人間同士の戦争?
それならば確かに、武力行使になる前に、外交で解決できなかったのだから政治と言えるだろうが。
それにだ、政治というならば、ここで一番関わりがありそうなのは、王女であるアティなのだが、この騎士は“勇者一行”に話しかけた。
アティではなく、だ。
アティは俺の視線に気が付き、俺と同じ考えを持ったようだが、首を横に振る。
心当たりなし、か。
「まあ、とにかくだ。王様からの召還じゃ、行かないわけにはいかない。さっそく準備しよう」
「おお、よろしくお願いします」
騎士は頭を下げる。
その騎士に俺は言った。
「疲れているだろうが、早馬で君は一足先に行って、俺達もすぐに向かうと伝えてくれないか?」
「はっ! 了解いたしました」
そう言って、騎士は素早く大衆食堂から出て行った。
その後で、俺達は顔を突き合わせる。
「どう思う?」
俺がまず誰ともなく尋ねると、アティは首を捻る。
「うーん。あの騎士さんの話を鵜呑みには出来ないけど、魔王関係じゃないとして、国家の危機かー。とすると確かに政治になるのかなー」
「心当たりはまるでないのか?」
尋ねるとすんなりコクリと頷く。
「少なくとも、あたしが王宮にいる時に、そんなきな臭い話は出ていなかったわ」
「そうか、それは安心材料だ」
しかし、さっきも言ったが、俺達は戦闘集団だ。
武力が必要な戦争じゃないとすると一体なのだ?
あるいは、急激に関係が悪くなって国がいるっていうのか?
「レオダス」
クレアが俺を見る。
「ここで考えていても仕方ありません。すぐに王都に向かいましょう」
「そうだな」
頷き、アトスを見る。
「冒険は一時中断だ。行けるな、アトス」
「うん」
「よし、戻るぞ。王都に」
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