第80話賢者サイド 実家に戻ってみたら

 私は王都から少し離れた位置にある、実家へとやって来ました。


 王都の脱出はそれ程困難ではありませんでした。


 闇回復術士が教えてくれた裏道を使って、あっさりと外に出られたのです。

 まあ、またぼったくられましたが・・・。


 ですが、問題が発生しました。


 なんと我が家の門の前に、騎士が立っていたのです。


 我が家で雇っている私兵ではありません。


 正規の騎士です。


 くっ、まさか実家に張り付いていたとは。


 私よりも早く、早馬を使いましたか。


 まあ、立っているのは数名のようです。


 この天才賢者である私にかかれば、容易く殺せるでしょうが、ここで騒ぎを大きくしては不味い。


 ならばどうするか?


 ふっ、賢者な私は既に回答を見つけています。


 私は家からほど近い茂みにやって来ると、そこにあった大きな石をどかしました。


 ふぅ。

 この私が力仕事などを。


 すると、そのどかした石の下から、隠し通路が現れました。


 そう。

 我が家には隠し通路があったのです。


 フフフ、愚かな騎士共よ。

 ずっとそこで突っ立っていなさい。


 私は隠し階段から、悠々と家までやって来ました。


 ここは暖炉の下なのです。

 くそ、埃っぽいですね。

 この私が灰にまみれるなど、本来は有り得ないことなのです。

 これも全てレオダスのせい。


 私はそっと暖炉から出ると、先ずは書庫へと向かいました。


 しかしそこで、


「何者だ!」


「っつ」


 誰かに呼び止められました。


 まさか、騎士?


 恥知らずにも家の中まで入っていたのですか?


 生唾を飲み、ゆっくりと振り返ると、そこにいたのは騎士ではありませんでした。


「ああ、アルフレッドでしたか」


「お、お前、セリシオ!」


 そこにいたのは我が愚兄、アルフレッドでした。


 我が兄にも関わらず、その能力は平々凡々。


 全く何の能力にも長けていない男です。


 まあ、天才である私に並び立つなど不可能なのですが、もう少しまともであってほしいものです。


 だからこそ、この私が子供勇者などと旅をして、名声を得なければならなかったのですがね。


 ん?


 そう考えると、私の今の境遇はこの男が無能なのがそもそもの原因ではないでしょうか?

 *例えどれだけの名家であろうとも、更なる名声を得るためにセリシオは行動していたであろうが、本人はそれに気が付かない。


「アルフレッド。あまり大きな声を出さないで下さい。今の状況が解っていないのですか?」


 まったく、外にいる騎士に聞かれたらどうするつもりなのですか、馬鹿め。


 するとアルフレッドはズカズカとこちらにやって来ると、いいなり拳を振り上げた。


「えぶしぃ!?」


 なんとこの男、いきなり私を殴った。


 私は尻餅をつき、殴られた頬を押さえる。


「何をする!!」


「大声を出さないほうがいいんじゃないのか?」


「ぐっ」


 私はゆっくりと立ち上がりました。


 うう、頬が痛い。


「『何をする』だと? それはこっちのセリフだ。王都から騎士がやって来たぞ。貴様が叛乱を起こし、国王陛下の殺害を目論んだとな!」


「それは・・・」


「本来ならば、我が家は一同縛り首だ。だがな。陛下は寛大なお方。非は全て貴様にあるとし、貴族としての地位は剥奪されるも、財産までは取らないと仰せだ」


「財産は取らない?」


 おや、財産も没収と言っていた筈ですが?


「言っておくが、貴様にくれてやる金など、一番安い銅貨一枚もないぞ」


「なっ! 馬鹿な!」


 何を言っているのですかこの男。


「何を驚いている。当たり前だろうが。我が家をどん底に叩き込んだ張本人にくれてやる金などあるものか!」


「こ、この家の金ならば、共同財産でしょう」


「まだ理解が追い付いていないのか。当然、貴様はこの家から追放だ!」


「追放!? 私を家から追放ですって!?」


 そんな馬鹿な。

 勇者パーティーを追放され、家まで・・・。


「追放と言うならば、共同財産の一部はこの私のものである筈。それを寄こしなさい!」


 アルフレッドは鼻で笑う。


「追放された身分でそんな金を与えてやる義理などあると思うのか?」


 お、己この愚兄め。

 なんと慈悲のない男でしょう。

 この私でさえ、レオダスに銀貨を与えてやったというのに。


「幸いにも家の外には騎士が張り付いている。お前を突き出せば、心象も少しは良くなるかもしれんな」


「ま、待て、待ってください」


「なんだ? この期に及んで家族の情に訴えるつもりではあるまいな?」


 それも一つの手ですが、この愚兄に頭を下げるなど、私の誇りが・・・。


「そうではありません。ねえ、アルフレッド兄さん。再起を図るつもりはありませんか?」


「・・・なんだと?」


 フッ、愚かな。

 疑いの眼差しではありますが、乗ってきましたね。

 所詮この男の器などこんなもの。


「私にはある計画があります。それに乗ってください」


「なんだ、その計画とは?」


「聞く気になりましたか?」


「・・・話だけは聞いてやる」


 ふふ、もうこの男は私の掌の上です。


「それはですねー」

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