第77話異世界からの来訪者終

 俺達は構える。


 同時に、悪魔の魔法も完成したらしい。


 極大の黒の塊が俺達の向かった放たれた。


「「「おおおおおおおおおお!!」」」


 裂帛と共に振り下ろす剣から、白の斬撃が飛ぶ。


 白と黒、二つのエネルギーが激突。


 だが、拮抗はしなかった。


 白は瞬時に黒を切り裂き、その先にある悪魔を瞬く間に両断。

 刹那の抵抗も許さず滅ぼしたのだ。


「・・・マジか」


「す、凄い」


 俺とアトスは、自分達の剣を見る。


 あれだけの力が、自分達から出せたことが信じられない。


 いや、違うか。


 全てはスティーグのおかげ。


 俺はスティーグに視線を移す。


 既に事は終わったと、再びだらしない姿勢に戻り、首をコキコキと左右に揺らしている。


 こいつと、こいつの剣を見る。


 三分割に分けたが、もしそれをしなければ、どれだけの力になっていたのだろう。


 思わずぶるりと震えた。


「さて、これで終わったかな?」


俺の気持ちなど知らず、スティーグは目をスッと閉じた。


 目を閉じて、辺りの気配を探っているのだろう。


 俺も同じように辺りを見渡す。


「まあ、大丈夫だな」


 確信したのか、スティーグは目を開けた。


 俺も確信した。

 悪魔はもういない。

 俺達はやりきったのだ。


「とすると、俺の役目も終わりのはずなんだが」


「え?」


 ああ、そういえば今回限りと言っていたな。


 そう思い返していると、空間が歪んだ。


「また、あの時の」


 アティがそう言った通り、ブォンと空間がぱくりと開いて、黒い扉のようなものが現れる。


「まったく、タイミングがいいことで」


 スティーグは頭をかくと、扉の前に立った。


「も、もう行くのか?」


 こんなあっさりと別れてしまうのか?


「ああ、あいつら、生徒らに授業をしないといけないからな」


 意外にも教育熱心なようだ。


「じゃあな、今回はイレギュラーだが、お前らならやっていけるだろ。多分」


 そこは言い切ってほしかった。


「あのだ、スティーグ。今回はあんたがいなかったら多分無理だった。その色々あったが、感謝する」


「ああ、精々感謝しろ」


 この辺がこいつらしい。


「まあ? あたしはやれたと思うけど楽は出来たわ。あ、あ、ありがと?」


 と、アティが言う。


「うーん。あたしはシビアなんで正直言うと、さっきはやばかったから、ありがとうと言わせてもらうしかないなあ」


 と、ステラ。


「私は本当に感謝しています。スティーグさん。ありがとうございました」


 と、クレア。


「あの、僕も感謝するよ。アドバイスも含めて。本当はもっといてほしいんだけど」


 そうアトスは言ったのだが、これにスティーグは首を横に振る。


「悪いが、俺にも俺の生活があるんでね」


「・・・うん。そうだよね。解ってるよ」


 解ってはいたのだろうが、やはり落ち込んでいるようだ。


「スティーグ」


 俺はスティーグの目を見る。


「ありがとう。あんたがいてくれてよかった」


 そう言って、俺は握手を求める。


 スティーグは目を丸くしたが、面倒くさそうに(照れている、と思いたい)手を握り返してくれた。


「ああ、これは少ないが」


 俺は懐から小さな金きんを取り出す。


「貨幣はあんたの世界じゃ使えないだろうが、金ならそっちでも価値があるだろうか?」


「おお! あるある、サンキュー!」


 一番の笑顔を見せ、金を光の速さでぶんどった。


 やっぱり、返してもらおうかなぁ。


「まあ、俺としても短い間ながら、お前らといて退屈はしなかったぞ。だが、早く帰ってやらないと俺の女達が心配する」


 ん? 女、達?


「あんた恋人? が、いるのか? 複数??」


「ああ、ひーふーみー、何人か」


「数えるな! どれだけいるんだ!」


「えー、まずは生徒の五人だろ? それとー」


「待て、ちょっと待て。生徒に手を出してるのか!!」


「そうだが?」


「うわ、マジ最悪だわこいつ」


「死ねばいいのに」


「あ、はは。誠実な人がいいと思いますよー」


 アティ、ステラ、クレアが口々にそう言った。


 スティーグはそよ風のように、女性の声を聞き流し、ぷらぷらと手を振って、空間の中に入っていく。


「「この、最低のクズ野郎ーーーー!!」」


 アティとステラが叫ぶも、瞬時に扉は閉じて、何もない景色が戻っていった。


「行っちゃいましたね」


 名残惜しそうに、クレアがぽつりと呟く。


「まあ、これは俺達の物語だ。今回は手を貸してもらったが、後は俺達でなんとかしなければならない」


 そう言うと、皆が頷く。


 ありがとう、スティーグ。


*********


「ありがとうスティーグ。お疲れ様」


「いやー、本当に疲れました、もうやりませんよ」


「さてー、それはどうでしょう?」


「おい、マジで勘弁してくれ・・・」


「ああ、私悲しい」


「脅迫か!」


「コホン。さて、そろそろ貴方の居場所に戻してあげますね」


「そうして下さい。ふっふ、臨時収入が入ったから今日は御馳走だな」


「あ、その金は没収です」


「はぁ!? なんで!」


「原則、異世界の物を持ち込むのは禁止です」


「そんなバカな!」


「それでは返してあげましょうね」


「ああ、金が消えた! ま、待ってくれ!!」


「またねスティーグ」


「もう嫌だー、金返せー!!」


*********


「あー、どこに行っていたんですか先生。探したんですよ」


「悪いなクレア。ちょっとした小旅行に行っていた」


「戻って来たー。来ちゃったー。いや、いいんだけどね。今日は訓練さぼれると思ったんだけどなー」


「阿呆。その時は後日もっと厳しい授業をするぞステラ」


「うへ~」


「いったい何処へ行っていたんですお兄様。心配しました。これからは何処かへ行く時には一言、言ってください」


「悪かったなアティシア。まあ、今回は事故みたいなもんだ」


「なんですか事故って」


「事故は事故だ。まったくいつまでも甘えん坊だなー」


「ち、ちがっ! 違います!!」


「あー、はい。分かった分かった。じゃあお前ら、今日も授業を始めるぞ」


ーーーーーーーーーーーーー


ご愛読ありがとうございました。


これにて外伝、異世界からの来訪者は終了となります。


次回からは本編に戻ります。


もし、スティーグを気に入ってくれた方は「最強教師は最低のクズ野郎〜」を読んでくれると嬉しいです。

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